[原子力産業新聞] 2005年5月26日 第2284号 <4面> |
[原産] 原子力調査時報の概要5月19日号1面既報のとおり、日本原子力産業会議はこのほど、原子力調査時報「我が国の原子力供給産業の現況と課題」を取りまとめ発表した。今号ではその中から、第2章〜第4章に焦点を当て、その概要を紹介する。 第1章 原子力市場の現状(略) 第2章 原子力供給産業の特質と事業の実態 (略) 2‐1 企業がみる原子力の事業・技術的特質 2‐1‐1 企業は原子力産業(事業)をどう捉えているか 原子力関連企業の多くは、原子力事業の特徴の一つとして「計画性がないと成り立たない事業」と指摘している。その理由は、原子力プラントの建設期間が火力プラントなど一般施設の建設と比べて非常に長期となるためである。 (略) また原子力は「企業努力が届かない要因が多い産業」としてみられている。それは「予測できない要因によって事業が大きく左右されがちである」との理由である。(略)1回のトラブルや予期せぬ出来事で大きな影響がでてしまうことから「リスキーな事業」ともみられている。 (略) 回答で最も多かったのは、「許認可や品質のハードルが際立って高い産業」といった、とりわけ「品質面」を強調したものである。この点は上記の特徴以上に一般産業と原子力産業の違いを端的に表しているようだ。 (略) 2‐1‐2 原子力技術は「先端技術」か 原子力技術は、かつては先端技術と呼ばれていた。その一つの根拠として原子力供給産業の研究開発投資率が他産業より高水準だったことが指摘されている。 (略) それでは企業は技術的観点からみて、原子力技術(産業)を先端的と考えているのであろうか。アンケート調査によれば、「先端的」あるいは「そうではない」とみている企業は業種を問わず半々である。 (略) 2‐1‐3 原子力の「コア技術」とは何か 原子力供給産業は原子力事業を行うにあたって、どのような技術・ノウハウが重要と考えているのであろうか。 アンケート調査によると、炉心設計・解析、安全解析、耐震設計、機器製造技術、保全技術など各企業の固有の技術が寄せられている。また「耐放射線性」「シール性」「耐震性」「遠隔保守」「溶接等の施工」「放射線管理」など原子力固有の必須技術も指摘されている。 (略) 一方では、上記のような技術項目とは違った観点からの回答が全体のおよそ8割から寄せられている。それらの回答を整理すると、概ね「品質保証・管理」と「経験力」の2つに分類することができる。ここでいう「経験力」とは、長年の経験・実績に基づく技術・ノウハウの積み重ねや人材をいう。 (略) 2‐2 企業の原子力事業の実態 2‐2‐1 厳しさ増す原子力事業 (略) 2‐2‐2 研究開発投資の低迷 (略) 2‐2‐3 コスト低減への対応と取引形態の変化 (略) コスト低減要請に対して製造メーカーの多くは、受注量の確保に注力を払いつつ、設計の「冗長的」な部分の合理化、先行プラントの設計資産を生かすなど設計の効率化、製作期間の集中や製作工程の効率化による工程数低減、競争引合いによる調達品の多様化等で対応している。 (略) 建設・工事企業では設計・解析手法の高度化、工法改善、競争原理導入による外注労務費や材料購入費の削減、アウトソーシングなど、主に企業内での合理化努力で要請に応えてきているところが多い。 また、元請けに対しては検査業務の改善、検査など重複作業の廃止、提出書類の簡素化などコスト低減につながる提案をして、一部は実現している場合もある。 (略) 2‐2‐4 出始めた撤退企業 ここ数年間、中堅以下のメーカーの事業基盤が相当弱体化している。こうした状況に耐えきれずに原子力事業から撤退した企業は、素材・加工、電線ケーブル、バルブ、水処理設備、エア・フィルター、圧力容器、扉・ハッチ、換気・空調設備など幅広い業種に及んでいる。とりわけ素材メーカーの撤退が目立っている。 撤退は原子力事業からの完全撤退やある製品製造からの撤退など色々な形態でみられる。 一方、堅調な保守・メンテナンス市場を形成している工事企業では撤退した企業は少ないようである。もっとも、原子力以外の工事受注の激減によって倒産したり後継者不在で撤退したケースはある。 