[原子力産業新聞] 2005年6月2日 第2285号 <2面>

[日本学術会議] 世界物理年フォーラム開催

 日本学術会議は5月25日、東京・港区の学術会議講堂で、世界物理年フォーラム「量子ビームテクノロジー革命―未来型社会・産業を拓く21世紀の先端技術」を開催した。本年は、アインシュタインが「特殊相対論」他に関する三論文を発表してから100年目に当たることから、「世界物理年」として世界中で関連の催しが行われている。本フォーラムもこの一環として、世界物理年日本委員会(有馬朗人会長)を始め、関連の研究機関・学会の共催で、量子ビームに焦点を当てた先端的な科学技術の発展、社会・経済への応用、新産業の創出に向けた将来を展望することを趣旨として行われた。

 冒頭の来賓挨拶で、棚橋泰文・科学技術政策担当大臣(=写真)は、量子ビームによる技術が既に医学、産業など広範な分野で役立っているとした上で、本フォーラムが将来の一層の発展に向け実り多きものとなることを期待した。

 続く講演の部では、有馬会長が「量子ビームが拓いた世界」と題する基調講演を実施。その中で、日本がまず急ぐべきこととして、大強度陽子加速器ーと理研の「RIビームファクトリー」の建設を挙げ、原研、理研、高エネルギー加速器研究機構が強力にこれらを推進することを求めるとともに、「基礎科学の研究は技術の発展を、高度技術の発展は基礎科学の飛躍を促す」として、基礎科学と技術の両者が協調し合って発展していく必要を述べた。

 引き続きパネル討論「量子ビーム・テクノロジーの未来を語る」が、吉川和輝・日経新聞編集委員の進行により行われ、研究機関より量子ビーム研究の成果と応用について紹介されたほか、それら研究所が立地する茨城県の橋本昌知事からは量子ビームを活用した地域活性化に向けた方策、小田公彦・文科省大臣官房審議官からは加速器・放射光研究の振興に向けた国の戦略が述べられ、それを受けて、各パネリストにより研究施設の産業利用のあり方を巡る討論が行われた。

 若槻壮市・高エネ研物質構造科学研究所教授は、放射光がタンパク質の原子レベルでの構造解析に応用され、副作用のないインフルエンザ薬の研究開発が進められていることなどを紹介。また、辻井博彦・放医研重粒子医科学センター長は、X線技術が放射線治療に欠かせないものとなった現在でも、ガンマナイフ、強度変調放射線治療(IMRT)など、革命的な進歩を続けている医学利用の実態を述べた。一方で、HIMACに代表される重粒子線治療については、医療経済の観点から装置の小型化・低コスト化、治療法の改善を図り、より多くのがん患者が治療を受けられるようハード・ソフト両面を拡充していく必要を指摘した。これらを受けて、橋本知事は、量子ビーム技術を活用し、@人、物、技術の交流促進A科学技術創造立国の拠点B産業の活性化ーーを目指して、県内のつくば地区国立研究機関、1600社に上る日立関連企業、原子力研究機関が十分に連携することを期待した。


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