[原子力産業新聞] 2005年4月28日 第2281号 <4面>

[第38回原産年次大会] 新潟大会・特別講演

 年次大会2日目は会場を柏崎市から新潟市に移し、午前に行われた特別講演では、日米英の3か国から原子力関係会社・機関のトップが、それぞれの国における原子力開発の最新状況と展望について報告した。英国原子燃料会社(BNFL)M・パーカー社長が「英国のエネルギー問題と原子力産業の将来」、続いて米国のビスコンティ・リサーチ社A・ビスコンティ社長が「米国の原子力コミュニケーションと公衆の支持――その新たな時代」、さらに岡ア俊雄・日本原子力研究所理事長が「新たな原子力研究開発の使命を担って」と題する講演をそれぞれ行った。

英国のエネルギー問題と原子力産業の将来 M・パーカー・英国原子燃料会社(BNFL)社長

 英国の原子力産業は1940年代半ばにスタートし、過去60年間に数多くの活動を展開してきた。英国政府が原子力廃止措置機関(NDA)を設立したことを受け、英国の原子力産業界は本年4月1日におそらく過去最大の大変革を経験した。NDAは、環境保護の観点から、原子力遺産の浄化、廃止措置に重点的に取り組む。人員規模は200名で、現在の充足率は半分である。

 BNFLは4月1日、民生用のニーズに対応するためにセラフィールドでの施設の操業を継続すると同時に自社の目的を果たすために必要なサービスをNDAに提供すべく、人員の移籍を含め、再編された。BNFLグループは、英国のニーズに集中し、同時にウェスチングハウス社が原子炉サービス、ウラン燃料供給、およびAP1000型原子炉による世界市場での新規原子炉建設で積極的に競争できるように強化された。

 英国政府は、03年2月に国家エネルギー政策の見直しを行ったが、当時は英国の原子力産業の育成に関して何ら明確なコメントを行わなかった。しかし、過去1年間、公衆は二酸化炭素排出量を抑える必要性に対する認識を深め、メディアは原子力発電が気候変動および京都議定書の目標達成に果たす役割をますます指摘するようになった。

 現状では、2020年時点でサイズウェルB発電所のみとなり、原子力発電の減少分はガス火力発電で代替するが、最近の世論調査によれば、公衆は原子力発電が今後、英国のエネルギー供給に対する主要な供給源であるべきと認識し始めている。

 今後の原子力産業の発展には、安全性・環境への配慮、廃棄物の管理、経済性などの課題が指摘できる。

米国の原子力コミュニケーションと公衆の支持――その新たな時代 A・ビスコンティ・ビスコンティ・リサーチ社社長

 米国の原子力産業は最近、明るく、将来が期待できると見られている。原子力発電所の運転実績は大幅に改善し、素晴らしいものとなっている。幾つかの困難な課題も解決され、原子力が一層必要であることはますます明らかになっている。公衆の支持は増加しており、好意的な発言が官僚、ニュース解説者、そして以前は反対派であった一部の人たちからも発せられている。産業界は成長のチャンスを迎えている。

 歴史的には、1980年代初めに、TMI事故の衝撃の後、産業界は原子力の利点に関する大々的な国内コミュニケーションプログラムを開始し、それが十年間続いた。このプログラムは大規模で効果があったものの、個々の電力会社は自分自身の仕事を防衛することに終始した。そのため、まとまった力となり得なかった。

 90年代半ばには電力会社の再編と競争が始まった。産業界内部では運転実績の改善、対外的には連邦政府の政策への対応に重点を置いた。原子力エネルギー協会(ENI)は原子力発電会社を組織的取組みに結集させ、これらの課題に対処することに成功した。しかし、産業界のコミュニケーションは原子力発電の利点ではなく、ユッカマウンテンのような政治問題が中心であった。その結果、原子力発電への公衆の支持は減少し始めた。

 90年代末には、運転実績改善と政治課題への対応に成功したことで、原子力の商品価値が高まり、産業界のビジョンが変化した。この成功により、原子力規制において運転許可の更新が容易となり、電力と大気汚染防止のニーズが拡大したことと相まって、産業界は原子力発電所が建設されるだろうという将来ビジョンを描く勢いを得た。

 この新たな環境の中、NEIは数年前、原子力の利点に焦点を当てたコミュニケーション、「原子力エネルギーブランド」プログラムを開始した。

 このプログラムでは、原子力のプラスのイメージを積極的に作り上げ、社会の理解を得るというコミュニケーションに重点が置かれる。確かに原子力への支持は好転しているが、原子力への支持は必ずしも厚いものではない。したがって、何かの出来事で容易に反対方向へ動き得る。

 これは、公衆が原子力のメリットに対して確信がないためであり、エネルギーコストへの誤解があるためでもある。公衆から確固とした原子力への指示を得るためには、不断のコミュニケーションを維持し続けることが必要である。

新たな原子力研究開発の使命を担って 岡ア俊雄・日本原子力研究所理事長

 エネルギー安全保障と地球環境問題を巡る大きな情勢の変化の下、本年10月には原研とサイクル機構が統合し、独立行政法人日本原子力研究開発機構が誕生する。

 新法人には、4つの使命がある。すなわち、@原子力システムの高度化により、エネルギーの安定確保と地球環境問題の解決に資するA原子力利用の新たな領域の開拓により、科学技術の発展に貢献するB原子力利用の基盤強化により、直面する諸問題の解決に貢献するC原子力施設の廃止措置や放射性廃棄物の安全な処理処分を実現する。

 新法人は、安全研究で中核的な役割を果たすことが期待されており、核燃料の高燃焼度化、高経年化対策に備えた材料評価、リスク情報の活用などに取り組む。これらの安全研究を通して、安全規制と安全性の維持向上に貢献する。

 核燃料サイクルの確立では、最優先課題は民間の軽水炉サイクル事業への支援であり、六ヶ所再処理工場、ガラス固化施設、MOX工場、プルサーマル計画等へ技術移転、技術協力を通して、貢献する。高レベル廃棄物処分では、事業主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)に協力し、2020年の処分地選定、四〇年の処分事業開始に向けて、研究機関としての役割を果たす。これに関連して、超寿命核種の分離、核変換などの技術開発に努める。

 FBRサイクル実用化の研究開発では、「もんじゅ」運転再開を急ぐとともに、実用化戦略調査研究を進め、2015年頃までに競争力のあるFBR技術を開発するべく努力する。

 基礎基盤研究では、核熱利用による水素製造や核融合の研究開発を進める。原子力利用の新領域の開拓では、高品質で大強度の中性子線等の量子ビーム技術の開発により、新しい科学の領域の開拓や産業技術の形成に貢献する。

 

 核不拡散問題では、新法人内に核不拡散研究センターを設け、核物質防護、保障措置の技術開発に取り組むことによって、国際貢献も行う計画である。

 

Copyright (C) 2005 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.