各企業の今後の原子力事業の展望をアンケート調査したところ、社内での相当な努力にも係らず、市場の低迷や原材料費の高騰等も重なり、現在、採算上、コストダウンも限界だとし、「原子力事業からの撤退も止むなし」と考えている企業が目立っている。 (略) 2‐2‐5 技術優位の企業も存立 厳しい事業環境が続くなかでも、地道な技術開発努力によって、特定製品で技術的優位性を獲得して独占的な供給者となっている企業も存在する。軽水炉関係では、圧力容器の一体型鋳鍛造技術によって、世界の大型圧力容器をほぼ独占的に製造している鉄鋼メーカーが代表的である。 また研究開発機関等の特殊な放射線環境下で使用する各種機器・設備に対して技術的優位性を持っている企業もある。 (略) 2‐3 人材、技術の維持・継承 2‐3‐1 減少する人員 (略) 2‐3‐2 不足感の強い年齢層は20〜30歳代 原子力供給産業のなかでも人材が減少している業種と人数を維持している業種に2極化が進んでいる。 (略) 総じて五十歳代の人員が多く、20〜30歳代の人員の不足を指摘している。 2‐3‐3 技術・ノウハウの維持・継承 (略) 多くの企業では人の経験に基づく設計技術、ノウハウといった「暗黙知」をできるだけマニュアル化・データベース化など「形式知」化する試みや、技能訓練や技能認定制度、OBの活用などによる対応が取られている。 (略) 2‐3‐4 新規建設への対応技術力の懸念 実際の設計、製作、据付といった「ものづくり」の経験がないと、技術・ノウハウの維持・継承が難しいことはよく知られているが、仮に新規の発電プラント建設の経験がなくなると、具体的にはどのような技術的影響がでてくるのであろうか。この点についてアンケート調査したところ、回答で目立っているのは、主に設計や全体的な取りまとめ・調整能力などの技術・ノウハウが欠如する可能性である。 (略) 原子力技術・ノウハウの維持・継承については、アンケート調査でも多くの企業が何らかの形で取り組んでいる結果となっているが、一方では先行きの不透明感から、原子力事業からの撤退も視野に入れ技術ノウハウの継承を行わない企業もみられる。 (略) 2‐3‐5 他の業務で代替は可能か 総じて暗黙知の継承は実際の受注がないと難しいとされている。しかし当面は受注が大幅に増えるという見通しではない。そうであれば原子力に類似した他分野での高品質水準の製造・工事があれば、原子力技術・ノウハウの継承は可能なのであろうか。 この点について、大部分の素材メーカーは「ある程度可能」としているが、機器メーカーと工事企業は「可能」(ある程度も含む)と「困難」とする企業が半々に分かれた。 (略) 2‐3‐6 受注がどのくらい途絶えると継承は困難か 素材・機器メーカーでは「1〜2年」で経営的に厳しい状況になるとする企業、あるいは「10年」という、まだ比較的余裕のある企業もあるが、大部分の企業は「4〜5年」になると厳しいと答えている。さらにヒアリング調査では、10〜20年間にわたって途絶えると日本で作れなくなるとする意見も中堅メーカー以下で多い。その理由として「技能者がまずだめになる」からだという。また新規建設に参入している工事企業については、彼らの新規市場への依存度にもよるが、厳しくなる時期がメーカーよりやや長めであり、「10〜15年」という企業も少なくない。建設企業もすでに厳しい環境に備えているためか、同じように「10〜15年」とみている。これらの結果から、産業界全体としては、ここ数年は技術・ノウハウの維持には差し迫って大きな問題になることはないようである。 2‐3‐7 空洞化への懸念――その影響は (略) 原子力産業が空洞化するような事態になれば、主に品質管理やトラブル対応力の低下によって、我が国の原子力の信頼性を損なう可能性があるというのが大方の見方である。 第3章 今後の原子力市場の見通し3−1 軽水炉市場――新設計画しだいでは拡大へ (略) 今後の新規プラントの計画は、電気事業者の「2005年度供給計画」によると、図5のように2001〜2005年度の5年間は新規着工が2基しかなくボトムとなっているものの、2006〜2010年度の5年間は8基(BWR6基、PWR2基)という多数基が着工になる計画である。