[原子力産業新聞] 2004年1月29日 第2220号 <3面>

[コスト等検討小委報] バックエンド事業費と原子力の収益性

 1面所報のとおり、電気事業分科会は23日、コスト等検討小委員会が検討を行ってきたバックエンド事業費の見積もりおよび原子力発電全般の収益性について、報告を受けた。同報告書の概要を紹介する。

 他電源発電コストと遜色なし はじめに

 昨年2月の総合資源エネルギー調査会電気事業分科会報告「今後の望ましい電気事業制度の骨格について」では、バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等を分析・評価する場を立ち上げ、その結果を踏まえ、官民の役割分担の在り方、既存の制度との整合性等を整理の上、平成16年末を目途に、経済的措置等の具体的な制度・措置の在り方について必要性を含め検討することとされた。

 このうち、バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等を分析・評価する場として、昨年9月に総合資源エネルギー調査会電気事業分科会の下に本小委員会が設置された。

 本小委員会では、電気事業者によるバックエンド事業の費用見積もりを基にそのコスト構造について分析・評価を行うとともに、その費用見積もり等を基に電気事業者が行った原子力発電及びその他の電源の発電原価に関する試算を用いて原子力発電全体の収益性等の分析・評価を行った。

 バックエンド事業全般のコスト構造について

 分析・評価の方法

 本小委員会は、電気事業者等によって進められている現在のバックエンド事業が、現行の原子力長期計画等に沿って今後とも計画的に実施されることを基本的前提とし、そのコスト構造を分析・評価することとした。したがって、バックエンド事業が長期にわたり計画外の状態となるような場合までは想定していない。また、我が国のバックエンド事業の実際上の当事者である電気事業者から、その事業のスケジュールや費用見積もりなどに関する説明を受け、この分析・評価を進めることとした。

 分析・評価に当たっては、費用見積もりの基本的前提とされた想定スケジュールや費用見積もりの範囲と原子力長期計画等に定める基本方針との整合性、廃棄物の量や処分方法、設備・建屋の解体工数等の技術的想定の合理性について検討するとともに、費用の構造やその発生時期に関する特徴を分析した。また、技術的想定の置き方等によって費用見積もりが変動する可能性があることにも着目し、主な変動要因とその影響を分析した。

電気事業者の見積もり概要

 今回の電気事業者による試算においては、青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場の操業期間を竣工(2006年7月)から2046年度末までの約40年間とし、その間に再処理される使用済燃料の量を約3.2万トンと想定、これに基づき、再処理事業、再処理により分離されるプルトニウムを用いるMOX燃料加工事業やこれらの施設の廃止措置、関係放射性廃棄物の処分事業、六ヶ所再処理工場で再処理される使用済燃料を超える使用済燃料の中間貯蔵事業などの各事業のスケジュールを想定している(図1)。電気事業者試算によれば、2005年4月以降に各事業に要すると見込まれる費用は表1に示すとおりである。

費用見積もりの分析・評価

 費用の構造について

 再処理事業費用は、約11兆円と他の事業に比して大きい。高レベル放射性廃棄物処分事業費用がこれに続いているが、約2.5兆円であり、他の事業は多くても1兆円前後かそれ以下である。

 再処理事業費用約11兆円のうち約9.5兆円が操業費用であり、うち運転保守費が約38%、建設等投資額(減価償却費)が約36%となっている(円グラフ)。操業初期の15年間は機械・装置の減価償却の影響が強く反映されるため建設等投資額が大きいが、16年目以降は運転保守費が大きく、中でも点検保守費が大きな割合を占める。

 MOX燃料加工事業費用約1.2兆円のうち、最も大きな割合を占めるのは運転保守費で約67%、建設等投資額は約15%となっている。

 返還廃棄物管理事業や使用済燃料中間貯蔵事業では、貯蔵に要する費用が大半であり、返還高レベル放射性廃棄物管理事業、返還低レベル放射性廃棄物管理事業でそれぞれ約89%、約61%となっている。使用済燃料中間貯蔵事業では、貯蔵のためのキヤスクに要する費用が大きく、約62%を占めている。

 TRU廃棄物地層処分費用約8100億円については、地質環境が堆積岩、結晶質岩のいずれの場合においても、技術開発費や調査・用地取得費などを含む建設費の割合が約50%を占めている。これらの費用はほとんど操業前に支出され、操業後坑道閉鎖までの数十年間の支出は年間100億円弱、坑道閉鎖後は、モニタリング費用等に年数億円程度の支出となっている。

 費用見積もりに係る変動要因の分析・評価

 安全規制・基準の動向により費用が変動するもの、数十年程度先以降に実施されるものなどについては、技術的想定の置き方によって費用見積もりが変動し得ると考えられる。また、電気事業者等による合理化努力や技術開発の進展によっても費用が低減できる可能性があると考えられる。

