[原子力産業新聞] 2004年4月22日 第2232号 <2面> |
[原子力安全委] 2003年版原子力安全白書本紙既報のとおり、原子力安全委員会は9日、2003年版原子力安全白書を閣議に報告、公表した。今回の白書は、第1編「リスク情報を活用した原子力安全規制への取組み」、第2編「平成15年の動き」、第3編「原子力安全確保活動のための諸活動」および資料編からなる。同白書の概要版からハイライトを紹介する。 原子力が有するリスク及びこれまでの原子力施設の安全確保対策について 確率論的リスク評価の考慮原子力施設の安全規制における安全確保の考え方では、安全性に十分な安全余裕を確保することによって、原子力施設の安全設計に当たって考慮される設計基準事象を超えるような事象に対しても安全を確保するよう配慮しています。こうした配慮に加えて、航空機の落下等の特定の事象については、それぞれその発生確率に応じた対策の必要性が定められています。 また、原子炉施設の設計上想定している状態を超えて炉心が大きく損傷する恐れのある事態が発生することを仮定し、リスク評価を行ったうえ定めたアクシデントマネージメントが事業者の自主的活動として推奨されています。 安全確保・安全規制におけるリスク情報の活用(1)リスク評価の活用 リスクを顕在化させないための効果的な対策のためには、次のような検討が必要です。 (イ)リスクをどのようにして計るか。(定量的把握) (ロ)リスクの顕在化をどのようにして防止できるか。(低減策) (ハ)リスクはどこまで低減すれば十分か。(抑制水準) これらの検討には、最近進歩してきた発電用原子炉施設のリスクを定量的に算定する確率論的安全評価手法(PSA=Probabilistic Safety Assessment)が有用であり、特にリスクの抑制水準の検討については、発電用原子炉施設の安全に関する安全目標を定めることが必要です。 PSAには、データやモデルの持つ不確定性とともに、定量化が難しいリスク要因の取扱いには注意が必要であり、PSAの限界を十分に理解した上で多重防護の考え方も堅持し、確率論的方法によって決定論的方法を補完するように活用し、より確かな安全確保・安全規制が図られるようにすることが重要です。 (2)リスク情報を活用した安全確保・安全規制の考え方 原子炉施設等の設計から建設・運転段階にわたり種々の原子力安全規制・安全確保に関する改善がなされており、重大な事故のリスク低減の努力も払われてきました。今日では、発電用原子炉施設等の挙動についての理解や解析手法が着実に進み、また、発電用原子炉施設のリスクを定量的に把握する確率論的手法が進展してきたので、種々のリスク情報に着目した効果的で包括的な安全確保・安全規制の枠組みが検討できる状況になっています。 運転経験やトラブル等の経験のフイードバックにより安全性を向上していくとともに、リスクを事前に評価しその知見をフイードバックすることにより、リスクの顕在化を一層抑制する対策を取ることも重要です。 リスク情報を活用した原子力安全規制に向けた取組みについて 原子力安全規制におけるリスク情報活用の意義・重要性原子力安全規制におけるリスク情報の活用には、大きく分けて、次の2つの意義があります。 (1)安全規制の合理性、整合性、透明性の向上 (2)安全規制活動のための資源の適正配分 ○第1の安全規制の合理性、整合性、透明性の向上については、次のとおり。
○第2の安全規制のための資源の適正配分という点については、リスク情報を活用することによって、国の安全規制活動のための資源(人材・物資・資金)の適正配分を目指すことができます。国の予算で賄われる規制資源は、有効に活用することが重要です。 リスク情報、特に、リスクに対する寄与の高い異常な事象とそれに関連する系統・機器等に関する情報を活用した安全上の重要度を考慮して、例えば、検査の種類や頻度を見直すなど規制資源を適正に配分することにより、安全規制活動をより効果的・効率的に行うことができます。 リスク情報を活用した規制の導入のあり方とその具体例リスク情報を活用した規制の導入のあり方の基本は、以下のとおりです。 補完的導入 リスク情報を活用した規制は、多重防護の考え方を基本的に堅持しつつ、従来の工学的判断や決定論的評価に基づく安全規制を、定量的・確率論的な評価により得られるリスク情報を活用することによって補完し、より高度化させていくものです。 段階的導入 リスク情報を活用した発電用原子炉施設に対する安全規制は、まず初期の段階では、運転・保守段階の安全規制への導入の検討を中心に進めることが望まれます。