[原子力産業新聞] 2004年10月14日 第2255号 <1面>

[IAEA] エルバラダイ事務局長が講演会 「核兵器全面禁止を」

 来日中のエルバラダイ国際原子力機関(IAEA)事務局長は8日午前、東京・青山の国連大学会議場で、「核不拡散―課題と好機」と題して講演を行い(=写真)、日本の原子力関係者や国連関係者など、約200名が参加した。この講演会は国連大学が主催、日本原子力産業会議が協力して開かれたもの。同講演の概要を紹介する。(3面に関連記事)

 核拡散は「ヒューマン・セキュリティ(国家、社会、地域、個人に等しく影響を及ぼす生活基盤の保全)」問題である。

 核不拡散条約(NPT)は、5つの核兵器国が核軍縮の約束をし、非核兵器国が原子力技術へのフルアクセスと交換に、核兵器を製造しないと約束するというバランスの上に立っている。NPTは198か国が加盟しているが、インド、パキスタン、イスラエルの3か国は加盟していない。

 冷戦終結から15年経つが、期待されていた「新秩序」は実現していない。南アジア、朝鮮半島などでの古くからの対立関係は残り、新たにテロリズムという脅威が出現している。原因になっているのは、文明の衝突、民族、南北問題などだが、国連安保理が機能不全に陥っており、集団安全保障がうまく働かないこともある。

 冷戦の終結によっても、核兵器の劇的な減少は起こらず、今でも6万個の核兵器が存在する。また、イラク、北朝鮮、イラン等の秘密裏の核開発という新たな問題も出現した。現在の危機は、@不法な取引による核技術の拡散という新現象Aテロリストが核兵器など大量破壊兵器に興味を示す――などに現れている。

 輸出管理は十分に機能していない。30か国以上の企業を結ぶ私的なネットワークにより、原子力機器や技術の拡散が起こった。多くの企業は自ら気づかずに、イランやリビアの核開発に貢献していた。現在、大規模な原子力開発を行っているのは40か国にものぼり、従来の「技術の管理」だけでは十分ではない。

 従来の核不拡散は「国」に重点を置いていたが、テロの出現により、現在は「個人」、「グループ」にも焦点をあてなければならない。世界中に10万以上の放射線源があり、「汚い爆弾」に使われる可能性がある。

 核兵器は依然、「力と地位」の象徴と見られており、南アジアや中東などの不安定な地域では、1か国が核兵器を持つと、他の国も持とうとする。これを防がなければ、我々は、20〜30もの国が核兵器を所有するという、暗い未来に直面することになる。

 どのようにすれば、核不拡散システムを良くすることができるのだろうか。

 第1には、査察・検証システムを強化することだ。イラクの秘密核開発以降、信頼性の高い、包括的な検証システムの必要性が認識され、1995年に「追加議定書」が作られた。現在、60か国が加盟しているが、まだ120か国が入っていない。追加議定書無しには、IAEAが秘密核開発を探知する能力は限られている。

 輸出管理システムは機能していない。ロンドンガイドラインのような輸出管理機構は、法的な基礎を持つ、公式なものにしなければならない。現在、マレーシア、インド、パキスタンなどはこの枠組みに入っていないし、輸出管理システムは査察・検証システムとリンクしなければならない。

 NPTでは、すべての国が高濃縮ウランやプルトニウムなどを生産できるが、これは再考すべきだ。核燃料や機器の供給保証と引き替えに、核燃料サイクル施設を国際管理にするというのも、1つの考えだ。

 またNPTは、3か月前の通知で脱退できる、いわば「回転ドア」だが、この穴はふさぐべきだ。

 現在、安保理による国連集団安全保障体制は良く機能していない。一国主義でない「集団的予防」が必要だ。

 核拡散は、安全保障が失われた「症状」とも言える。「早期警報システム」であるIAEA査察・検証システムは、限界もあり、強化すべきだ。核兵器は、「奴隷制度」や「大量虐殺」以上に非人道的なものとして、厳しく扱われるべきで、全面的な禁止が必要だ。


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