 そこで、@安全規制・基準の動向による変動、A技術開発の進展による費用の低減、B事業内容の合理化、事業実施の不確定性等による費用の変動に特に着目し、どのような要因でどのような費用が変動し、費用見積もり結果にどのような影響を与える可能性があるかを検討することとし、電気事業者から、考え得る主なケースについて説明を受け、これを基に分析・評価を行った。

 技術的想定の置き方によっても費用見積もり結果が大きく変動するものではなく、したがって、今回の費用見積もり結果をバックエンド事業のコスト構造を理解する上で基本ケースとして考えることに大きな問題はないと考えられる。また、こうした変動要因の分析・評価によって、電気事業者等による合理化努力や技術開発の進展によって費用が低減できる可能性があるケースが具体的に明らかとなった。

結論

 費用見積もりの基本的前提である想定スケジュールや費用見積もりの範囲は、原子力長期計画等に定める基本方針と整合的であると評価できる。また、実施が数十年程度先以降となるもの等について、先行事例や現在の知見を基に置いた一定の技術的想定についても合理性があると評価できる。また、技術的想定の置き方によっても費用見積もり結果が大きく変動するものではなかった。

 これらのことから、電気事業者試算は、現時点では合理的な方法により見積もられたものであり、その結果にも一定の合理性があると判断してよいと考えられ、バックエンド事業のコスト構造を理解する上で基本ケースとして考えることに大きな問題はないと評価できる。この費用見積もり結果とその年度推移を用いて原子力発電全体の収益性の分析・評価を行うことは適当と判断してよいと考えられる。

 原子力発電の収益性

 原子力を始めとする各種電源によって供給される電力は、最終的に需要家に供給される段階では、電源による差別性がないことが特徴と言える。したがって、それぞれの電源の収益性を論ずるに当たっては、それぞれの電源による発電コストを比較するのが有力な方法と考えられる。

 モデルプラントは、条件に合うものを選択し、それらモデルプラントの平均値を使用した。運転年数については、次の理由から、40年と法定耐用年数の2つのケースの試算を行った。設備利用率については、原子力発電との比較の観点から、70%、80%とした場合の試算を行い、加えて、その他各種電源の実績等を踏まえた試算を行った。

 割引率は、経済情勢などにより変わりうるものであることから、幅広く0%、1%、2%、3%、4%と設定し、試算した。

 核燃料サイクルコストは、原子力部会において用いられたモデルに準拠して計算されている。

 発電コストの試算結果

 前提条件を様々に変化させた場合の発電コストの分析結果は、以下のとおり。

 @運転年数

 運転年数を変化させた場合の発電コストは、資本費の割合が高い原子力や石炭ほど運転年数を長期化させた場合の発電コストの低下が大きい。割引率が2%や3%の場合では、運転年数が10年台後半程度で、原子力、石炭、LNGの発電単価はほぼ等しくなるが、運転年数がそれ以上長くなればなるほど、原子力、次いで石炭が安くなる結果となっている。

 A設備利用率

 設備利用率を変化させた場合の発電コストは、資本費の割合が高い水力、原子力や石炭ほど設備利用率を上げた場合の発電コストの低下が大きい。運転年数40年で割引率が2%や3%の場合では、設備利用率が50%台辺りで、原子力、石炭、LNGの発電単価はほぼ等しくなるが、設備利用率がそれ以上高くなればなるほど、原子力、次いで石炭が安くなる結果となっている。

 まとめ

 原子力部会における試算と比較してみると、まず40年運転の場合について言えば、設備利用率80%の場合、割引率が1%以上で原子力の発電コストが引き続き最も安くなっている。

 法定耐用年数運転の場合で評価すれば、原子力部会で行った試算と比較し、設備利用率80%で見た場合、石炭が原子力と比べて割引率が3%で同等、2%以下で発電コスト上有利になったように見えるが、その差がわずかであるとともに、今回の発電プラントの選定に当たって、石炭の場合、原子力部会のものと比べると全て最新鋭のものに置き換わっており、一方、原子力の場合は、モデルプラントの対象となる規模の新規の運転開始がなかったため全て前回と同じプラントを選定していることなどを考えると、1999年以降、石炭と原子力の発電コストに本質的な変化が生じたとは考えにくい。ちなみに、LNGについては、原子力部会では、設備利用率80%で試算したどの割引率でも原子力より安かったが、今回の試算ではその差は縮まっている。

 このように、前回との比較を行い、さらに上記各論でみたような様々なケースについて分析・評価を行った結果、原子力発電全体の収益性等の分析・評価としては、他の電源との比較において遜色はないという従来の評価を変えるような事態は生じていないと結論づけることができる。


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