[原子力産業新聞] 2004年4月1日 第2229号 <3面>

[レポート] アジア/世界 エネルギーアウトルックの概要

日本エネルギー経済研究所は3月10日、第385回定例研究報告会を開催し、特別報告「アジア/世界エネルギーアウトルック─急成長するアジア経済と変化するエネルギー需給構造」を発表した。世界およびアジアにおける2020年までのエネルギー需給の将来像を、計量経済学的手法により定量的に描いたもので、今号では同報告の概要を、原子力を中心に紹介する。

冷戦終結後の世界経済においては、市場経済化や情報技術(IT)の進展などを背景にグローバル化が急速に進展した。そのなかで、アジア諸国は貿易と直接投資の急速な拡大、域内各国間で緊密な経済関係の構築、工業化の進展等により、高い経済成長を遂げ、いわゆる世界経済の成長センターとなっている。この経済発展の下で、アジア地域は世界のエネルギー需給においても大きなインパクトを持つ市場になっている。中長期的な世界のエネルギー需給を展望すると、アジア地域は今後引き続き高い経済成長が見込まれ、エネルギー需要も急速に増大していくものとみられる。したがって、アジア地域全体を視野に入れ、各国との協力の下、エネルギー需給安定の確保、エネルギー環境問題への対応を進めていくことが、わが国の今後の国際的なエネルギー政策を展開する上で極めて重要であると考えられる。

 

本研究の目的は、世界およびアジア地域における2020年までのエネルギー需給の将来像を、計量経済学的手法により定量的に描くことにある。特に、FTA等域内経済の緊密な相互依存が進展し、今後とも高い経済成長が期待されるアジア地域に焦点を当て、包括的なエネルギー経済に関する分析を行なった。

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【主要な結論】

1 経済・社会の見通し

世界経済の今後を展望すると、引き続きアジア経済が牽引役となり、今後も緩やかに成長するものと見込まれ、2000年から2020年にかけて世界全体で年率2・7%の成長となる。

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人口に関しては、経済発展に伴う発展途上国における出生率に低下傾向がうかがえるものの、世界人口は今後も増加基調で推移し、2000年の約62億人から2020年には77億人に達する。

原油価格の見通しについては、米国エネルギー省(EIA/DOE)発行の「Annual Energy Outlook(AEO)」等による価格想定を参考に設定した。長期的には石油生産コストの上昇に伴い原油価格は緩やかに上昇し、2010年24ドル/バレル、2020年27ドル/バレル(2000年価格)で推移すると設定した(名目価格では2010年29ドル/バレル、2020年40ドル/バレルで推移)。

天然ガス価格については、原油価格と連動する見方が一般的ではあるが、IEA等の諸機関の展望を参考に、長期的には新規のプロジェクトによる供給力が十分に存在することと、価格決定方式の弾力化などにより、原油価格ほど上昇はしないと想定した。石炭価格については、過去のトレンドから見ても原油価格とはそれ程強い相関関係にはないことから、将来価格はIEA等の見通しを参考にして、生産コストの緩やかな上昇のみを織り込み想定している。

2 世界のエネルギー需要展望 2・1 一次エネルギー消費の見通し

世界の一次エネルギー消費は2020年まで年率2.1%で増加し、1980年から2000年までの過去20年間の伸び(同1.7%)を大きく上回る。一次エネルギー消費は2000年の石油換算91億トンから2020年には136億と約1.5倍に達する。

2000年から2020年までのエネルギー消費増加分の約7割は、主に発展途上国を中心とする非OECD諸国によるもので、このうちアジア地域は増分の約2/3を占める。また、増加分の約3割は中国に由来する。

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2・2 化石燃料消費の見通し

化石燃料(石炭、石油、天然ガス)は、2000年から2020年までの一次エネルギー消費増加分の約9割に寄与し、今後も主要なエネルギー源としての役割を担い続ける。化石燃料の中でも、石油の増加が最も大きく、一次エネルギー消費増加分の35%を占め、ついで天然ガスが30%、石炭が26%のシェアを占める。

世界の石油消費は、2000年の7000万バレル/日から2020年の1億200万バレル/日へ年率1.9%で増加する。

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世界の天然ガス消費は、2000年の2兆3410億立方メートルから2020年の3兆8770億立方メートルへ増加し、年平均伸び率は化石燃料の中で最も高い年率2.6%が見込まれる。

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世界の石炭消費は、2000年の石油換算23億2500万トンから2020年には34億8900万トンへと、年率2.0%で増加する。

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2・3 その他の燃料消費の見通し

原子力は、2000年の石油換算6億7600万トンから2020年には7億8100万トンへと、年率0.7%で増加する。欧米をはじめとした先進国の発電分野における天然ガス利用が飛躍的に拡大し、原子力発電所の新規建設はほとんど見込めないことから、一次エネルギー消費に占めるシェアは2000年の8%から2020年の6%へ減少する。発電量の増加のほぼすべてがアジアを中心とする数カ国にとどまる。ただし、国内資源の埋蔵量の乏しい日本、韓国、台湾、さらには電力需要が急増する中国等の東アジア地域では、今後とも原子力の果たす役割は大きい。

水力、地熱や新エネ等に関しては、再生可能エネルギーとして、環境負荷が小さいことから大きな期待が寄せられており、一次エネルギー消費に占めるシェアは2000年の5%から2020年の6%にまで増加するが、供給コストが高く、供給が自然条件に左右され不安定であることから、化石資源と肩を並べる基幹エネルギーとしてエネルギー供給の一翼を担うまでには至らない。

