[原子力産業新聞] 2005年7月21日 第2292号 <4面> |
[政府] 05年版 科学技術白書の要旨(2)6月23日号既報の通り、政府は6月10日、2004年度において科学技術の振興に関して講じた施策についての報告である、「科学技術の振興に関する年次報告(05年版科学技術白書)」を閣議決定した。今号ではその中から、第3部第2章「科学技術の重点化戦略」第2節5「エネルギー分野」の中から、(1)「原子力の研究、開発および利用について」の概要を紹介する。 (1)原子力の研究、開発及び利用について 我が国の原子力の研究、開発及び利用は、「原子力基本法」にのっとり、厳に平和目的に限り行われてきた。また、原子力研究開発利用の基本方針及び推進方策については、原子力委員会が策定する「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下「原子力長期計画」という。)に沿って着実に進められている。現在、原子力委員会は新たな原子力長期計画の策定に向け、平成16年6月から新計画策定会議を開催し、平成十7年中に策定することを目指して、検討を行っている。 今日、原子力発電は電力供給の約三分の一を占める基幹電源として、また、地球温暖化対策に資するエネルギー源として重要な役割を果たすとともに、加速器等原子力科学技術は、基礎科学分野における新たな知見をもたらすのみならず、ライフサイエンスや物質・材料系科学技術分野等に欠かせない研究手段を提供している。また、放射線利用についても、医療、農業、工業、環境保全など広範な分野で普及しており、原子力は我が国のエネルギー供給の安定性確保と国民生活の質の向上に大いに貢献している。 一方、我が国における原子力の研究開発体制については、「特殊法人等整理合理化計画」において、日本原子力研究所及び核燃料サイクル開発機構を廃止した上で統合し、新たに原子力研究開発を総合的に実施する独立行政法人を設置することとされた。文部科学省では、原子力二法人統合準備会議を開催し、「原子力二法人の統合に関する報告書」を取りまとめた。これらを受けて、第161回臨時国会において独立行政法人日本原子力研究開発機構法が成立し、現在、平成17年10月の新法人の設立に向けて作業を進めている。 (原子力発電と核燃料サイクル) @原子力発電 原子力発電は、我が国のエネルギーの安定供給を確保するための主要なエネルギー源の一つとして、また、発電過程において二酸化炭素、窒素酸化物などを排出しないことから、地球環境保全の面でも優れたエネルギー源の一つとして、安全性の確保及び平和利用を前提としてこれまで着実にその研究開発利用が進められてきた。 現在の我が国の主流の原子炉である軽水炉については、政府、電気事業者、原子力機器製造事業者等が協力して、我が国の自主技術による軽水炉の安全の確保を大前提とした稼働率の向上及び従業員の被ばく低減を目指して技術開発を実施してきたところであり、これまでの運転経験を反映して、安全性と経済性の向上を目指した軽水炉技術の高度化が進められてきた。 A核燃料サイクルの技術開発等 エネルギー資源の大部分を輸入に依存する我が国は、将来の世界のエネルギー需要を展望しながら、長期的なエネルギー安定供給の確保を図るとともに、環境への負荷の低減を図っていくため、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの確立に向けた取組を進めている。 プルトニウム利用を進めるに当たっては、核拡散についての国際的な疑念を生じないよう、核物質管理に厳重を期すことはもとより、利用目的のない余剰のプルトニウムを持たないとの原則を一層明らかにする観点から、プルトニウム在庫に関する情報の公表を行うなどプルトニウム利用の徹底した透明化を進めている。具体的には、プルトニウム利用の透明性向上のための国際プルトニウム指針を採用し、毎年の我が国のプルトニウム管理状況をIAEAを通じて公表している。 原子力発電の燃料である濃縮ウランについては、核燃料サイクル全体の自主性を確保する観点から、経済性を考慮しつつ、国内でもウラン濃縮事業を展開している。 原子力発電所から生じる使用済燃料の再処理については、これまで、核燃料サイクル開発機構の東海再処理施設に委託された一部を除いて、英国核燃料会社(BNFL社)及びフランス核燃料会社(COGEMA)への再処理委託契約により実施してきた。今後、我が国は使用済燃料の再処理は国内で行うことを原則としていることから、青森県六ヶ所村に民間再処理工場(年間再処理能力800トンU)を建設しており、平成19年5月の竣工を目指して、現在段階的な試験を実施している。