[原子力産業新聞] 2005年6月9日 第2286号 <3面>

[寄稿] 本音での日韓原子力交流 遠藤哲也氏(前原子力委員長代理)

 去る5月下旬、私ども同じ事務所(UCN)で机を並べる3人(森一久、浜崎一成、および遠藤)は、3泊4日の日程でソウルを訪問し、韓国の原子力関係者と懇談した。日韓の原子力界の間には、官民双方で諸々のチャネルがあり対話、交流が行われているが、建前論の意見交換が少なくなく、今一つ物足らない感じを抱いていた。

 私共3人はいずれも役職を離れ、名実ともに自由な立場にあるので、腹蔵のない話合いをしてみたいというのが今回の訪問の目的であった。もっとも、そうは言っても、今回の訪韓にあたっては、駐日韓国大使館や森氏の旧知の韓国原産会議の李前・現副会長、遠藤のKEDO担当大使時代から知己の韓国水力・原子力鰍フ李重載社長、李昌健前原子力委員等にお世話になり、おかげで多くの関係者と懇談することができた。

 以下に私共にとって最も関心のあった若干の問題について韓国側の考え方を私共の責任でとりまとめてみた。

▽核燃料サイクル

 1つは、核燃料サイクルについてである。原子力大国として、またエネルギー資源に恵まれない韓国としては将来的には関心のあるところだが、当分の間はプルサーマル、高速増殖炉も含めサイクル関連には手をつけないとの立場である。表向きの理由はコスト高から経済性がないということだが、本音の方はその是非はともかく、朝鮮半島非核化宣言もあるし、いずれにせよ、これは非常に高度な政治問題であって、統一までは「君子危うきに近寄らず」じっと待つという態度のようである。

▽放射性廃棄物

 2番目は、放射性廃棄物の処理・処分についてである。韓国は中・低レベル、高レベルのいずれの放射性廃棄物の処理についても長年悩まされている。特に早急に目途を立てる必要のある中・低レベル廃棄物については、立地を巡って再三政治問題化して来た苦い経験がある。

 最近この問題について、ようやく曙光が見えて来たようだ。2005年中には1か所に絞り込める目途がついて来た模様で、関係者はいずれも安堵の面持ちであった。なお、高レベル廃棄物(韓国では使用済み燃料を「収去物」と称している由)については、しばらくの間は、サイト内の積増しや移動によって、2016年頃まではしのぐことが出来るようで、中、低レベル廃棄物ほど焦っているとの感じをうけなかった。

▽北朝鮮核開発問題

 今一つは北朝鮮の核開発問題、特に核実験の可能性とそれに対する韓国側の反応についてである。この問題について、日本では非常に神経質になっていることに触れつつ先方の反応を聞いたが、韓国側はほぼ異口同音に、核実験はあり得ないだろうとの事であった。金大中、盧武鉉大統領と二代続いた対北和解政策が、原子力界にも浸透している故であろうか。

 その他にも地球温暖化対策、原子炉輸出問題等についても話し合ったが、隣り合う日韓両国の連携を深めることの重要性からも、今回の訪問による自由な意見交換は非常に有意義であり、今後も続けていきたいと思っている。


Copyright (C) 2005 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.