[原子力産業新聞] 2005年1月5日 第2265号 <2面>

[展望] 4月から電力小売り自由化拡大 自由化で繁栄する原子力

 4月から、電力小売り自由化が大幅拡大される。将来的には自由化範囲が広がる可能性もある。自由化の拡大は、既存の電力会社にとっては大きな挑戦であるが、同時に大きなビジネスチャンスでもある。これをチャンスとしてとらえた者が、次の時代の覇者となることは、海外の例を見ても明らかである。原子力発電もこれを機会に筋肉質の体質に変貌し、「自由化で勝ち残る原子力」、「自由化で繁栄する原子力」を目指したい。

 自由化の下で原子力が勝ち残るためには、市場の信頼回復は当然として、経済性向上が欠かせない。「他電源と遜色のない経済性」に満足する事なく、「圧倒的な経済性と価格安定性を誇る原子力発電」を目指す必要がある。自由化の下で新規原子力発電所の建設を続けるためには、資本費の低減が絶対条件であり、第四世代炉が目指す千ドル/kWが一つの目標となろう。

 既設プラントについては、米国等でも行われている長期サイクル運転の実現による設備利用率の向上や、出力増強の実現が重要である。十八か月運転サイクルを採用している韓国ではここ数年間、90%以上の設備利用率を実現、米国も同様の利用率を達成している。

 自由化の下で原子力が競争力を持つには、事業者やメーカー等、原子力産業界が一丸となった努力が重要だが、それだけでは十分ではない。公平な競争条件の確保、投資リスクの軽減、立地地域との信頼関係確立など社会的条件整備が必要である。

イコールフッティングの実現を

 原子力が他の電源と公平に競争するためには、公正な競争条件、いわゆるイコールフッティングを確保する必要がある。このためには、地球温暖化防止やエネルギー・セキュリティ強化など、通常考えられる「経済性」以外の面で原子力発電が果たす社会的価値(外部経済性、公共財性等)が正しく評価されるべきである。このためには外部経済性の定量的評価や、環境関連税制等により外部コストを内部化した比較評価が欠かせない。

 公平な競争には、原子力に対する安全及び経済的規制において、科学的・合理的な制度の確立が必要であり、新しい規制制度の定着を見極めながらも、不断の制度見直しが必要であろう。また、リスク情報にもとづく規制など科学的・合理的な規制の導入、事業者の自主保安活動へのインセンティブ規制の導入など、事業者の前向きな活力を引き出し、安全性向上に役立てる規制の確立が求められる。

原子力への投資リスク軽減を

 原子力発電への投資は長期のコミットメントである。電力自由化などで先行きが不透明になり、また時代の移り変わりが激しくなっている現在、投資の長期性に関わるリスクをいかに減らしていくか、知恵を絞る必要がある。たとえば現在、原子力発電所建設費の法定償却期間は十六年間となっているが、投資回収に長期間が必要だと、原子力投資への意欲を衰えさせかねない。投資リスクを軽減するため、例えば投資減税や、通常のビジネスにおいて見通しが可能な期間での償却(法定償却期間の短縮)の実現も一案であろう。

 一方、原子力発電所の運転開始までの社会的合意形成と許認可にかかる、15年、20年とも言われる準備期間も短縮が必要である。地元の合意を取り付けるのに長い年月がかかるようでは、通常の民間事業としては成立し難い。原子力をめぐる地域と事業者のあり方の再構築が必要であろう。

地元との信頼関係を築く

 とはいえ、新規原子力施設の建設や、既設プラントの安定運転は、地元との良好な関係があってこそである。様々な方法で地域社会との共生・共益を計っていくのはもちろんのことであり、原子力施設が地域コミュニティにとって誇るべき資産となることが望まれる。

 しかし、地元との信頼関係を築く上で何よりも重要なのは、原子力施設で重大な事故や不祥事を起こさないことである。長年、営々と築き上げてきた信頼関係も、事故や一部の不心得者による不祥事で、一気に崩れ去ることがあり、関係した企業は、非常に高い社会的・経済的コストを払わなければならない。現場における倫理性と、確たる企業統治の確立が必要である。年初にあたって原子力事業者は、大きな事故を起こさないこと、また不誠実な行動を絶対に取らないことを誓って頂きたい。

 最近、原子力施設立地県の県知事が、施設の新規建設、改修、運転、試験などで、事実上のキャスティング・ボートを握る例が多く見られる。原子力施設の安全に対する県民の懸念や地域の発展等に配慮してのことであろうが、原子力の公共財性にも配慮して、バランスの取れた判断が求められる。原子力施設の許認可は、あくまでも国の安全規制当局の専管事項であり、科学的知見に基づく判断に委ねられる必要がある。また国は、規制体制に対する地方の信頼確立に全力をあげてほしい。

 2005年はまた、昨年の新計画策定会議で再確認された、再処理・プルトニウムリサイクルを中心とする核燃料サイクルが実際に進められる年である。昨年末、六ヶ所再処理工場のウラン試験が始まったが、これは不具合を積極的に発見することを目的として行われる試験であり、細かいトラブルが出てくる可能性もあろう。事業者はその情報を公開し真摯に分かりやすく説明、対話することで、地元の理解を得る努力をしてほしい。また、地元の関係者も、同工場がそうした段階にあることを理解の上、暖かく見守ってほしい。さらに、プルサーマル、中間貯蔵、MOX燃料加工工場立地などで進展が見られるよう、関係者の奮起を期待する。

 今年はまた、当日本原子力産業会議の改革実行の年ともなる。昨年、新しい体制に向けて原産改革の方向性と大枠が示された。これを基礎に、今年は新しい民間原子力組織の詳細設計が行われ、改革が実行される。一九五六年に設立された原産が、古い殻を脱ぎ捨て、民間原子力産業界のフォーカルポイントとなる組織に脱皮する時が迫っている。関係者のご鞭撻と、一層のご支援をお願いしたい。


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