[原子力産業新聞] 2004年2月26日 第2224号 <2面>

[シリーズ] 原子力広報に関する国際会議(1)

 本紙既報の通り、スペイン・バルセロナで9〜11日、欧州原子力学会(ENS)は、原子力広報に関する国際会議「PIME2004」を開催した。この会合でP・ヘーレン・スイス原子力協会(SVA)事務局長が行った「説得への3か月――スイス国民投票での勝利」と題する発表を、今号から3回にわたり紹介する。ヘーレン氏は、スイスで昨年5月に行われた国民投票で、2件の反原子力発議を否決に追い込んだ経験をふり返り、「原子力の弁護や利点の宣伝をするな」、「原子力安全性に関して反対派と議論するな」など、従来の常識を覆す発表を行い、会場から大きな反響を呼んだ。

段階的廃止、大差で否決

 2003年5月18日に行なわれた国民投票において、スイスの有権者は、2つの反原子力発議案を大差で退けた。これらの発議案はどちらも、水力発電60%、原子力発電40%という現在のスイスのエネルギー・ミックスから、原子力を段階的に廃止することを提言としたものであった。

 「原子力のない電力」という名前で知られている発議案は、反対66%、賛成34%で否決された。もしこの発議案が可決されていたら、スイスは、以下の事柄を実施しなければならなかった。

▽ベツナウ原子力発電所1号機、2号機とミューレベルク原子力発電所を2005年までに、ゲスゲン原子力発電所を2009年までに、そしてライプシュタット原子力発電所を2014年までに停止する。

▽原子力発電所や火力発電所からの補充電力の輸入禁止。

▽使用済み燃料再処理の即時停止。

 「モラトリアム・プラス」として知られている2つ目の発議案は、反対58%、賛成42%で否決された。この発議案の内容は、以下の通りである。

▽原子力発電所の運転寿命について、国民投票で十年間の延長が承認されない限り、これを40年に制限する。

▽原子力発電所の出力増強や新たな原子力発電所、および研究炉の建設について、十年間のモラトリアム(停止)を実施する。

 投票率は約60%であった。この数字は、国民投票が毎年ほぼ4回実施されているスイスにおいては、比較的高い数字である。また、スイスではこのような議論の分かれる問題での投票においては、ごく僅差で決着がつくことが多いことから、今回の2つの段階的廃止発議案への反対票が66%と58%であったことは、我々が明らかな大勢を確保した、といえよう。

 どちらの発議案に対しても、反対票を投じた有権者に年齢差や男女差はなく、また言語地域間でも差はなかった。国内206州のうち、バーゼル都市準州だけが両発議案を承認し、1方バーゼル郊外準州は「モラトリアム・プラス」発議案のみを承認した。その他の州および半州は、どちらの発議案も否決した。

非常に難しい政治的提案

 「原子力なしの電力」という発議案は明らかに過激だったようで、有権者に支持される可能性はごく僅かであったが、「モラトリアム・プラス」発議案の方は非常に危険であった。この発議案は、「1990年から2000年まで、我々が何の問題もなく共存してきたルールを、もう十年だけ延長してみたらどうか」、というような、痛みを伴わない発議案のように見えるからである。しかも、1990年から2000年のモラトリアムは、既存の原子力発電所に何の影響も及ぼさなかったのである。

過去最高の結果

 このような難しい問題があったにもかかわらず、2003年の国民投票は、原子力エネルギーの支持という面で、最高の結果となった。

 1979年に行なわれた最初の反原子力発議案には、51%が反対票を投じた。1984年の2回目の反原子力発議案には、反対票を投じたのは55%だった。1990年には3番目の反原子力発議案が53%で否決された。しかし、1990年の国民投票では、原子力発電所の新規建設の許認可発行停止を求めたモラトリアム発議案が、55%で承認された。これら過去に行われた3回の国民投票において、スイス国内のフランス語圏およびイタリア語圏は常に、反原子力案を承認してきた。(続く)


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