[原子力産業新聞] 2005年8月25日 第2296号 <3面> |
[寄稿] 難航予想される6か国協議 遠藤哲也氏(前原子力委員長代理)1年1か月ぶりに開かれた第4回目の6者協議は13日間というこれまでにない長いマラソン交渉を続けたが、残念ながらはっきりした成果を出すこともなく、とりあえずは休会となった。一応8月29日の週に再開することになっているが、本当にそうなるかどうかよくわからないし、予定通り再開しても協議がどのように進むのか全く予断し難い。 今回の6者協議はこれまで3回の協議に比べて注目すべき点がいくつかある。 順不同で言えば、その一つは米朝の二国間会談がくりかえし行われたことであった。前3回の6者協議では、米国は北朝鮮との直接交渉をなるべく避けて来たきらいがあったが、今回は非公式な夕食会も含め、二国間会談に積極的に対応したことが注目された。核問題の解決という観点からは、米朝二国が決定的な鍵をもっているので、この二国が頻繁に直接交渉を行って立場のすり合せをすることは、極めて現実的なアプローチと言える。 2つ目は、関係国すべてが、それぞれ思惑は違うが、協議も4回目になるのだから、今回は何らか目に見える成果を出したいとの意欲をもって協議に臨んだことで、たとえ総論的なことであっても何とか合意に達し、これを文書化したいとの努力がなされたことである。 今一つは中国が議長国として協議のとりまとめに非常に積極的に動き、米中、中朝接触などを通じて事態の打開をはかろうとしたことで、この中国の努力は評価に値する。 しかしながら、肝心な争点について特に米朝間の溝は大きく、いくら折衝を重ねても、今回の協議では合意点、妥協点を見出すことが出来なかった。 協議での主要な争点としては、@朝鮮半島の非核化の性格A廃棄の対象となる核施設の範囲B核廃棄とその見かえりのタイミング――の3点があげられる。 第1の朝鮮半島の非核化については、原則論としては6者のすべてが賛成しているのだが、一歩中に入ると、北朝鮮側は在韓米軍の問題、韓国に対する米国の核の傘の問題などをとりあげ、米国とは大きく意見を異にしている。3番目のタイミングについても、米国側が何よりも核の放棄が先であるとするのに対し、北朝鮮側は同時行動原則を強く主張している。 だが特に、鋭く対立したのが、2番目の放棄の対象である。平和利用であってもそれを隠れみのにして核兵器開発を行った過去の経緯から、米国側がすべての核関連の活動を廃止しなければならないと強硬に主張したのに対し、北朝鮮は原子力の平和利用は主権国家の固有の権利であって、放棄の対象は核兵器関連だけであると応酬した。 それでは、6者協議の今後の行方はどうだろうか。私なりの結論を先に言えば、協議は非常に難航するのではなかろうかと予想している。もっとも最後のところは、金正日総書記の胸三寸にある。 北朝鮮にとって、核は外交カードとしても、また軍事手段としても、正に「虎の子」であって、その力はこれまでもいかんなく発揮されており、北朝鮮はその「全部」をおいそれと手放すことは到底考えられない。とすれば破棄する核活動の範囲も核兵器開発関連に限定して、平和利用の名の下で核技術を温存することを考えよう。 ウラン濃縮は存在しないと言い張っているが、万一ばれたとしても、これは平和利用のための研究云々との言逃れをするのではなかろうか。これまでの経緯からしても、北朝鮮はこの種の三百代言的な理屈については天才的ですらある。また実際上の問題として、ヨンビョンの原子力センターの閉鎖、最近建設に着手したとされる5万kW級(寧辺)や20万kW級の原子炉(泰川)を閉鎖するであろうか。 他方、米国はイランに対しては核燃料サイクル(具体的には再処理、濃縮、および使用済燃料の取扱い)以外の原子力の平和利用は認めようとしているが、ブッシュ大統領が記者会見(8月9日)でも公言したように、北朝鮮についてはイランとは対応を異にするとしている。韓国の高官筋からはこれとは違う別の意見も出ているようだが、米国の最高首脳レベルに上がった方針だけにこれを変えることはなかなか難しいであろう。従って、この基本的な問題について、米朝間の話し合いは非常に難航することが予想される。 このように米朝間の交渉、従って6者協議は難航し、私としては楽観的になることはとうていできないが、先に述べた3つの争点について、仮に何らかの合意が成立したとしても、それはいわゆる総論部分についてだけであることに留意しなければならない。それを実施に移すための、各論部分の交渉が次に控えている。例えば検証を具体的にどうするのかなど今後の協議の成行は非常に厳しいものが予想される。 この難路に対応するためには、何よりも日米の協力、議長国としての中国との協力、南北融和、民族至上主義に傾きがちな韓国との協力関係の構築などが是非とも必要である。 時間は必ずしも私達に有利ではないが、当分は粘り強く6者協議に臨んでいくべきである。少なくとも6者協議を通じて、やるべきことはすべてやるとの心構えで臨んでいくべきである。(元日朝国交正常化交渉政府代表) |