[原子力産業新聞] 2004年9月24日 第2252号 <4面> |
[総合資源エネルギー調査会] バックエンド事業の制度・措置の在り方(上)本紙9月2日号既報のとおり、経済産業省は8月30日、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会の中間報告「バックエンド事業に対する制度・措置の在り方について」を公表した。今号と来週号で、その概要を紹介する。 はじめに今回の検討は、平成12年から開始した我が国電気事業における小売自由化の範囲が、平成17年4月には、我が国全体の電力需要量の過半を超えることが予定されている中で、エネルギー安定供給及び環境負荷の観点から優れた特性を有する原子力発電について、安全の確保を大前提とした原子力発電及びバックエンド事業の円滑な推進の観点に加え、投資環境を整備する観点から、昨年2月の当分科会報告に示したとおり「平成16年末を目途」として検討を進めているものである。 より具体的には、極めて長期間を要し、事業の不確定性も大きいバックエンド事業に係る費用について必要な措置が講じられないままでは、自由化が大きく進展する中で、原子力発電に対する投資が必要以上に萎縮してしまう懸念があることに加え、世代間及び需要家問の公平性、バックエンド事業の円滑な推進という観点から、今回、バックエンド事業に関する制度・措置の在り方を検討することとしたものである。 この検討を通じて、今回新たに判明したバックエンド事業全般にわたるコスト構造を踏まえても、なお、原子力発電全体の収益性等は他の電源と比較して遜色はないものの、バックエンド事業の超長期性や発電と支出の時間的遅れ等を踏まえると、後述する制度・措置が必要との中間報告について、現行の政策を前提にしたとりまとめを行うことができた。 また、今回の制度が整備された後に、今回の議論の前提となっている原子力発電及び核燃料サイクルに関する基本的政策が見直された場合など、前提が変更された場合には、当分科会を再開し、それに応じた見直しをすることとする。 バックエンドコスト構造の分析・評価バックエンド事業全般にわたるコスト構造及び次章の原子力発電全体の収益性等の分析・評価については、当分科会にコスト等検討小委員会を設置し、同小委員会において検討を行い、当分科会に報告が行われた。 分析・評価の方法コスト等検討小委員会においては、電気事業者等によって進められている現在のバックエンド事業が、原子力委員会が定める現行の原子力長期計画等に沿って今後とも計画的に実施されることを基本的前提とし、電気事業者から、事業のスケジュールや費用見積もりなどに関する説明を受け、これを基にバックエンド事業全般にわたるコスト構造の分析・評価を行った。 分析・評価コスト等検討小委員会においては、▽想定スケジュールや費用見積もりの範囲は、原子力長期計画等に定める基本方針と整合的であること▽実施が数十年先以降となるもの等について、先行事例や現在の知見を基に置いた一定の技術的想定にも合理性があること――を確認した。 また、同小委員会では、安全規制・基準の動向、技術開発の進展、事業内容の合理化・事業実施の不確定性等に特に着目し、主な変動要因とその影響を分析した。その結果、技術的想定の置き方によっても費用見積もりの結果が大きく変動するものではなく、今回の費用見積もりの結果をバックエンド事業のコスト構造を理解する上での基本ケースとして考えることに大きな問題はないことを確認した。また、合理化努力や技術開発の進展によって費用が低減できる可能性があるケースが具体的に明らかになった。 A費用の特徴について 同小委員会において費用に関する特徴について分析したところ、電気事業者から示された「原子燃料サイクルバックエンド事業」と総称される各事業の費用見積もり約18・8兆円のうち、再処理事業費用が約11兆円(操業費用約9・5兆円、廃止措置費用約1・6兆円)と他の事業に比して大きく、高レベル放射性廃棄物処分に係る拠出金は約2・6兆円、他の事業は1兆円前後かそれ以下であることを確認した。また、バックエンド事業は、費用発生の原因が生じる発電時点と実際に費用が発生する時点で長期にわたる時間的遅れが生じるものが多いことを確認した。 原子力発電の収益性等の分析・評価@分析・評価の方法 コスト等検討小委員会の分析・評価においては、発電プラントは、モデルプラントを想定し、運転年数、設備利用率、為替レート、燃料価格の上昇率及び割引率の様々なケースについて各電源の発電コストを算定し、比較した。また、核燃料サイクルコストは、今回新たに再処理工場廃止措置責用などを加えて試算するとともに、中間貯蔵される使用済燃料の貯蔵後に要する費用も考慮した。 A分析・評価 (1)分析・評価の前提 モデル試算による方法では、計画外の発電所の大規模改造工事の実施や高経年化等による修繕費の上昇等の一般化が困難な事態について反映されないこと等に留意が必要である。コスト等検討小委員会においては、いくつかの個別の前提条件を変化させた場合における様々なケースに応じた分析・評価を行った。 (2)分析・評価の結果 原子力発電全体の収益性等を、様々なケースについて分析・評価した結果、他の電源との比較で遜色はないという従来の評価を変える事態は生じていない。 バックエンド事業での官民の役割分担現行の原子力長期計画においては、国は、原子力研究開発利用に係る基本方針の明確化、安全規制等の法的ルールの設定とその遵守の徹底、平和利用を担保し事業の円滑な実施を図る国際的枠組みの整備、危機管理体制の整備、長期的観点からの基礎的・基盤的な研究開発の推進と必要な人材育成などの所要の措置を講じていくことを基本的役割としている。この中には、国が国の基本的方針について国民の理解を得ることや民間の事業活動を適切に誘導することも含まれている。したがって、次章に記す制度・措置に係る議論に当たっても、これらの官民役割分担や事業実施体制が、今回の由由化範囲の拡大後も継続することが、前提となっている。 民間事業として行われる事業に附随する責任は、当該事業者に帰属することが基本であり、核燃料サイクル事業においても同様である。しかしながら、核燃料サイクル事業に関しては、国の政策によって事業の存続が左右される可能性があり得るとの指摘があり、国際的な理由など通常の事業活動とは別次元の要因・要請により、国が事業者の事業継続の意思に反して事業の停止を求める場合には、それによって生じる不利益をすべて事業者に負担させることは不適当な場合があり得ると考えられる。もちろん、その背景・原因が何であるかについての議論なしに、責任関係を整理することは不可能であり、その時点で具体的事情に即した適切な議論を行うことが必要となる。 当分科会の議論において、核燃料サイクル施設の稼働率の低下や超長期性に関するリスクについては民間事業には馴染まないのではないかとの指摘もあったが、本来的には、これらのリスクは、事業に附随するものであり、事業者がその事業責任の一環として負うべきものである。ただし、今回の制度・措置の設計においては、再処理施設の稼働率変動によって事業環境が短期的に大きく変動しないよう、極力、将来の不確定性に柔軟に対応できるよにする旨を第5章に明記したところである。また、深地層処分の対象となるTRU廃棄物の処分については、事業が超長期にわたる管理期間を要することから、科学的知見の集積等の状況を踏まえつつ、適切な事業形態を検討することが中期的に必要である。 なお、これらの核燃料サイクル事業に関するリスク問題を議論する前提として、事業を実施している民間事業者において同事業が安全かつ円滑に行うことができるよう、最大限の取組みが行われるべきことは当然である。 |