[原子力産業新聞] 2004年3月11日 第2226号 <4面> |
[原産] 向こう10年間に何をすべきか本紙2月26日号1面所報のとおり、日本原子力産業会議・原子炉開発利用委員会は2月23日、今後10年間を見通した20項目の「提言」を発表した。この概要を紹介する。 はじめに原子力エネルギーの利用は、我が国のエネルギーセキュリティ確保や地球環境問題への対応上不可欠であり、我が国のエネルギー政策においても、原子燃料サイクルを含む原子力発電は基幹電源と位置づけられている。 原産は、原子力開発利用が将来とも我が国の経済および国民生活向上に一層の貢献をしていくものとの信念から、電力の自由化の進展等を始めとする近年の原子力を取り巻く環境の変化を踏まえて、「向こう10年間に何をすべきか」について、主要な現実の課題を引き出し、産業界の取り組みや国への要望を「提言」としてまとめた。 不断の配慮が必要な課題への提言原子力の開発利用には常に配慮が必要な課題が存在する。その主なものとしては、原子力技術の維持・継承と社会からの理解と信頼の獲得である。 技術の維持・継承 [提言1]原子力産業界は、技術の維持・継承方策を検討し、実行すべきである。 国は、産業界の技術維持・継承への努力を支援すべきであり、また、原子力の新規導入国に対して、必要な制度、安全基準等の整備や人材育成について積極的に助言・協力すべきである。 国および原子力産業界は、大学での原子力研究、教育を活性化する方策を検討・実施し、将来を担う人材の育成に貢献すべきである。 国民の相互理解と信頼 [提言2]原子力開発利用の当事者は、セイフティカルチャーがトップから末端に至るまで根付いていることを絶えず自己確認すべきである。 国および原子力産業界は、リスクコミュニケーションを着実に進めるべきである。 国は、学校教育や生涯教育の場においてエネルギー教育の充実、強化を図り、産業界は、これを支援していくべきである。 電力自由化への対応等 至近の課題への提言原子力開発利用の流れの中で、現時点で早急に取り組むべき課題について、以下、提言する。 自由化環境下での公正な競争条件の確保(a)外部コストの内部化 通常、発電のコストは、建設費、燃料費、運転・保守費のように、いわゆるコストとして内部化されたもののみの合計で示されている。実際には、発電所から外部に排出される物質による大気汚染や地球温暖化などの環境影響、エネルギーセキュリティへの貢献等の社会的影響など、コストに反映(内部化)されていない外部コストが存在する。 [提言3]国は、エネルギー利用に関する外部性評価研究を実施し、外部コストを市場において内部化することにより公平かつ公正な競争を確保するための制度整備を検討すべきである。 (b)バックエンド事業に関する仕組みづくり 国は、再処理や放射性廃棄物最終処分等の事業の長期性に鑑み、世代間の公平性を図る視点のもと、費用を適切に回収し、その費用を安全かつ透明に管理でき、弾力的かつ柔軟に活用できる法的枠組みを検討する必要がある。 [提言4]国は、バックエンド事業の特徴を踏まえ原子燃料サイクルを推進するとの観点から、公平性、公正性に配慮しつつ、適切な仕組みを整備すべきである。 (c)新規プラントの操業までの準備期間の短縮、手続きの簡素化 原子力発電所の新規建設には、立地の決断時点において操業開始後までを見通せることが必要であり、現在のように発電所立地点公表から発電開始まで平均15年程度も要するとなると、長期性に起因する不確実性が避けられず、事業者にとって建設を決断しにくい状況であると言えよう。 [提言5]国および原子力産業界は、原子力発電所建設の判断をしやすくするため、新たな経済規制環境に対応した規制環境のあり方を検討し、それに基づき、国は、所要の制度整備を実施すべきである。 適切な安全確保の仕組みと軽水炉の活用(a)新規制制度への対応 [提言6]原子力産業界は、自己責任に基づく自律的な安全確保への取り組みを1層推進すべきである。原子力産業界および学界は、科学的合理的な安全性・信頼性確保のために、現在の体制を変革し、一層実効性の高いものとすべきである。国は、事業者にインセンティブを与える方策も含め、科学的合理的な規制制度の整備を進めるべきである。国と原子力産業界は、こうした新しい規制制度や自主保安の状況について説明責任を果たすため、情報公開、情報提供を推進すべきである。 (b)軽水炉活用とプラントライフマネージメント推進 [提言7]原子力産業界は軽水炉のプラントライフマネージメントを推進し、安全確保を大前提に軽水炉を長期的に活用していくべきである。 原子燃料サイクルの推進(a)六ヶ所再処理工場の推進 [提言8]事業者は、六ヶ所再処理工場の安全・安定運転の確立に総力を尽くすべきであり、原子力産業界としても、これを支援していくべきである。国は、再処理事業に関して国際レベルに整合した科学的合理的規制を確立すべきである。 (b)プルサーマルの推進 [提言9]電気事業者は、地元の理解を得つつ、燃料品質管理の徹底などにより、プルサーマル計画を着実に推進すべきである。 (c)MOX燃料加工事業化 [提言10]事業者は、核燃料サイクル開発機構の経験を活かし、MOX燃料加工技術の向上に努めるべきである。国はMOX燃料加工事業に対して、厳格な保障措置の適用が必要であるが、操業への影響低減を配慮した効果的かつ効率的な保障措置の構築を図るべきである。 使用済燃料中間貯蔵の実現 [提言11]民間は、2010年頃の中間貯蔵実現に全力を尽くすべきである。国は、長期的な使用済燃料の取り扱いを政策的課題として取り組んでいくべきである。 放射性廃棄物対策の推進a.国際基準と整合のとれた科学的合理的な技術基準 [提言12]産業界は、クリアランスレベル以下の放射性廃棄物として取り扱う必要のない廃棄物について、積極的に再利用に取り組むべきである。国は低レベル放射性廃棄物の処理処分やクリアランスレベルの技術基準が国際基準と整合がとれた科学的合理的なものとなるよう検討を進めるべきである。 b.科学的合理的な放射性廃棄物取り扱い方策の採用 [提言13]国は廃棄物規制を、事業別規制から性状別規制に変更すべきである。国は、併置処分や単一返還等放射性廃棄物の処分を効率的に進められる方策実現のため、規制制度の見直しを検討すべきである。国は、放射性廃棄物のうち再利用可能なものについて、原子力事業所内における限定再利用等のための制度整備を進めるべきである。 原子力の研究開発a.軽水炉に関する技術基盤の維持 [提言14]新法人や原子炉メーカーは、軽水炉が基幹電源としての役割を維持するため研究開発を継続し、技術基盤を保持すべきである。国は、基盤技術や挑戦的な課題の探求等の研究開発に必要な支援を行うべきである。 b.原子燃料サイクル技術基盤の維持、技術開発 [提言15]日本原燃および核燃料サイクル開発機構および新法人は、協力して軽水炉再処理の技術基盤を保持すべきである。核燃料サイクル開発機構および新法人は、東海再処理施設で使用済MOX燃料再処理の実証研究を進めるべきである。 c.高速増殖炉サイクルの研究開発 (a)実用化に向けた研究開発の推進 [提言16]国は、高速増殖炉サイクルの実用化に向けた研究開発に積極的な役割を果たすべきであり、国際協調の下に推進すべきである。 (b)もんじゅの活用 [提言17]核燃料サイクル開発機構および新法人は、もんじゅを早期に運転再開し、所期の目的を達成するとともに、高速増殖炉サイクルの実用化に向けた運転保守性や経済性を追求する研究開発を実施すべきである。 d.放射性廃棄物処理処分の研究開発 [提言18]事業者及び原子力産業界は、放射性廃棄物の効率的な処理処分に関する技術開発を推進すべきである。 国及び関係機関は役割分担の具体化、効率的な推進に努め、処分技術の信頼性向上のための研究開発を着実に進めていくべきである。国は、放射性廃棄物の処理処分に関する基盤技術や安全基準整備のための研究開発を推進すべきである。また、処分を補完する技術の体系としての群分離・核変換技術の研究を進めるべきである。 e.新たな地平を拓く研究開発 [提言19]基礎・基盤段階の研究開発は、国の予算を活用し、計画的に遂行すべきである。研究開発の実施には、官民協力し、国際協調の下に取り組むべきである。国は、原子力を利用した水素製造など将来の地平を拓く原子力システムの開発について早急に評価を行い、わが国のエネルギー開発政策における位置付けを明確にすべきである。 原子力産業の活性化・輸出原子力を基幹電源として維持し続けるためには、健全な原子力産業を維持していくことが必要である。そのため近隣アジア諸国への原子力輸出は原子力産業界の活性化策および技術継承策として重要であり、また、国際貢献としても意義があると考えている。 [提言20]国は、近隣アジア諸国への我が国からの原子力機器や原子力技術の輸出に備え、原子力協定締結やファイナンス制度等の環境整備を行うべきである。 |