[原子力産業新聞] 2004年7月22日 第2244号 <4面>

[レポート] 2030年のエネルギー需給展望

経済産業省は5日、総合資源エネルギー調査会需給部会の「2030年のエネルギー需給展望(中間とりまとめ原案)」を公表、パブリックコメントに付した。同展望より、原子力に関連する部分の概要を紹介する。

はじめに エネルギー需給構造と内外の経済社会

我が国のエネルギー需給構造は、内外の経済社会構造や国際エネルギー取引と密接に関連するため、2030年のエネルギー需給構造を見通すにあたっては、2030年の国際経済社会構造とエネルギー需給構造、それに国内の経済社会構造の変化を想定しておく必要がある。

特に2030年という長期を見通すにあたっては、石油や天然ガスなどの各種のエネルギー源の供給可能性や環境制約の見通しと技術進歩の可能性について念頭において置く必要がある。

不確実な将来

一方、将来の想定には不確実性が大きく、2030年に至る唯一の道筋を前提にする場合には、今日のエネルギー需給構造の評価、現時点で採るべき政策の洗い出しなどが困難となるばかりでなく、実際、想定された道からはずれた場合に必要以上に様々なコストを要することになる。

なお、エネルギー起源CO2は人類の排出する温室効果ガスの大半を占めることに鑑み、エネルギー政策も地球温暖化への対応、京都議定書の削減約束を視野にいれて検討する必要がある。そのため、第2章においては、地球温暖化対策推進大綱に掲げられたエネルギー需給両面の対策の効果を評価しつつ、京都議定書に定められた第1約束期間の中間点である2010年におけるエネルギー需給構造についても合わせて見通すこととする。

長期エネルギー需給見通し 2010年のエネ需給見通し

■エネルギー需要は低減

・エネルギー需要は、2030年に向けて、人口・経済・社会構造の変化を踏まえて、構造的に伸びは鈍化し、2021年度には頭打ちとなり減少に転じる。

・部門別に見ると、産業部門は横這い、貨物部門は漸減で推移。家庭部門、業務部門、旅客部門は、活動水準の増加に伴い、引き続き増加するが、長期的には、省エネ機器・技術の浸透と活動水準の伸び率の鈍化の相乗効果で減少に転じる。

・省エネ技術の実用化・普及による省エネポテンシャルは極めて大きい。新技術やヒートポンプの導入などが進展すれば、需要は5000万キロリットル(原油換算)程度減少する。

・経済成長率が高成長であっても、需要は2030年までには頭打ちとなる。高成長と低成長では、需要量で10%以上(6000万キロリットル程度)の差が生じる。

■エネルギー供給構造は緩やかに変化

・分散型電源は、総発電電力量の約2割程度まで拡大する可能性がある。

・天然ガスは、分散型電源の普及によって需要が拡大する。他方、系統電力需要の低下は天然ガス火力発電の減少をもたらすが、1次エネルギー供給ベースでは、シェアは現在よりも増加する見通し。

・原子力は、ベースロードに対応した電源として引き続き安定的なシェアが維持される。

・石油はシェアが減少するが、依然として約4割程度を占める重要なエネルギー源。石炭は横這いで推移。新エネの導入が進展すれば、1次供給ベースで再生可能エネ・新エネは約10%に。

■技術の活用によって「経済と環境の両立」を実現できる可能性がある

・エネルギー技術が進展・普及すれば、これによる省エネポテンシャルは極めて大きいことから、経済成長が比較的高めで推移した場合であっても、CO2排出量は1990年レベルを下回る可能性がある。

2030年のエネ需給見通し

■エネルギー起源CO2排出量の目標達成には追加対策が必要

・2010年度のエネルギー起源CO2排出量は、自然体で見通した「レファレンスケース」で3億1800万t―C(炭素換算トン)、現行対策の推進で期待される効果を折り込んだ「現行対策推進ケース」では3億200万t―Cの見通し。

・現行地球温暖化対策推進大綱では、エネルギー起源CO2排出量は、第1約束期間で1990年度と同水準に抑制することが目標とされており、目標達成のためには、新たに1600万t―Cの追加対策が必要。

■エネルギー需要は、民生・旅客部門で大きく増加する見通し

・現行対策推進ケースにおけるエネルギー需要は、産業部門、貨物部門においては、各々1990年度比9%、マイナス1%にとどまる1方、家庭部門36%、業務部門41%、旅客部門42%と各々大きく増加する見通し。

■エネルギー供給構成の多様化が進展する見通し

・エネルギー供給構成は、天然ガスの増加、原子力の増加等を踏まえ、一層の多様化が進展する見通し。

・石油は消費量は減少するが、依然として国内供給の4割以上を占める重要なエネルギー源。天然ガスのシェアは増加、石炭のシェアは横這い。

・原子力は、2010年度までの新規増設分として既建設中4基が見込まれ、3753億kWhとなる。また、新エネルギーは、シェアの若干の増加が見込まれる。

エネルギー関係特別会計の活用

エネルギー政策の推進に当たっては、石油等の安定供給確保、我が国のエネルギー需給構造の高度化、電力の安定供給確保といった重要政策課題への対応を図るため、「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」をはじめとするエネルギー需給に係る一定の義務づけ、電気事業法・ガス事業法のようなエネルギー関係事業の枠組み構築に加え、石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計(石特会計)、電源開発促進対策特別会計(電特会計)等を活用しつつ総合的な施策の実施に努めてきている。また、エネルギー政策基本法やエネルギー基本計画で示されている方向性の中で施策の一層効果的・効率的な実施を図っていくことが重要である。

