[原子力産業新聞] 2004年10月21日 第2256号 <1面>

[原産] カーネギー財団報告書の執筆者が来日 核不拡散で関係者と議論

 今年6月、商業用ウラン濃縮や再処理の一時停止を呼びかける報告書案「普遍的な順守―原子力セキュリティ戦略」(本紙7月15日号3面参照)をまとめた米国のカーネギー国際平和財団から、同報告書の執筆者のうち2名が来日、日本原子力産業会議で原子力界関係者と意見交換を行った。

 今回来日したのは、同財団の核不拡散プロジェクト長J・シリンシオーネ上級研究員と、核不拡散プロジェクト次長のJ・ウルフサル研究員。両氏は報告書案の骨子を説明するとともに、12月中の報告書完成を目指して、日本側から意見を聞いた。

 カーネギー財団報告書について、シリンシオーネ氏は、「単なる学者の作文ではなく、『政治的な文書』だ」とし、「米国には新たな核不拡散政策が必要とのコンセンサスがある」と述べ、11月の米大統領選挙後の新政権発足をねらって、米政策に影響を与えたいと強調した。

 現在の世界的な核不拡散政策についてシリンシオーネ氏は、「イラン、北朝鮮の例など、うまく行っていないことは明らか」と分析するとともに、非国家的主体による核テロの脅威が強まってきたとした。高濃縮ウランやプルトニウムなど機微な核物質について、核テロ防止に向け、@現存の核物質のセキュリティ強化A新たな生産の停止Bこれらの利用C余剰核物質の削減――の4つの戦略を提示した。「問題の本質はセキュリティ」だとし、「生産停止」は、機微な核物質がテロリストの手に落ちないようにするための方法の一つに過ぎないと説明した。

 またウルフサル氏は、「日本の事情は分かるが、各国の特殊事情を認めると、まとまりがつかないことになる」とコメントした。

 日本側の参加者からはカーネギー報告書について、「25年前のINFCEの論争を懐かしく思い出す内容だ」、「技術は生き物であり、一時停止すれば技術は死んでしまう」、「プルトニウムは原子炉で燃やして消滅させるのが最善の策」、「NPTそのものが核兵器国という例外を認める条約。核不拡散枠組みで例外を認めないというのはおかしい」、「核不拡散に特効薬はない。保障措置、輸出管理、核物質防護などの措置を積み上げていくしかない」、「核拡散のリスクに基づき国別に差別化するべき」、「新たなスキームに入るインセンティブが必要」などとする意見が寄せられた。

 一方、原産からは、「再処理、核燃料リサイクルに関する民間のポジション」と題するペーパーを発表、ウラン資源の有効利用、廃棄物管理の観点等から再処理の必要性を強調した。また、日本は「核不拡散への対応の最も整った国」とし、大規模原子力国として初めて統合保障措置が認められたことを強調。今後、核不拡散の技術開発や制度面の問題にも、積極的に関与していくとしている。


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