[原子力産業新聞] 2005年8月25日 第2296号 <3面>

[シリーズ] 米エネ政策法の背景探る(1)

 米議会は7月、エネルギー政策法案を可決し、8月8日の大統領による署名を経て成立した。今号と次号の2回にわたって、エネルギー政策法の背景等を、東京電力ワシントン事務所の前田一郎副所長に解説して頂く。

 米国エネルギー政策法案が両院協議会での調整の後、今第百九議会で可決され、8月8日にブッシュ大統領が署名し、成立した。前議会(2003年および2004年)では、下院で可決された後、上院で審議が行き詰まり、再度今議会に上程されていた。

 1月に始まった今議会で大方の予想では、秋になってから可決・署名とみられていたたが、審議は大幅にスピードアップした。下院を4月21日に249対183で通過、6月28日に上院で85対12で可決し、両院の法案の内容が異なるので両院協議会に付され、調整が進んでいたところ、調整案が下院で7月28日に、上院で29日にそれぞれ可決された。

 エネルギー政策法案は、いくつかある第二次ブッシュ政権緊急課題の中でも高い優先順位が与えられ、ドメニチ上院エネルギー・天然資源委員長、バートン下院エネルギー・商業委員長が精力的な活動をした結果といえよう。

 米国では、1992年に国家エネルギー政策法が成立してから、エネルギーを取り巻く環境変化に対応したエネルギー立法が求められていた。

 ブッシュ大統領はチェイニー副大統領に命じ、2001年5月、国家エネルギー政策を発表した。同政策では、20年来の原子力発電所のパフォーマンス向上を受けて、原子力の一層の推進・拡大が打ち出されている。新エネルギー政策法案は、この方針を具体化するために議会に上程されていた。

 1992年国家エネルギー政策法では、発電市場に競争を導入するとともに、託送による自由な電力取引を認めて電力の規制緩和を行った。原子力分野においては、建設・運転の許認可を一本化する原子力規制委員会(NRC)規則(10CFRパート52)を追認するなど、原子力の再活性化するための条件整備するものだった。実際その後、電力自由化の波の中で原子力は競争力をつけてきた。

 たとえば、90年代に入り、1977年以来、104件433万kWの出力増が認可されたり、80%以上の発電所で18か月以上のサイクルで運転が行われるようになったり、定期検査が1993年の67日から、2003年の35日へ大幅に短縮するなどの改善がみられた。

 原子力新設の動きについても、TVA他のプロジェクト事前評価のため、エネルギー省(DOE)補助金が計上されるなど、原子力に対する国民の信頼も回復してきている。

 今回のエネルギー政策法の成立の背景には、1992年国家エネルギー政策法制定時と異なる下記の状況がある。

 第1は原油価格の高騰である。今年になって非需要期にもかかわらず、WTI原油先物価格が60を超える高騰を見せている。米国産業と民生分野への負担がだんだん顕著になってきており、議会としては、前年のように各州間の利害対立を優先することはできなくなった。

 同法案を巡って、前議会で最後まで調整がつかなかったMTBE問題(ガソリン添加剤メチル・ターシャル・ブチルエーテル生産者の土壌汚染責任の一部免責)が取り下げられたのも、こうした事情による。議会の夏期休暇に入って地元に帰省した議員は、原油価格高騰に関して選挙民に実績を示す必要があったことも、早期成立を促したひとつの要因であろう。

 第2に、2003年の北米大停電以来、米国全体での供給力への不安が顕在化してきていることがある。発電所建設は長い間、IPPに委ねられていたが、エンロン崩壊の後、多くのIPPの株価が低下、信用力が不足したため、発電所建設は停滞している。また、送電線への投資も促進されていないため、現在全米レベルでは、電力が供給余剰であるが、近い将来供給力不足になることが予想されている。カリフォルニアとニューヨークでは、毎年夏の電力需給は逼迫が懸念されている。そうした中で電気事業者自ら、料金転嫁認可を前提に、ベースロード電源の新規建設機運が高まっている。

 第3に、米国でも地球環境問題に対する意識が醸成されつつあることだ。前議会および今議会において可決に至らなかったが、共和・民主党議員から複数の地球環境対策法案が提出された。また、ブッシュ大統領も初めて、地球温暖化と人間活動の関連を認めるようになっている。京都議定書から離脱し、地球環境より産業活動を優先するとした姿勢からは、変化がみてとれる。こうした中で、原子力発電は温暖化ガスを排出しない電源としてその価値が認められようとしている。(次号に続く)


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