民間再処理工場の建設・運転により商業規模での再処理技術の着実な定着を目指しており、核燃料サイクルの確立に向けた展開が図られている。 また、東海再処理施設は、電力事業者と契約している軽水炉使用済ウラン燃料の再処理を継続して進めており、これまでに再処理した使用済燃料は累積で約千六十トンに達している。現在の役務契約終了後は、新規契約は行わないこととしている。 また、我が国のウランプルトニウム混合酸化物(MOX)燃料加工の研究開発は、核燃料サイクル開発機構を中心として実施されており、その加工実績も平成16年12月までの累積で約170トンMOXに達している。 使用済燃料の中間貯蔵に関しては、使用済燃料が再処理されるまでの間の時間的な調整を行うことを可能にするので、核燃料サイクル全体の運営に柔軟性を付与する手段として重要である。 平成11年には、中間貯蔵に係る法整備が行われ、民間事業者は平成22年までに操業を開始するべく準備が進められている。 プルトニウム、回収ウラン等を柔軟かつ効率的に利用できるという特徴を持つ原子炉として自主開発が進められてきた新型転換炉「ふげん」については、平成15年3月に運転を終了し、同年九月末に成果を取りまとめ、事業は終了した。現在は、今後の本格的な廃止措置に備えた研究開発を行っている。 B放射性廃棄物の処理及び処分 放射性廃棄物の処理、処分及び原子力施設の廃止措置は、整合性のある原子力利用の推進及び国民の理解と信頼を得る観点から最も重要な課題の一つである。放射性廃棄物は、放射能レベルの高低、含まれる放射性物質の種類等が多種多様であることから、発生源にとらわれず処分方法に応じて区分し、具体的な対応を図ることとしている。 高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発については、核燃料サイクル開発機構を中核的推進機関として、日本原子力研究所、産業技術総合研究所、大学等の関係研究機関の密接な協力の下、研究開発が進められている。また、研究を進める上で重要な施設の計画としては、核燃料サイクル開発機構が、岐阜県瑞浪市(結晶質岩)及び北海道幌延町(堆積岩)において深地層の研究施設計画を推進している。 原子力発電の運転に伴い発生する低レベル放射性廃棄物については、既にその一部が平成四年12月から青森県六ヶ所村の日本原燃株式会社低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいて受け入れられており、平成十7年度1月末までに200リットルドラム缶約17.0万本が同センターで受け入れられている。 (略) 原子力施設の廃止措置については、現在、日本原子力研究所及び核燃料サイクル開発機構において、前述の「ふげん」を含め、核燃料サイクル関連施設の廃止措置に関する調査及び技術開発が行われている。 (高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発) (略) 「もんじゅ」は、平成7年12月のナトリウム漏えい事故以来運転を停止しているが、核燃料サイクル開発機構は、運転再開に向け、安全性を更に高めるためのナトリウム漏えい対策改造工事を実施することとし、国の許可を得るとともに、平成17年2月には、本件改造工事について福井県及び敦賀市より工事着手の了解を受領し、改造工事準備を開始した。 また、「もんじゅ」原子炉設置許可の無効を求めた行政訴訟に関しては、平成15年1月の国側敗訴の高裁判決を受け、国側は最高裁に上訴し、その上訴が受理された。平成17年3月には最高裁で口頭弁論が開催された。 さらに、現在、核燃料サイクル開発機構は、平成11年7月から電気事業者等と協力して、高速増殖炉サイクル技術として適切な実用化像とそこに至るための研究開発計画を提示するため「実用化戦略調査研究」を推進しており、安全性・経済性の向上や、環境への負荷の低減、核不拡散等に配慮した実用化候補を明らかにする研究開発に取り組んでいる。 (核融合研究開発の推進) 核融合研究開発の推進は、未来のエネルギー選択肢の幅を広げ、その実現可能性を高める観点から重要である。現在、我が国の核融合研究開発は、原子力委員会が策定した「第三段階核融合研究開発基本計画」及び原子力長期計画に基づくとともに、平成15年1月に科学技術・学術審議会核融合研究ワーキンググループが取りまとめた「今後の我が国の核融合研究の在り方について」を踏まえて重点化を図りつつ、日本原子力研究所、核融合科学研究所、大学等で、相互の連携・協力により進められている。