[原子力産業新聞] 2005年3月31日 第2277号 <3面>

[シリーズ] IAEA敦賀セミナーから(2)

 先週号に引き続き、IAEAが経済産業省、文部科学省との共催により、9日、10日の両日、福井市で開いたセミナー「原子力への期待−地域との共存・共栄の視点から考える」から、H・カリル米アルゴンヌ国立研究所原子力工学部長の「米国における原子力エネルギーーー現状と将来に向けてのイニシアチブ」と題する講演の概要を紹介する。

 ▽「米国における原子力エネルギーーー現状と将来に向けてのイニシアチブ」カリル氏(米アルゴンヌ国立研究所)

 現在、米国の原子力発電所は全国の約20%の電力を供給している。原子力発電は安全かつクリーンで、経済的であり、しかも温室効果ガスを排出しない。国家エネルギー政策で求められているように、米国で将来のエネルギー需要を満たす一つの要素は原子力エネルギーの活用を継続し、拡大することである。

 米国の原子力発電所の運転実績は非常に優れている。しかし、過去25年、米国では新規の原子力発電所建設は皆無であった。このように長期間、原子力発電所の建設が中断した主な原因は、原子力発電の資本集約性、長期間の建設期間、許認可手続きの遅延傾向などによるものである。

 2002年2月に米エネルギー省(DOE)が開始した「原子力2010年」プログラムは、政府・産業界がコストを負担し合う共同プログラムで、新規の原子力発電所建設用地の決定、高度な原子力発電所技術の開発・導入、新規原子力発電所建設のビジネスケースの評価、テストされていない規制プロセスの立証を行うというもの。これに基づいて産業界は、少なくとも一基、米国で新しい原子力発電所を建設・運転するために2〜3年後には原子力規制委員会(NRC)の承認を求める。

 現在の原子力発電所の設計では、多くの市場で経済的かつ一般市民に受け入れ可能な電力供給を行うことができるが、原子力エネルギーシステムの設計がさらに高度化すれば、原子力を利用する機会はさらに広がると予想される。

 こうした機会を開拓するため、米エネルギー省(DOE)は、「第四世代」と呼ばれる次世代の原子力エネルギーシステムを発展させるための様々なイニシアチブに、政府、産業界、世界中の研究組織を参加させている。

 これらシステムは、非常に安全で信頼性があり、経済的で核拡散抵抗性があり、物理的にも安全、環境面でも持続可能性があるものだ。

 現在、米国での最優先事項は超高温ガス炉(VHTR)に置かれている。これは電力のみならず、クリーンな輸送用燃料として使える水素を、安全かつ効率的に生産できるシステムである。

 「第四世代システム」では、米国の既存の原子炉で採用されているものとは大きく異なる燃料と燃料サイクルを採用する。第四世代システムに向けて開発中の核拡散抵抗性のある燃料処理、リサイクル、核変換技術は、近い将来に地層処分場の容量と性能の最適化に応用できる可能性がある。

 これらの技術は、地層処分が必要な廃棄物の量、発熱、毒性を大幅に削減することができるため、これを活用すればコストを削減し地層処分場の利用を最適化することができると期待されている。


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