[原子力産業新聞] 2005年6月23日 第2288号 <4面> |
[原子力委] 新計画策定会議 次期長期計画の構成案本紙9日号で所報のとおり、原子力委員会の新計画策定会議は7日、次期長期計画の構成案を発表、9日から意見募集を開始した。本号では同構成案の概要を紹介する(紙面の関係で一部省略・編集した部分があります)。 はじめに 我が国における原子力の研究、開発及び利用は、原子力基本法によって、厳に平和利用に限り、安全の確保を前提に推進され、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とをはかり、もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目指して行われるべきものとされている。 原子力委員会は、この目的を達成するための国の施策が計画的に遂行されるよう、必要な企画、審議及び決定を行う任務を有しており、この任務を達成するための一環として、1956年以来、おおむね5年ごとに計9回にわたって長期計画を策定してきた。現行の長期計画は、2000年11月に策定されたものである。 原子力研究開発利用活動は、先端的な巨大技術に関わるものを含み、広範な課題について国が果たすべき役割が大きな分野であり、その施策は全体として上の目的を効果的に、しかも効率的に達成するものであるべきである。このため、関係行政機関は、2001年1月の中央省庁再編により内閣府に属することになった原子力委員会が、この目的を達成するために長期的かつ総合的視点に立って定める基本的方針を踏まえて、それぞれが所掌する分野においてこれを企画・実施し、推進することになっている。 また、これらの活動は国民の理解を得つつ進められる必要があり、原子力研究開発利用に携わる当事者にはそのための努力が当然に求められるが、それらが原子力委員会が国民の意見を踏まえつつ定めた基本的考え方に基づき推進されることは、この理解を得るために重要である。 そこで、原子力委員会は、長期的かつ総合的視点から、我が国における原子力研究開発利用の推進の基本的考え方と推進のための施策の基本的方向を示すことにし、これを新計画として、昨年6月から新計画策定会議を設置してその策定作業に着手した。 この「新計画の構成」は、これまでの策定会議におけるさまざまな分野における課題と今後の取組に関する議論の結果を、@わが国の原子力研究開発利用推進の基本的目標、Aこの目標を達成するための今後の取組の基本的方向、B今後の推進のための取組の基本的考え方――という構成に整理したものである。 1.原子力研究開発利用推進の基本的目標内外における原子力利用の現状と、これを取り巻く情勢を踏まえれば、今後の原子力研究開発利用の推進に当たっては、次の各項を基本的目標とするべきである。 (1) 原子力にかかわる活動は、安全の確保、国民・地域社会との相互理解、平和利用の担保、廃棄物管理を含む環境保全の実現を前提とする。 (2) 原子力のエネルギー利用に係る活動を通じて、学術の進歩、産業の振興はもとより、エネルギーの安全保障の確保と地球温暖化対策に貢献する。 (3) 放射線利用に係る活動を通じて、学術の進歩、産業の振興、人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに貢献する。 (4) 国の施策は、有意性、経済性、効率性の観点から最も効果的なものとなるように企画し、推進する。 2.原子力研究開発利用推進の今後の取組の基本的方向 2・1 現状認識○事業者における不正行為を契機とした一連の点検で発見された事象や品質保証システム等が十分に機能していないことに起因して発生した事故・事象は、当該事業者はもとより、国の規制行政の安全確保に対する国民の信頼を喪失させた。 ○今後とも世界のエネルギー需要が増加していくことが予想される一方、地球温暖化に向けての取組がより広範に求められていくと予想されることから、人類の利用可能なエネルギー供給手段として、発電過程で二酸化炭素を排出しない原子力発電の役割は、今後長期にわたって増大こそすれ減ずることはないと考えられる。我が国の原子力発電はエネルギーの安定供給の確保にも貢献しており、今後とも貢献が期待されている。 ○我が国の電気事業者は、電力需要の伸びの鈍化、電力自由化の進展に伴い、回収に長期を要する大型原子力施設への投資に対してより慎重な姿勢を示すようになってきている。 (中略) ○少子高齢化の進展、原子力発電所の建設機会減少などから、原子力利用を支える人材を維持していくことについて懸念が表明されており、将来に向けて優れた人材を確保していくための取組を検討・推進することが急務となっている。 ○本年10月の日本原子力研究開発機構の発足により、多様で幅広い選択肢を視野に入れた研究開発などを推進し、これを契機として、我が国の原子力研究開発体制を柔軟性と迅速性を満たすものに再構築することが求められている。 ○北朝鮮のNPT脱退宣言や核兵器保有発言等のNPT及びIAEA体制に対する挑戦や原子力施設や核物質に対するテロ活動の可能性に対する関心の高まりから、これらの制度の見直しや対策の強化が重要課題になってきている。 2・2 今後の取組の基本的方向(1) 原子力活動基盤の一層の充実 原子力活動は、平和利用に限定されていることを明らかにしつつ、安全の確保、国民・地域社会との相互理解などを前提に、必要な人材を揃えて行われるべきものである。 そこで、このために必要な、情報提供や規制活動、立地地域との共生に係る制度、平和利用の担保、人材の育成など原子力活動に関する基盤の一層の整備・充実に向けて、効果的かつ効率的な取組を目指すべきである。 (2) 原子力利用の着実な推進 原子力技術は、地球温暖化の抑制、我が国のエネルギー安全保障に貢献するとともに、農業、医療など様々な分野における利用を通じて国民生活の水準の維持・向上に寄与している。これらの貢献・寄与が引き続きなされるよう、こうした技術を、市場における競争力を一層高める観点から、改良・改善していくことを目指す。 (3) 原子力研究開発の着実な推進 エネルギーや医療などの利用分野で、人類の持続的発展に貢献し、産業の振興や生活の質の向上に寄与できる利用価値の高い原子力技術の選択肢を次世代のために用意するとともに、他の重要科学技術分野に必須の研究手段を提供するなど、原子力分野の研究開発は極めて高い重要性を有する。 このため、国は、原子力分野の研究開発を、国にとって基幹的な研究開発分野に位置付け、適切な官民役割分担のもと、投資の費用対効果などを総合的に検討して着実に企画・推進し、質の高い研究開発成果の創出を目指す。 (4) 国際的取組の着実な推進 国際社会の一員として原子力利用に係る国際規範を遵守し、この規範や関連インフラの整備に参加するとともに、積極的に国際協力や国際展開に取り組むことを目指す。 (5) 原子力政策の評価 国は、各政策について、計画―実施―評価―改善のサイクルを的確にまわしていく観点から、適宜に適切な評価を実施し、評価結果を計画の見直しや資源配分等に反映することを目指す。 3.原子力研究開発利用推進の今後の取組の基本的考え方3・1 原子力活動基盤の一層の充実 (1) 安全の確保 ○原子力活動においては、原子力施設の安全が確保され、そのための活動が誠実に実施されることが大前提である。また関係者がその状況を国民に十分に説明し理解されるよう努力することが必要である。 ○核物質防護については、改正された原子炉等規制法に基づいて的確な対応が必要であり、有事対策についても、国民保護法、武力攻撃事態対処法などに基づいて適切な整備が進められるべきである。 (2) 原子力と国民・地域社会との共生 ○原子力研究開発利用活動のもたらしている利益やリスク、原子力政策の立案、決定過程、そして原子力関係機関の諸活動の透明性を確保するとともに、積極的な広聴活動を通じて得られた国民、地域社会の意見をこのような諸活動に反映させていくことが重要である。また、原子力に関する学習機会の整備・充実に取り組むべきである。さらに、政策決定過程に国民の意見を反映させる国民参加への取組は、国民にとって効果感があるものにしていくように取り組んでいくことが重要である。 ○地方自治体は、国が適切な安全規制を行っていることなどを前提に、これらを効果的に活用するなど、国と密接な連携を図ることが期待される。 ○原子力活動は関係施設が立地できてはじめて可能になり、その安定的な活動により期待される国民社会に対する貢献も可能になる。このため、原子力施設の立地地域においては、原子力施設と地域社会が共に発展し、共存共栄するという「共生」の考えが重要であり、事業者等には、地域が主体となって作成・推進する地域の持続的な発展のためのビジョンの実現に積極的に関わっていくことが期待される。また、国もそれら自助努力を支援していくことが必要である。 (3) 平和利用の担保 ○我が国は、原子力を厳に平和の目的に限って利用しており、このことを、IAEA保障措置について追加議定書を含めて確実に実施することにより、国際社会に対して明確にしていく必要がある。 (4) 人材の育成及び確保 ○人材の育成及び確保のため、原子力利用の有用性に対する社会の理解を得ることを含めて、産学官の連携を強化しつつ、多様な対策に取組むとともに、原子力分野を魅力ある職場とすることにも取組むことが必要である。 3・2 原子力利用の着実な推進(1) エネルギー利用 ○我が国は、今後ともエネルギー安全保障や地球温暖化抑制の視点を踏まえて、エネルギー供給を確保していく必要があることから、2030年以降も原子力発電に発電電力量の30〜40%程度という現在の水準程度かそれ以上の役割を期待することが適切である。 ○既存プラントは安全が確保できる範囲でこれを最大限活用し、高経年化対策や高度利用に取り組むに当たってもその安全かつ安定的な運転に万全を期するとともに、安全確保や地元を始めとする国民理解を大前提に軽水炉の新規立地に取り組むことが適切である。 ○使用済燃料を再処理し、回収されるウラン、プルトニウム等は有効利用することを基本方針とし、当面は、プルサーマルを着実に推進すること、再処理能力の範囲を超えて発生する使用済燃料は中間貯蔵することとするのが適切である。 ○高速増殖炉は、その研究開発の成果によるのは当然であるが、ウラン需給動向や経済性等の諸条件が整うことを前提に、2050年頃から商業ベースで導入を目指すことが適切である。 ○国は、関係者との将来ビジョンの共有、電力自由化に伴う需要面での対応、技術開発の戦略的プロジェクトへの重点化等の政策課題の検討を行うべきである。 (2) 放射線利用(中略) (3) 放射性廃棄物処理・処分 ○放射性廃棄物は、発生者責任の原則、廃棄物最小化の原則、合理的な処理・処分の原則、国民との相互理解に基づく実施の原則のもとで、安全に処理・処分されるべきである。 ○高レベル放射性廃棄物の処分等を現世代の責務として捉え、関係者は、その実施に向け、様々な取組に対する責務を十分に果たしていくことが重要である。また、国は関連する必要な措置の検討などを速やかに行うことが重要である。 3・3 原子力研究開発の着実な推進(1) 原子力研究開発 ○原子力発電・核燃料サイクル技術の改良改善を図り、さらには革新技術の導入を目指す研究開発を継続的に実施していく必要がある。放射線利用の分野は今後とも多様な展開を目指して研究開発を積極的に進めていくことが妥当である。 ○国は、原子力研究開発を基幹的な研究開発分野に位置付け、引き続き投資し、基礎から実用技術の研究開発まで様々な段階の研究開発を並行して実施していくべきである。その際には、原子力の特質や研究開発課題の分野や、研究開発の段階に応じた官民分担のあり方や「選択と集中」の考え方を踏まえて、研究開発資源を効果的かつ効率的に配分するとともに、各段階に応じた適時適切な評価を行うことに留意すべきである。各段階の主要な取組項目は以下のとおり。 (中略) (2) 大型研究開発施設 (中略) (3) 知識・情報基盤の整備 ○技術の実用化や、これまでに得られた知識・経験を次代において積極的に活用するためには、組織内部あるいは組織間で知識・技術を円滑に継承、移転することが必要である。研究開発組織や研究者は、このことに関して産学官間で効果的な連携が図られるよう相互学習ネットワークの整備に努めるべきである。 3・4.国際的取組の着実な推進(1)核不拡散体制の維持強化 ○世界各国のIAEA追加議定書の締結、原子力供給グループ体制の強化等の核不拡散体制の維持・強化に取り組むとともに、核軍縮外交を着実に推進すべきである。 (2) 国際協力の推進 ○途上国協力については、相手国の原子力に係る知的基盤の形成、経済社会基盤の向上などに寄与することを目的とし、協力を進めるべきである。 ○先進国協力及び国際機関への参加・協力については先進国共通の責務を果たすこと、我が国の研究開発リスク及び負担の低減を図ることなどを目的として、積極的に推進すべきである。 (3)原子力産業の国際展開 ○各国が原子力発電を導入・拡大することは、エネルギー資源をめぐる国際競争の緩和や地球温暖化の抑制につながり、我が国にとっても利益のあることである。国は、こうした国々に対して我が国の原子力産業が国内で培われた技術を供給する取組を意義のあることとして、国際的な核不拡散体制の枠組みに沿った輸出管理を行うことなどを前提とし、官民協調して対応することが重要である。 3・5 原子力政策の評価○国は、研究開発をはじめ各政策の実施状況については適宜適切な評価を実施し、評価結果を計画の見直しや資源配分等に反映するとともに、国民に対し公表することが重要である。 |