[原子力産業新聞] 2004年4月30日 第2233号 <4面> |
[原産] 年次大会セッション1 「どのような社会を目指すのか」セッション1では、「我々はどのような社会を目指すのか――エネルギー問題を他との連鎖の中で考える」と題して、茅陽一東大名誉教授を議長に、柴田昌治.日本経団連副会長が基調講演、続いてパネリストとして加藤秀樹.構想日本代表、鈴木基之.放送大学教授、田中明彦.東大東洋文化研究所長、長谷川真理子.早大教授、中村政雄科学ジャーナリスト、矢島正之・電中研理事待遇の各氏が参加した。第1部では長期的な社会像や持続可能な発展について、第2部ではエネルギー問題を視野に入れた日本の進路について討論した。 柴田氏基調講演「持続可能な社会の構築に向けて」中国では最近、経済成長が著しい。13億人もの人口を持つ中国の急成長は世界経済や地球環境に多大な影響を及ぼす。いかに世界経済の持続性を確保し、環境破壊を防ぐかが中国のみならず世界共通の課題となっている。一方、グローバル化の進展の中で格差が生まれ、さらに格差が拡大している。拡大する南北の経済格差が改善されなければ、世界が不安定になる。 日本は、省資源.省エネルギー技術で環境立国を目指すべきである。日本の国際競争力は、93年までは毎年1位であったが、一昨年は31位に転落した。唯一の1位であることは パテント、技術の優位性である。この点で国際的貢献を行うべきである。 国際熱核融合実験炉(ITER)は日本にとって大変重要な課題と認識している。また、固有の安全炉の開発.普及も重要である。 かつては水消費量が多いほど文化的生活とみられたが、現在では節水型で快適な生活を送ることが望ましい。水、空気はただで手に入るものではなく、人類の大事な共通財産と理解する必要がある。水こそ持続可能な発展に最も重要であると強調したい。 ◇ 加藤氏 社会の諸問題には共通のバックグラウンドがあり、例えばアウトソーシングというキーワードで表現できる。行政と個人の関係では、公共事業、教育、福祉等で行政への依存が進み、貨幣経済への依存が極大化した結果、コミュニティ・生活の空洞化が進んだ。そのため豊かさの実感が湧かない。 鈴木氏 地球のサイズは有限である。限界があり、平衡安定点がある。限界を超えれば破局に至る。現状を肯定して、そこから進むのが現在までの政策決定の方法であった。今後は物ではなく、サービス、機能に価値を置く社会に変えていくことが重要である。すべてが有限であるということを理解し、その中で社会を構築していかなければならない。 田中氏 今後の世界情勢を見る3つのポイントがある。第1は対テロ戦争の帰趨であり、もしイラクから米国が撤退し、国連も無力であるならば、米国は自国優先の孤立政策を取る可能性もある。第2は中国の動向で、経済成長が続けば日本にとって巨大な市場になる。しかしバブルで終われば、日本も大きな影響を受ける。第3は日本周辺の国際情勢で、北朝鮮、ロシアとの関係をどうするかという問題である。 長谷川氏 地球温暖化、オゾン層の破壊、砂漠化等の現象が地球環境問題となっているが、原因としては先進国の過剰なエネルギー消費、資本主義経済の大量生産、大量消費、大量廃棄、人口増加等が指摘できる。この問題の解決は、エネルギー消費が削減され、「持続可能な社会」に転換できたときに実現すると考えられる。しかし、その状態については誰も断言できず、意見の一致は難しい。 中村氏 石油文明の時代は間もなく終わるのが確実である。日本のエネルギー自給率は、原子力を除くと4%に過ぎない。原子力、自然エネルギー等を重視すべきである。世界には脱原子力の風潮もあるが、米国、スイスほか原子力発電の必要性を見直す国もある。世界全体が原子力に頼らねばやっていけない。原子力の安全と安心の確保は大切な問題である。原子力の必要性について納得すれば、原子力への社会的な安心感は得られると確信する。 矢島氏 自由化政策は、エネルギー.セキュリティ確保に大きな影響を及ぼしている。日本はセキュリティ確保と環境保護の観点から原子力発電を推進してきたが、エネルギー市場の自由化で徹底的な電源間競争が導入されれば、原子力発電所の建設が停滞することも考えられる。電力自由化の拡大が原子力発電に及ぼす影響とその支援のあり方については、掘り下げた検討が必要である。原子力発電によるセキュリティ上の費用.効果についての詳細なシミュレーション分析が不可欠である。加藤氏 政策策定の要点は優先順位付けに尽きる。タイムスパンも当然考慮する必要がある。現在の政策決定プロセスはリアリティが欠如している。長期的視点からどのような社会、国家を構築するか議論することが必要である。 鈴木氏 日本の将来像、国家像が見えない。目先のエネルギー事情に振り回されている。もし昨年夏に多くの原子炉停止のため停電していれば、電気の重要性を国民は改めて認識したかもしれない。 田中氏 エネルギー政策の整合性を重視すべきである。石炭をどうするかは一律には決められない。国によって異なる。エネルギー政策には市場原理が反映しなければならない。中国の石油需要が増加すると原子力、新エネルギーも重要性が高まる。この場合、原子力はエネルギー.セキュリティに貢献している。 中村氏 原子力は循環型エネルギーの代表的なもの。先進国は低エネルギー消費を目指し、化石燃料は開発途上国に優先的に回すことが望ましい。 矢島氏 エネルギーコストにはテロ対策等の様々なものが入る。また政権交代によるエネルギー政策の変更といった政治的リスクもある。原子力の問題点は安全性への懸念であるが、固有の安全炉で画期的なコストダウンが実現すれば、自由化市場で積極的な投資が得られる可能性もある。 |