2・4 最終エネルギー消費の見通し

高度なエネルギー利用形態である電力消費は、1980年から2000年の過去20年間において年率3.1%で急増しており、今後も2020年まで年率2・9%伸びで推移し、2020年には2000年の1.8倍にまで増加する。

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2・5 発電構成の見通し

2000年における世界の発電量のうち石炭火力が占めるシェアは39%と最大であり、残りが天然ガス火力、原子力、水力により供給されている。2020年にかけての発電構成は、天然ガス複合発電等の新技術の導入促進、環境負荷低減等の観点より、天然ガス火力へのシフトが進展する。

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原子力については、先進国において発電所の新規着工はほとんどなく、老朽設備も廃止される方向で検討されていることから、シェアは2000年の17%から2020年には11%にまで減少する。

3 アジアのエネルギー需給展望 3・1 一次エネルギー消費の見通し

アジアの一次エネルギー消費は、2020年まで年平均3.2%で増加し、2000年の石油換算24億トンから2020年には46億トンと1.9倍の規模に達する。

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3・2 化石燃料消費の見通し

アジアにおける化石燃料(石炭、石油、天然ガス)は、世界と同様、2000年から2020年までの一次エネルギー消費増加分の約9割を占め、今後も主要なエネルギー源としての役割を担い続ける。

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アジアの石油消費は、2000年の日量1900万バレルから2020年の同3500万バレルへ年率3.1%で増加する。

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アジアの天然ガス消費は、2000年の2630億立方メートルから2020年の6640億立方メートルと2.5倍の規模に増大し、化石燃料の中で最も高い伸びを示す(年率4.7%増)。

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(略)

3・3 その他の燃料消費の見通し

アジアの原子力は、2000年の石油換算1億3千2百万トンから2020年で同2億4千7百万トンへ、年率3・2%で増加する。世界的に見ても発電量の増加のほぼ全てがアジアに集中し、中国や、国内資源の埋蔵量の乏しい日本、韓国、インド等で増加する見込みである。アジアにおける原子力の増分の約5割を中国が占める。一次エネルギー消費に占めるシェアは2000年から2020年まで5%台で推移する。水力、地熱や新エネ等の一次エネルギー消費に占めるシェアは2000年の3%から2020年の4%にまで増加する。ただし、同地域では急速なエネルギー消費の増加が予測されるため、機動的で安定的なエネルギー供給源の確保が至上命題であり、自然条件により出力が不安定となる再生可能エネルギー源の利用は水力、地熱を除けば限定的なものにとどまる。

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3・4 最終エネルギー消費の見通し

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1980年から2000年において年率5・9%で急増しており、今後も2000年から2020年まで年率4.1%で増加する。

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3・5 発電構成の見通し

アジアでは石炭の国内資源が豊富であることから、2000年におけるアジアの発電量のうち石炭火力が占めるシェアは約5割を占め、残りが天然ガス火力、原子力、水力により満たされている。石油火力も約1割程度を占めている。2020年にかけての発電構成は、天然ガス複合発電の導入に伴い、天然ガス火力へのシフトが進展するものの、国内資源の有効活用などの観点より、石炭火力による発電も引き続き増加する。

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4 CO2排出量の見通し

世界の全体の2020年まで一次エネルギー消費のおよそ9割が化石燃料消費により満たされる結果、CO2排出量は2000年の炭素換算65億トンから2020年には同99億トンにまで増加し、一次エネルギー消費とほぼ同じ年率2.1%で推移し、約1.5倍に達する。この増加分の約7割は非OECD諸国に起因し、中国1国だけで約3割の増分に寄与する。

5 モータリゼーションの見通し

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6 アジアにおける原油、LNG需給

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7 インプリケーション

長期的には、アジアにおける石油の中東依存度が高まる一方で、天然ガスと石炭については、十分な供給能力が期待できる。アジアにおけるエネルギーセキュリティ、市場効率化、環境保全を同時達成するためには、各国のエネルギー賦存状況や地理的条件、経済発展段階に基づいた各国のエネルギーベストミックスの形成が重要である。域内全体におけるエネルギーのベストミックスを実現するためには、石油の安定供給を確保しつつ、天然ガスとともに石炭、原子力の有効活用が不可欠である。

アジアにとってのエネルギーセキュリティ確保

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●原子力は欧米先進国において発電所の新規着工はほとんどなく今後減少傾向で推移すると見られる一方、今後の原子力発電の増加のほぼ全てがアジアに集中している。相対的に国内資源の乏しいアジア地域では、安定供給の確保、環境問題の克服を進めるうえでも原子力の果たす役割は大きい。また、運用・管理も含めて、この分野における地域の協力も重要である。

いずれにしても、エネルギー供給源はいろいろなカードを持っておくことが重要で、エネルギーセキュリティ確保はもとより、競合燃料に対して価格交渉力を増すことにもつながる。

地球環境問題への対応

●中国やアジアの発展途上諸国におけるCO2排出量の急速な増加を見れば、環境制約に関して日本の国内対策の効果は限定的であり、エネルギー需要が増大するアジアを含めて技術のトランスファー等による環境負荷の削減を考えた方が、全体での効果は遙かに大きいと言える。

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