[原子力産業新聞] 2004年2月19日 第2223号 <3面> |
[レポート] スペイン原子力の今 @スペイン・バルセロナから、廃炉作業中のバンデリョス原子力発電所1号機を訪れた。スペインでは9基・788万kWの原子力発電所が運転中だが、バンデリョス1号機では1991年から同国で初めての廃炉が進められている。 むき出しの岩肌の間に松の木が生えている乾燥地帯を、バルセロナから地中海沿いに高速道路で西へ約1時間半、さらに一般道で20分ほど行くと、バンデリョス・サイトに到着する。現在1号機を所有するのは放射性廃棄物管理公社(ENRESA)だ。 1号機は仏設計による黒鉛減速・炭酸ガス冷却炉で、出力は50万kW。1972年に運転を開始したものの、1989年にタービン翼損傷からタービン室でオイル火災が発生。その後、政府による安全性再検討の結果、運転再開のためには、日本円で300億円以上かかる大規模な改修が必要なことが判り、所有する電力会社は、改造工事後の運転許可期間8年間を考慮すると、経済的に引き合わないとして、1990年に廃炉を決めた。廃炉作業は「レベル1」として、1991〜97年にかけ、使用済み燃料の仏への搬出、タービン建屋等、非原子力部分の解体が行われた。 1998年からの「レベル2」では、高さ80メートルの原子炉建屋が解体され、2003年初頭までには、コンクリート製の炉心を覆う、高さ57メートルの「保護建屋」が新たに建設された(=写真左、手前は1号機で使われていたタービン)。炉心は、この新建屋に包まれ、25年後の解体まで長い眠りについている。 エレベータで57メートルの保護建屋屋上に登ってみる。眼前に地中海を望む広大な風景。500メートルほど先には、運転中の2号機が小さく見える。案内の発電所担当者が、1号機北側の空き地を指さす。「政府が国際熱核融合実験炉(ITER)の建設サイト候補地として買い取った場所です。結局だめでしたけどね」。 緑と青に塗られた保護建屋は、鉄骨と波鉄板で作られた簡単な建物。今後25年間、雨風から炉心部分を守るのが目的だ。 炉心部分には1万1000トンの黒鉛をはじめ、8万5000トンの構造物が残されている。炉心の金属パイプに多く残るコバルト60を減衰させるため、炉心解体とサイトを更地にする「レベル3」は2027年頃開始の予定だ。そのころには炉心の放射能量は、当初の5%程度に下がっているという。「そのころには、隣の2号機も廃炉の時期を迎えていますしね」。1988年に運開したバンデリョス2号機(108万kW、WH社製PWR)は、与えられた40年間の運転期間を全うすれば、2028年には停止の予定。原子力に対する世論が厳しいことから、運転延長は難しいともいう。 2027年までの眠りについている1号機では、今も25名程度の職員が常駐、放射能モニタリングや放射性廃棄物の搬出など行っている。スペインでは、全電力利用者から、電源にかかわらず基金への拠出金を集めており、廃炉には発電コストの0.2%程度、廃棄物処理処分には同0.6%程度が集められている。原子力発電コストに占める廃炉費と廃棄物処理処分費は、原子力発電コストの約3.2%程度と推定される。(文・写真とも喜多智彦記者。写真右上はバルセロナのサグラダ・ファミリア教会)
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