また、二国間・多国間の国際協力も積極的に進められている。 日本原子力研究所では、トカマク方式について実用化を目指した研究開発を進めている。特に、臨界プラズマ試験装置(JTー60)に関しては、国際熱核融合実験炉(ITER)のための物理研究開発や定常核融合炉概念の実証等で世界を先導する成果を上げており、更なるプラズマ閉じ込めの性能向上による高圧力プラズマの長時間運転を目指している。 核融合科学研究所においては、我が国独自のアイデアに基づくヘリカル方式による世界最大の大型ヘリカル装置を建設し、新しいプラズマ領域の研究を世界に先駆けて行っている。平成16年12月にはプラズマへの入力エネルギー値として世界最高記録となる十三億ジュールを達成した。 また、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターをはじめ関係大学・独立行政法人において、各種磁場閉じ込め方式及び慣性閉じ込め方式による基礎的研究、炉工学に係る要素技術等の研究が進められている。 (略) (原子力科学技術の推進) <原子力科学技術には、加速器や高出力レーザーの開発や利用により、物質の究極の構成要素や自然の法則を探究し、ライフサイエンスや物質・材料系科学技術等の様々な科学技術分野の発展を支える基礎・基盤的な研究と、核融合や革新的な原子炉の開発といった、将来のエネルギー安定供給の選択肢を与え、経済・社会や生活者のニーズに対応する研究開発という二つの側面がある。原子力科学技術を推進するに当たっては、創造性豊かな研究を育む環境を整備し、これらを支える基礎・基盤研究との均衡ある展開を図りつつ、効率的に進めることが重要である。 加速器科学については、常に国際的競争状態に置かれており、提案・評価後、遅滞なく評価結果を反映させることが重要である。日本原子力研究所と高エネルギー加速器研究機構が共同で、世界最高レベルのビーム強度を持った陽子加速器を建設し、生命科学、物質・材料科学、原子核・素粒子物理学等の広範な研究分野の新展開を目指す大強度陽子加速器計画については、原子力委員会及び学術審議会加速器科学部会が設置した大強度陽子加速器施設計画評価専門部会において平成十二年八月に取りまとめられた評価結果を踏まえ、平成十三年度から建設に着手している。 平成15年12月には科学技術・学術審議会の下に設置された大強度陽子加速器計画評価作業部会において中間評価が実施され、平成16年度からはニュートリノ実験施設の建設にも着手している。また、理化学研究所においては、水素からウランまでの全元素のRIを世界最大の強度でビーム化する加速器施設「RIビームファクトリー」の建設を進めている。 二十一世紀を展望すると、高い経済性と安全性を持ち、熱利用等の多様なエネルギー供給や原子炉利用の普及に適した革新的な原子炉の開発や、使用済燃料や放射性廃棄物の処理・処分問題の緩和、核拡散抵抗性の向上等の特徴を有する革新的な核燃料サイクルシステムの実現が期待されている。 (略) (放射線利用の普及) 原子力利用の一つとして、放射線は基礎・応用研究から医療、工業、農業等の実用に至る幅広い分野で活用されており、研究開発を進めつつ放射線利用の普及を図っていくことが重要である。 各種分野における放射線利用の状況としては、医療分野において、X線CT(X線コンピュータ断層撮影)等の放射線による診断や、X線、ガンマ線等を利用したがん治療が既に実用化されており、現在、陽子線、重粒子線等によるがん治療の研究が行われている。特に、放射線医学総合研究所においては、高度先進医療として承認され、がんに対する高い治療効果が期待される重粒子線によるがん治療の研究に取り組んでいる。また、第三次対がん十か年総合戦略に基づき、装置の小型化研究等も進められている。大学においても、筑波大学陽子線医学利用研究センター等で陽子線等によるがん診断・治療の研究を行っている。農業分野では、農作物の品種改良や、農薬を使わない害虫駆除、ジャガイモの発芽防止等に放射線が利用されている。工業分野では、工業製品の非破壊検査や工業計測、ゴム、プラスティック等の高分子材料の改質などに放射線が用いられている。研究利用では、日本原子力研究所において、イオンビームやガンマ線を用いて資源確保や環境浄化に役立つ新機能材料創製やバイオ技術、電子線を用いて排煙中の有害物質を除去する環境保全技術などの研究が進められている。 (略) |