その際は、当面、現行の安全水準の維持向上を図りつつ、相対的なリスク評価や運転実績等によるリスク情報を活用することが適当であると考えられます。相対的なリスク評価とは、安全確保の観点からみた施設の系統・機器等の相対的なリスクヘの寄与度を求めることを主たる目的とした評価を意味します。リスク情報を活用した安全規制の導入は、将来的には、現在検討を進めている安全目標(次章参照)を考慮に入れて、また、多重防護の考え方を適用する際の保守性にリスク情報を考慮することなどにより、設計、建設段階を含めた安全確保体制全体として、リスク情報を活用した安全規制の導入を体系的に検討していくことが目標になると考えられます。 諸外国におけるリスク情報を活用した規制の現状リスク情報の安全規制への活用については、我が国のみならず、世界的にその有用性が認識されており、先行して検討・運用がなされているアメリカはもとより、欧州主要国もリスク情報を様々な形で活用してきています。さらに、このような状況を踏まえ、国際原子力機関(IAEA)では、現在、リスク情報を活用した意思決定及び安全規制に関する指針類の策定に向けた積極的な検討を行っています。 導入に当たっての今後の取組み発電用原子炉施設においては、長年蓄積された運転経験や研究成果に基づきPSA技術が開発されるなど、リスク評価技術が向上してきており、それにより得られる定量的なリスク情報は、今後、安全規制に積極的に活用できます。 画一的ではなく、リスクの大きさや様態等の施設の特性や運転経験に応じて、安全確保・安全規制の合理性の向上等の観点から、まず有用性が期待される原子力施設に関し、優先的な導入を図ることが適当です。 原子力安全規制の新制度について 平成14年8月に原子力発電所の自主点検記録の不正等の問題が明らかとなり、国の安全規制に対する国民の信頼を大きく損なうこととなりました。問題の再発防止に万全を期すとともに、国際的な水準の安全規制を実現するため、同年12月に核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律等の改正において、規制行政庁から原子力安全委員会に対し、原子力施設に係る建設・運転に関する安全規制の実施状況についての定期的な報告(後続規制の実施状況の報告)等を行うことなどが義務付けられました。原子力安全確保に対する原子力安全委員会としての責任が制度的に強化されたものです。 第2編では抜本的に改革された新しい原子力安全規制を紹介しています。その主な特徴は以下のとおり。
原子力の安全目標とは「安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ」に示されている安全目標案の概要は、次のとおりです。 (1)定性的目標案 原子力利用活動によって放射線の放射や放射性物質の放散が発生した場合に、公衆の健康被害が発生する可能性は、公衆の日常的な生活に伴って発生する健康リスクを有意には増加させない程度(水準)に抑制されるべきである。 (2)定量的目標案 原子力施設の事故に起因する、施設の敷地境界付近の公衆の個人の放射線被ばくによる平均急性死亡リスクは、年あたり100万分の1程度を超えないように抑制されるべきである。 また、原子力施設の事故に起因する、施設からある範囲の距離にある公衆の個人の放射線被ばくによって生じ得るがんによる平均死亡リスクは、年あたり100万分の1程度を超えないように抑制されるべきである。 安全目標策定の目的・意義
安全目標の活用と今後の課題安全目標を達成するために、発電用原子炉施設であれば、大量の放射性物質を周辺環境に放散するような事故の発生確率や、原子炉の炉心の大規模な損傷の事故の発生確率をどの程度に抑制すればよいのかというような目標値を、前章のPSAにより導き出すことができます(このような目標値を性能目標といいます。)。こうして安全目標からPSAを活用して、発電用原子炉施設の個別の事故の容認できる抑制水準を明らかにすることにより、原子炉施設に備えられた容認できる安全機能の故障率や、事故の起因事象自体の発生確率を導き出すことができます。 これまで述べてきたように、安全目標を活用することにより、より科学的かつ合理的な判断の下に、我が国の安全規制活動を効果的に実施することが可能になります。しかしながら、安全目標を我が国の安全規制活動に的確に生かしていくためには、留意しなければならない点も多くあります。主な課題としては、
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