[原子力産業新聞] 2005年5月26日 第2284号 <3面>

[米NYタイムズ紙]「環境団体が原子力見直しへ態度を変化」

 原子力発電の復活が叫ばれる米国で、主要日刊紙の「ニューヨークタイムズ」紙が、15日号に「古くからの反対者が新規原子炉への態度を軟化させる」と題する長文の論説を掲載、注目を集めている。以下に同論説の概要を紹介する。

 ◇米国で最も著名な環境保護主義者数名が、地球温暖化の解決策として原子力を再検討すべきだと発言し始めた。これは環境保護主義者の間で長年タブーだったことで、従来、反原子力では一枚岩だった主流派の壁に、ひびが入り始めたことを示すものだ。

 「ホール・アース・カタログ」の創設者であり、テクノロジー・レビュー5月号の記事「環境の相続人」の著者でもあるS・ブランド氏は、これは化石燃料の利用が引き起こす地球温暖化への懸念の、直接の帰結だと説明している。

 環境派は、二酸化炭素排出の増加と気候変動の直接的なつながりが科学的に証明されるにつれて、石油や石炭などの燃料を脅威としてみなすようになっている。ブランド氏は、エネルギー効率を高め、脱炭素エネルギーとして、太陽光や風力などを取り入れても、「これらを全部足しても、わずかな量にしかならない」とし、「このギャップを埋め、二酸化炭素排出を止める技術は、原子力しかない」と述べる。

 「エンバイロメンタル・ディフェンス」のF・クラップ専務理事などの主流派は、原子力を認めるまでには至らないが、原子力技術を全面的に否定するのではなく、安全、セキュリティ、廃棄物、核拡散等の問題を検討すべきだと強調している。こうした主流派の意識の変化は、環境保護主義者の間で熾烈な論争を巻き起こしている。

 TMI事故や1986年のチェルノブイリ事故以来、米国は原子力の拡大という思考を停止している。米国で最後の原子炉が発注・建設されてから32年が経過、ほぼすべてが第一世代の技術である米原子力発電所は、現在、米国の電力のおよそ20%を供給している。また、電力会社幹部の中にも、政府からの援助なしには、規制機関の承認を得、原子力発電所を建設するコストは高くなりすぎるとの考えもある。

 反対意見の中では、核兵器の拡散につながる可能性があるという声も多い。北朝鮮やイランなどの政府が核兵器技術を獲得する中、兵器級の核燃料生産技術を支援する根拠はどこにあるかと、反対派は問いただしている。また、廃棄物を安全かつ経済的に貯蔵できるかとも問う。

 ブランド氏は、原子力に関する論争はさらに激化すると見ており、数十年続いた路線の変更は難しいだろうとする。

 「気候変動に関するピュー・センター」のE・クラウセン氏は、「状況は変わりつつある」とし、環境団体は、何が可能で何が不可能か、現実を見つめるようになっていると同時に、気候変動への対処のために行わなければならないことに恐怖を感じている、と指摘している。


Copyright (C) 2005 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.