同年11月、財政制度審議会の「特別会計の見直しについて」において、全ての特別会計を対象に見直しの基本的考え方と具体的方策が提示され、その中で石特会計・電特会計についても、歳出面で多額の不用、剰余金が発生している、両特別会計の区分が曖昧になっている、等が指摘、こうした中、2003年の法律改正により同年10月から実施した制度改正も含め、次の対応が行われている。

▽電特会計において、電源立地の状況等を踏まえ、電源立地地域対策交付金等の予算を大幅に合理化する一方、今後の電源立地の進展に伴う将来的な財政需要に備えるため、新たに創設された「周辺地域整備資金」への積み立てを実施。

▽両特別会計の歳出区分について、電特会計の歳出対象を、安定的な電力供給源として立地対策等の施策を引き続き講じていく必要性が高い原子力、水力、地熱といった長期固定電源に重点化。これに伴い、従来電特会計で実施してきた発電用途の新エネルギー対策を石特会計に移管し、石特会計において新エネルギー対策を一元的に実施。両特別会計については、エネルギー基本計画に沿い、更には今般の長期エネルギー需給見通しで示されたエネルギー需給構造上の問題も念頭に置いて、今後とも、その一層効果的、効率的な活用について検討していくことが重要である。

技術の胎動―21世紀の新潮流

近年、IT技術や革新的な材料・システム技術の進展等を受け、以下にみられるようにエネルギー需給構造に大きな影響を与えうる技術が次第に花開きつつある。

原子力技術

原子力分野では、2030年以降の実用化を念頭に、高度の経済性、安全性、核拡散抵抗性等の特徴を有する次世代の原子力技術の開発が我が国を含む国際協力により進められている。また、耐久性に優れた材料技術や原子炉の寿命評価の信頼性向上に資する計測技術等、既設軽水炉を有効活用する技術の開発も進められている。また、フランス、ロシア、中国のように高速増殖炉の開発を進めている国や、米国のように核燃料サイクルに再び着目している国もある。

供給の分散と多様化で変化への対応力強化

我が国はエネルギーの輸入依存度が高く、また、中東からの石油に対する依存度が諸外国に比べても相対的に高いなど、脆弱なエネルギー需給構造となっている。2030年に向け、アジア諸国のエネルギー需要は増大を続けると考えられることから、我が国としては、エネルギー需給構造が外的な環境変化に円滑に対応できる、柔軟性を持ったものとなるよう、エネルギー供給の最大限の分散と多様化を図っていくことが重要である。

エネルギー需給見通しでは、高効率のエネルギー社会を目指し、省エネルギーを進め、エネルギー需要を抑制する一方、原子力を推進することにより、エネルギー自給率を改善することができることが示されており、エネルギー供給面では原子力が引き続き重要な役割を果たすと見込まれる。

原子力の推進

このような原子力は、現在、我が国の総発電電力量の約1/3を占める存在であり、2030年のエネルギー需給見通しにおいても、その割合を維持・拡大することが想定される。このことからも明らかなとおり、原子力は、今後とも、我が国の基幹電源としての役割を果たし続けるものと考えられ、安全・安心を大前提に、官民相協力して推進していく必要がある。

具体的には、原子炉の新規増設を地元の理解を得つつ着実に進めていくとともに、既に運転している原子炉をできるだけ有効に活用していくとのアプローチが適当と考えられる。特に2030年には、我が国の原子炉の多くは設置後30年を超えることとなる。このため、原子炉の高経年化も十分念頭においてこれらの対応を進める必要がある。

原子炉の新増設に当たっては、立地地域住民の理解と協力を得るため、地元住民の声を丁寧に聴き、かつ、説明するといった取組を今後とも続けるとともに、運転開始後においても、迅速で分かり易い情報の公開及び提供により、住民の不安と解消に努めることが重要である。また、国は、引き続き原子力立地地域の振興を図るとともに、原子力発電等と地域社会との共生を目指し、国、地方公共団体、事業者が適切な役割分担を図りつつ、相互に連携、協力することが重要である。

また、既に運転している原子炉の有効活用については、特に、我が国の原子力発電所の利用率は米国などに比べて低く、安全確保を大前提に、科学的・合理的な運転管理の実現により利用率を改善するため、関係者が更に努力を重ねていくことが必要と考えられる。

一方、原子力の有効利用とともに安定的運転を確保するためには、広域的な電力融通の円滑化を図るとともに、原子力関連の技術開発や人材育成を図ること等、技術的な基盤を維持していく必要がある。

核燃料サイクルは、原子力発電所から出る使用済み燃料を再処理し、有用資源を回収して再び燃料として利用するものであり、供給安定性等に優れているという原子力発電の特性を一層改善するものである。使用済み燃料の再処理、プルトニウムの確実な利用、核燃料サイクル全体の運営の柔軟性を高める使用済み燃料の中間貯蔵施設の確保などのプロセスひとつひとつについて、安全の確保を前提に、国民の理解を得て、エネルギー基本計画に従い着実に取り組んでいくことが重要である。


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