[原子力産業新聞] 2004年11月4日 第2258号 <3面> |
[寄稿] スイスNAGRA グリムゼル試験場が20周年(3)先週号に引き続き、スイス放射性廃棄物管理協同組合(NAGRA)に勤務する加来謙一氏の寄稿で、スイスの放射性廃棄物処分プロジェクトの現状などについて紹介する。 NAGRAは花崗岩における処分場の安全性について1980年頃から研究を開始し、1985年1月に花崗岩での調査結果を含む報告書を公表した。これは、1978年の原子力法による連邦決議、および環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)の決定により、1985年末までに放射性廃棄物の恒久的かつ安全な処分の実現を実証することが、原子力発電所の運転許可条件とされたことを受けて開始したプロジェクト。 その後、NAGRAは引き続き花崗岩における研究を続け、1994年に同報告書の内容を追補した「クリスタリンI」報告書を公表した。この報告書では花崗岩の広範囲な地域のデータを利用してモデル計算を行い、処分場の長期的な安全性を評価している。 一方、連邦政府が1988年に同報告書に対する評価として、堆積岩での調査も行うべきとの見解を示したため、NAGRAによる堆積岩を対象とした調査が本格的に開始された。その結果、堆積岩の中でも均質性が高く、透水性が低いオパリナス粘土で調査を進めていくことが、1994年に連邦政府の諮問委員会によって決定された。 これを受けてNAGRAは1998年にオパリナス粘土が存在するチューリッヒ州北部のベンケンにおいてボーリング調査を実施し、三次元反射法探査の結果とあわせて2000年に「ベンケン探査ボーリング調査報告書」として公表した。2003年12月にはオパリナス粘土を対象とした「処分の実現可能性実証プロジェクト」報告書を連邦評議会に提出した。この報告書は2004年にOECD・NEAの専門家によるレビューを受け、現在は規制主体である原子力安全本部(HSK)が評価を実施している。 中低レベル放射性廃棄物の処分場に関しては、以前ベーレンベルグを処分候補地としてサイト調査、処分場設計、許認可申請等を進めてきた。しかし、1995年、2001年の二度、カントン(県に相当)レベルの住民投票で処分施設受け入れを拒否されたため、本プロジェクトの継続を断念せざるを得なかった。現在NAGRAは、新候補サイトの選定作業と処分概念の構築を進めている。 |