[原子力産業新聞] 2005年3月17日 第2275号 <1面> |
[ウクライナ便り] ユシュチェンコ新大統領が閣僚人事-松木良夫駐在員【3月12日=キエフ松木良夫】ウクライナでは、昨年11月に行なわれた大統領選挙決戦投票で、政権側候補が行なった不正が明るみに出たため、首都キエフなどの主要都市で、野党側候補を支持する大規模な抗議集会が1か月以上行なわれた。 しかし最高裁が野党側候補の訴えを認め、12月にやり直し選挙を実施、その結果、欧州統合への道を公約した野党側候補ヴィクトル・ユシュチェンコ氏が1月、新大統領に就任した。 しかし、引退直前の前大統領から提案されていた憲法変更法案が昨年12月に議会を通過したため、これにより新大統領の権限は早ければ今年9月以降には縮小される。同法によれば、首相と閣僚の任命は大統領でなく、今後は議会が行なうことになる。しかしそれまでの数か月間は、移行期間として従来の大統領権限にもとづき、首相は議会の同意を得て大統領が任命し、また閣僚もその首相の提案を得て大統領が任命した。 こうして選ばれた首相代行はユーリア・ティモシェンコ氏(=写真下)。同氏はウクライナ初の女性首相で、新大統領の強力な支持者。新大統領が前政権の首相を務めていた時代に、その下でエネルギー担当の副首相を務めたが、4年前に前大統領との意見衝突をきっかけに解任された。これはティモシェンコ氏が関係するエネルギー関係企業の利権争いが発端と言われる。 こうした経緯からか、ニュース報道を見る限り、ティモシェンコ首相代行は前大統領を徹底的に批判し、新大統領権限を縮小するために前大統領が提案、議会を通過させた法律さえ覆す構えを見せている。 任命された閣僚からも前政権時代の顔ぶれは消え、全てのポストが欧州寄りの新大統領支持者に入れ替わった。また各省庁の次官クラスも業績を問わず容赦無く入れ替えられたと言われる。燃料・エネルギー大臣は、前政権時代、ウクライナ原子力発電公社エネルゴアトム総裁が兼務していたが、今回の組閣により、地域電力供給公社キエフエネルゴのイヴァン・プラシュコフ総裁が任命された。 異例の人事は、同省の原子力担当副大臣に任命されたミコラ・スタインベルグ氏。同氏はエンジニア出身で、チェルノブイリ原子力発電所、ソ連原子力規制局、ウクライナ原子力規制局を経て、ウクライナの原子力専業コンサルタント会社での経験を持つ。 チェルノブイリ4号機事故後に国際原子力機関(IAEA)が刊行した事故原因調査報告書でも同氏の貢献が大きく、旧ソ連諸国以外の専門家の間でも知名度が高い。前政権でも同副大臣職に就いていたが、昨年夏以来同職から退いていた。今回の新政権発足で同職に復帰したわけである。 原子力規制局の局長には、放射性廃棄物の女性専門家として同規制局に勤務したオレーナ・ミコライシューク氏が任命された。同氏は最近まで一時、在キエフの欧州連合代表事務所に勤務していた。一方、ウクライナ原子力発電公社エネルゴアトムでは総裁の入れ替えが行なわれたが、それ以外は技術陣を含めてかわっていない。 暫定内閣は、欧州連合への統合を優先課題に取上げ、その行動計画にとりかかっている。 原子力政策の今後については、現時点ではまだ大きな変更を示唆する発表はない。ウクライナでは現在15基の原子力発電所が運転中で、前政権時代には新規原子力発電所計画もあった。新政権の下、原子力の分野でも途切れることのない政策展開が期待される。 |