[原子力産業新聞] 2004年7月22日 第2244号 <3面>

[寄稿] ―9・11事件の教訓― 米国民の間で高まるテロへの懸念(上)

ハイジャックされた航空機がニューヨークの世界貿易センターとワシントンの国防総省に激突したことで、米国にある13か所の商業用原子力発電所のどこかに、テロリストが航空機を激突させるのではないかとの懸念が、国民の間で高まっている。

報道によれば、ツイン・タワーに激突した航空機のうち、少なくとも1機はニューヨーク市郊外にあるインディアンポイント原子力発電所の上空を通過したという。また、確認はされていないものの、ペンシルバニア州の平原に激突したハイジャック機は、同州内にあるスリーマイル・アイランド原子力発電所を目指していたのかもしれないとの噂もある。確かなことは誰にもわからないが、情報機関関係者の間では、同機が目指していたのはホワイトハウスか、議会の開かれる連邦議会議事堂のどちらかだと考えられている。

はっきりさせておく必要があるのは、これまでのところ、米国の原子力発電所に対するテロリストからの脅迫が、確認されたことは一度もなかったという点だ。脅威があるとして真剣に検討され、特別な防護対策につながった情報は2件あったが、それらについても、脅威の情報に信用性がないと判断された時点で解除された。1件は前述のスリーマイル・アイランド原子力発電所であり、もう1件はアリゾナ州のパロ・ベルデ原子力発電所だ。

2001年9月11日以前からすでに、米国の原子力発電所は国内でおそらく最も警備の厳しい、頑丈な民間施設であったと言って間違いない。テロ攻撃の直後には、NRCの指示により、テロ攻撃に対する警備をさらに強化するために、多くの追加対策がとられた。

しかしながら、原子力施設の安全性に対する市民の懸念はなくなっていない。その理由のひとつは、アルカイダの指導者達が、米国やその他の国の原子力発電所を標的候補として話し合っていたことが知られているからであり、もうひとつの理由は、考えにくいことではあるが、もし原子炉格納容器が破壊される事態が発生した場合に、放射能が周辺地域に放出されるのではないかという不安があることによる。

昨年夏、米国でテロに対する高度な訓練が行なわれ、その結果、原子力産業界や政府が検討すべき、重要な点がいくつか浮かび上がってきた。訓練のひとつは、西岸のある原子力発電所がテロの脅威にさらされているとの想定で行なわれた。

最初の対策は、NRCが同発電所に最高レベルの警備状態を敷くよう指示し、警備員を増強し、必要のない作業員を帰宅させるというものだった。同時に、発電所上空は飛行禁止区域に指定され、上空ではジェット戦闘機がスクランブルを行い、さらに州警察は直ちに強化部隊を発電所に送り込むというものだ。

これは、実際にこのような事象が発生した場合に、発電所の管理部門や連邦捜査局およびNRCがどのように対応するかを検証する訓練だった。(続く)

ウィリアム・ビーチャー氏

コロンビア大学院卒。ウォールストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズなどで記者。1983年に国内報道部門でピューリツァー賞受賞。1993〜2003年まで米原子力規制委員会(NRC)広報部長。現在はディレンシュナイダー・グループ代表。


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