[原子力産業新聞] 2004年5月20日 第2235号 <3面>

[IAEA] 研究炉の新たな使命 @ 新型研究炉に期待

研究炉は、原子力研究開発初期から、研究や訓練、放射性同位元素(RI)の製造など、原子力研究開発に欠かすことのできない設備である。しかし近年、コンピュータ・シミュレーションの発達、加速器の進歩などにより、特に旧型の小型研究炉は、その利用価値やコスト・ベネフィットに疑問が呈されるようになってきた。今号と次号では、国際原子力機関(IAEA)広報部がまとめた「研究炉の新たな使命」と題する報告の概要を紹介する。

癌治療法の発見から電子装置の開発までの色々な用途に、これまで長い間研究者達は小型の研究用原子炉を利用してきた。そうした成果の中には、壊れやすかったプラスチック製品が、鉄よりも軽く強固なものになった例もある。

しかし、市場経済化が進む世界で、研究炉にも安全性と共に経済的な競争力が求められるようになっている。IAEAの研究炉連絡調整役のイアン・リッチー氏は、このような研究炉の将来を語る。

「将来は明るい。しかし、現在272基が稼動している研究炉も、15年後には30〜40基になるはずだ。過去50年間、研究炉は原子力科学・技術の開発に貢献した。しかし今日の研究炉のほとんどは、そのできる範囲の発見と技術革新を成し遂げ、使命を終えた。新たな技術革新の為には、更に新しい道具と、特別な特性を持つ、更に性能の良い原子炉が必要だ」。

国民の健康、食料生産のレベルを高め、産業を効率化する道具の役割を併せ持つ原子力科学・技術は、特に開発途上国での社会的、経済的な影響が大きい。また、既に世界に何か所かある研究炉を用いた医療用放射性同位元素(RI)の製造は、数十億ドル規模の大事業だ。

将来の研究炉

研究炉の寿命はおおよそ40年だが、3分の2の炉は今日すでに30年が経過している。当初、研究用に中性子を発生する目的で作られたこれら老朽研究炉の多くは、今後10年間に停止されるか解体される予定である。その後には、多目的の用途、または医療用RI製造、シリコン・ドーピングなどの商業利用のものが建設され、新しく、進んだ技術を持つ研究炉の時代が来る。

例えばカナダは、既に2基の新型研究炉を建設したが、これらは最初から医療用RI製造・販売を目的としたものだ。一方オーストラリアは、現在多目的研究炉を1基建設中だ。これは、農業、鉱業、エネルギー産業及び環境対策などでの利用のほか、オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)はこの炉を使い、同国の医療用RIの供給も行なう予定だ。

ANSTOは、「短半減期のRIは輸入できない。オーストラリアが、もし海外のストックに依存するなら、北米、南米及びヨーロッパからの供給の順番は、いつも最後に回されてしまう。RIが輸入できなくなると、現在の医療機器のいくつかは使用不能になる」と、この研究炉建設計画の重要性を強調する。

オーストラリアに新しく建設されるこの研究炉を含め、現在、世界で9基が建設中で、その他に8基が計画中だ。しかし、1970年代以来、世界で停止された研究炉の数は、新たに建設されたものの数を凌ぐ。(続く)


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