この8基という数字は1981〜85年度の11基の着工基数に次ぐもので、計画通りにいくと2010 年頃には新規市場は久しぶりに活況を呈する見込みである。 (略) 一方、輸出市場については、まず既設プラントの保守・メンテナンス、取替需要がある。現在、世界で稼働している原子力発電プラントは434基(2003年12月末現在)で、そのうち70%に相当するプラントがいわゆる西側の設計による軽水炉である。その既存の大型炉の主要機器(圧力容器上蓋、炉内構造物、SG、タービンなど)の製造能力を有する西側企業は、これまでの20年間で淘汰され、フラマトムANP社や日本メーカーなどに限られてきているので、これからも取替用資機材を中心に着実な受注が期待できる。 (略) 3−2 企業が期待している市場 前述したように、当面の厳しさを乗り越えれば再び上昇する市場見通しであるが、実際に企業に聞いてみると、どちらかというと今後の市場の見方は厳しいようである。 (略) とはいえ、厳しい展望のなかでも期待されている市場もある。 (略) これらをみると、燃料リサイクル、廃棄物等のバックエンド事業、核融合、軽水炉の長寿命化対応など、これから国策として取組みが必要とされている分野が多い。とりわけ、建設・エンジニアリング企業は放射性廃棄物処理・処分関係とデコミショニング関係の市場に期待が高い。 第4章 事業の課題にどう取り組むか4−1 市場確保策 原子力供給産業は基本的に生産財産業であるので、これまで継続的に取引する企業のニーズへの対応に力点が置かれ、自らが取引拡大を目指すといったマーケティング的思考は薄かったといってもよい。 (略) しかし一方では、これまでの技術的習熟の蓄積による原子力事業に対する自信によって、企業自らの努力によって市場を開拓していこうという気運がプラントメーカーを中心にでてきている。 その一つが既存炉に対するパフォーマンス向上のための取組みである。 (略) さらに将来的には、現行軽水炉の改良型炉や次世代炉、FBR、核融合炉などの発電市場ばかりでなく、水素製造システム、海水淡水化システムなど新たな原子力用途の実現可能性もある。 (略) 「輸出」への取組みも重要である。産業界にとって輸出は、直接的には市場拡大の一環として、さらに国内市場の"谷"を埋める調整機能を持っている。輸出は企業利益のためだけでなく、安全性・信頼性や経済性を兼ね備えた我が国原子力プラントを広く世界に普及させていくことを通じて、環境問題への貢献あるいは技術立国としての国際競争力確保という国益にも沿うことでもある。 (略) 4−2 品質とコスト 「一般用は8割がコストをいかに下げるかに努力が払われるが、原子力用はコストよりも、いかにユーザーの要求を満たすかに努力が費やされる」といわれるくらい原子力では「品質」が重要視されるが、既述したように近年ではコスト削減も求められるようになり、「品質もコスト削減も両方が重要」(電気事業者)という状況下にある。 しかし、産業界にとってはこの課題への対応は簡単なこととは捉えていないようである。 (略) 4−3 大型プロジェクトの開発力維持 (略) 原子力を自立した国産エネルギーとして位置づけるのであれば、ある一定の原子力技術力を国内に保持しておく必要がある。 そのためには、本稿では取り上げなかった科学的合理的な規制等への取り組み、核燃料サイクルの確立なども含め、さまざまな課題について、民間で取り組むべき課題と官民で取り組むべき課題を明確にして、中長期的展望のもとに整合性のとれた適切な方策を官民一体となって推進し、現在の厳しい状況を克服しつつ体質強化を図り、再び成長していく基盤を再構築し、魅力ある産業として甦る必要がある。よくいわれるように、「技術」というのは莫大な利益機会を内包しているわけで、その「技術」という財産をいろいろな産業分野で築くことによって、我が国は経済的繁栄を維持している。エネルギー分野でも、いずれは化石エネルギーにかわって知的資源(技術)による電力や水素等のエネルギー源の安定供給が世界の主流になってくると思われる。技術立国である我が国として、これらに大きく貢献していくためにも、現在の原子力技術力を維持・発展させ、国際優位性を確保しておくことが、公益的観点からも重要だと考える。 |