[原子力産業新聞] 2005年7月7日 第2290号 <2面>

[日本学術会議] JCO事故でシンポ開催

 日本学術会議は6月29日、学術会議講堂(東京・港区)で、シンポジウム「安全をめぐる現代的課題」を開催した(=写真)。

 日本原子力学会がこのほど、99年に発生したJCO臨界事故について、調査報告書を取りまとめたことを受けたもの。冒頭、久米均・学術会議第五部長は、「JCO事故は、安全について社会が関心を向けるきっかけとなった」と述べ、安全管理については、食品衛生など他分野とも共通するところが多くあることから、今回のシンポジウムが多方面で安全を考える際に役立って欲しいと期待した。

 続いて、事故当時、政府事故調査委員会を先導した吉川弘之・産業技術総合研究所理事長は、作業手順を巡る許可・判断に介在した管理者らにJCO事故の一原因があったことから、社会科学に基づく「社会技術」により、情報循環の整合化を図る必要があったことを教訓として訴えた。

 今回、原子力学会が取りまとめた事故調査報告について、田辺文也氏(原研原子炉安全工学部)は、事故の原因を「ダイナミックなトータル・システムのグランドデザインが欠如した状況で、転換試験棟の改造に当たって、硝酸ウラニルおよび溶液混合均一化を考慮した設計がなされず、チェック機能も充分に働かなかった。操業段階で、個々の事業者によるアドホックで局所最適的な意志決定のもとに生産システムと工程の改変などが行われ、最終的な工程改変が現場作業者の誤ったシステム理解に基づいてなされた」と分析。あわせて、「電力自由化に端を発した合理化による現場作業員の作業量の増大と、勤務形態の変化が決定的な役割を果たした」と、その背景を指摘している。加えて、事故発生の防止に向けて、安全のために運転・運用が許容される限界「安全境界」の理解を強調した。

 事故時に原子力安全委員を務めていた住田健二・阪大名誉教授は、今回の事故が原子力研究機関が集中する東海村で発生したことは、関係者の自発的努力が発揮された「不幸中の幸い」だったとするとともに、これら地元の厚い支援を間近に見て、事故時には最近論じられている「モラルのなさ」は全く感じられなかったと当時を振り返った。

 同氏は最後に、核燃料を取り扱う場合の最も基本的な恐るべき事故が忘れられていたことを「悲しく受け止め」、「自分たちの携わる仕事は危険なのだ」という認識を持つことを原子力関係者に訴え、シンポジウムを結んだ。


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