[原子力産業新聞] 2005年9月1日 第2297号 <4面> |
[自民党] わが国原子力の基本政策8月4日号既報の通り、自由民主党は8月2日、エネルギー政策小委員会や合同会議などで検討してきた「わが国原子力の基本政策」を取りまとめ、発表した。同基本政策は、自民党の原子力に対する取り組みをはじめ、原子力をめぐる政策課題とその解決に向けた視点などを紹介。同党が、今後も原子力を積極的に推進していく方針であることが示されている。今号では、その概要を紹介する。 1. 原子力発電の現状 (略) 2. 最近における、我が党の取り組み 我が党は政調において、石油等資源・エネルギー調査会、電源立地等推進調査会、原子燃料サイクル特別委員会、経済産業部会、文部科学部会等が、原子力に関する政策課題に取り組み、適時、政策提言、審議を行ってきた。 (略) 我が党における本年4月以降の原子力政策に関する主な討議事項は以下のとおりである。 〔エネルギー総合政策小委員会〕今後の政策課題・進め方について、今後のエネ政策の力点<環境・技術> <安全保障>、日本の原子力エネルギー政策が直面する課題中国の変化と原子力政策<ICONE−13 報告> 〔エネルギー総合政策小委員会、石油等資源・エネルギー調査会、電源立地等推進調査会、原子燃料サイクル特別委員会、経済産業部会、文部科学部会 合同会議〕 原子力政策に関する集中審議 <政府、学識者、産業界よりヒアリング>、 <論点整理> 〔電源立地等推進調査会 立地地域視察〕〜現地視察、知事、市町村長等と意見交換 新潟県、 福井県 3. 原子力の光と陰(課題) (略) 4. 原子力をめぐる政策課題と解決への視点 4.1 持続的成長に不可欠な原子力平和利用〔メッセージの発信〕 (略) 原子力発電は、安定供給と地球温暖化防止対策の面で優れており、安全確保を大前提に、基軸電源として推進するとともに、核燃料サイクルについても、安全性および核不拡散性を確保しつつ、着実に柔軟性をもって推進する必要がある。プルサーマル、中間貯蔵、高レベル放射性廃棄物の最終処分等についても、地域との信頼関係のもと着実に推進する。今後本格化を迎える原子力施設の廃止措置については、本年5月に成立した原子炉等規制法改正法の施行に向けて、着実に基準等の整備を図る。 原子力委員会は、2030年以後も、リプレース等により原子力の比率を30〜40%程度という現在の水準程度か、それ以上の役割を期待としている。我が党として、この方針を支持し、上記メッセージを常に発信し続けることとする。 (注)日本原子力産業会議(JAIF)の試算によると、大規模な省エネ技術の開発普及、再生可能エネルギーの普及拡大、原子力発電2050年倍増、高温ガス炉の開発等に成功すれば、2050年に、我が国のCO2排出量は1990年レベルの40%減にすることも可能である、とのシナリオもある。 4.2 大前提としての安全の確保 〔技術的リスクの克服〕 わが国ではこれまで、自己制御性のある炉の設計、多重防護、成熟技術や、確証された技術の利用に努めてきたところである。最近の事件・事故に鑑み、より一層の安全文化、品質保証/管理の推進が重要である。 安全確保についての論点は次の四 つである。 (検査システムの適正化)第1に、わが国の原子力発電所の運転実績は良好で、計画外停止の頻度は世界の中で極めて低い(日=0.1回/基・年、仏=2.9回、米=1.2回、カナダ=1.6回)。しかし、設備利用率は最高でも80%台前半で頭打ちの状況である(欧米、韓国は90%を達成)。また、原子力従事者の被ばく線量は低位であるものの、米仏韓に比べて多い。これは、原子力の安全確保を重視するとの観点から、定期検査と次の定期検査の間の運転サイクルが短いことや、1回の定期検査日数が長いことによるのではないかとの指摘もある。日本の現状は、諸外国のレベルから見ると検討の余地もあることから、安全管理の実効性を高めるために、ベースとしての自主管理の充実と国の規制、定期検査による安全確認の役割分担の在り方を検証していくことが肝要である。米国では、原子力規制委員会(NRC)の改革により、原子力事業者が安全性を向上させれば規制の関与が少なくなる規制制度が取り入れられ、結果としての高い設備利用率が実現したことに留意したい。 (略) (高経年化対策) 第2に、高経年化対策が重要である。定期安全レビューの機会に、30年超の炉について、高経年化にかかる技術評価と長期保全計画の策定をおこなっているところであるが、原子力安全・保安院の高経年化対策検討委員会の検討も踏まえて、これを確実に継続して実施することが求められる。 (安全規制のあり方) (略) 一次規制を行っている原子力安全・保安院が、原子力政策を担当している経済産業省の中にあることについて、推進と規制を同じ大臣のもとで行うのでは地域の理解が得にくいので、これを分離独立すべき、との意見も一部にあった。これについては、○原子力政策の推進にあたっては常に安全に十分配慮しながら行うべきであり、安全と切り離した推進は妥当ではないこと、さらに、○最近、原子力安全委員会、原子力安全・保安院ともチェック体制が強化され、1000名程度の陣容となったことなどから、現行システムを維持しつつ、その成果を見守り、将来さらに必要があれば体制のあり方につき検討を行うべき課題と考える。 (テロ対策) 第四に、テロ対策について。本年5月に原子炉等規制法改正案を成立させたことを受け、今後「設計基礎脅威(DBT)」(想定脅威)の設定、核物質防護に関する秘密保持の具体策、内部脅威対策の詰めを早急におこなう必要がある。 4.3 市場自由化の中の原子力 〔経済的リスクの克服〕 エネルギーは経済社会において不可欠な財であるばかりでなく、エネルギー政策は安全保障と環境適合上、重要な役割を果たすものである。単に市場経済に委ねることは、安全保障面・環境面において問題のあるエネルギー構成にシフトしたり、エネルギー消費量が増大する懸念もあり、不適切である。 (略) アメリカにおいては、NRCによる安全管理、安全規制の改革・近代化により、結果としての稼働率向上を果たし、原子力発電の経済性を獲得、競争力・経済的優位を樹立したが、この教訓に学ぶ必要がある。 (略) 民間では難しい長期で不確実性の高い投資判断(FBR実証炉など)に関する国と民間の役割分担については、研究開発の状況等も踏まえて引き続き検討する。 4.4 持続的成長をめざした研究・開発の強化 〔基盤強化〕 (国家基幹技術としての原子力) 原子力研究開発予算は2001年度の3709億円から2005年度には3115億円へと▲594億円(▲16%)激減しているが、科学技術基本計画におけるこれまでの「重点四分野」に加えて、国家基幹技術としての「原子力」予算を重視すべきである。その場合、大括りに「原子力」の研究開発強化とするのではなく、どの分野に国の予算を重点投入すべきか、選択と集中を明確にした資源配分の徹底を期すべきであり、高速増殖炉サイクル技術、高レベル放射性廃棄物処分などの原子燃料サイクルの確立を目指す研究開発、六ヶ所サイクル事業に必要な技術サポート、次世代炉、民間では困難な先導的・基礎基盤的・長期リスキーかつ国益増進の研究開発に対して積極的に予算を投入することとする。 (略) (高速増殖炉サイクル技術等) 高速増殖炉サイクル技術(FBR)については、原型炉「もんじゅ」の再稼働を早急におこない、運転データの取得をおこなったうえで、今後の冷却材の選択、炉型設計に反映し、2015年頃までに「実用化戦略調査研究」において適切な実用化像とそこに至るまでの研究開発計画を提示する。これを受けて世界のフロントランナーをめざして実証炉を建設し、2050年頃からの商業ベースでの導入計画の繰り上げにも柔軟に対応可能となるよう条件整備を行う。 また、将来の水素の時代を睨み、高温ガス炉(HTTR)等の研究を推進する。 我が国はGIF(第四世代原子力システムに関する国際フォーラム)における多国間研究開発への参加を決定したが、日本のリーダーとなる分野での貢献を行う。また、第三世代プラスについても着実に対応する必要がある。 国際熱核融合実験炉(ITER)については、準ホスト国として次の段階を睨み、然るべき役割を果たすこととする。 (略) 4.5 国・自治体・企業の役割 〔政治的リスクの克服〕 原子力を含むエネルギー政策の策定は、国の固有の役割であり、自治体は、国の施策に準じて、地域事情を加味して施策を策定すべきである。このことは、エネルギー政策基本法において明確にしており、この役割分担を認識して協調を図る。国と自治体の具体的役割に疑義が生じる場合には、必要に応じて法的関係を整理することも含めて検討を行う。 核燃料税等、法定外税(普通税、目的税)の改定にあたっては、納税者(電気事業者)の意見を的確に反映するよう配慮する。 (略) 4.6 国際的連携の下での原子力政策 〔政治的リスクの克服〕 第三世代炉等国産原子炉の海外進出に際しては、国の明確なサポート(コミット、日本貿易保険・国際協力銀行の支援等)が必要であり、フランス、ロシア等のトップセールスの状況に留意する必要がある。具体的には、型式認定制度の可能性を検討し、核不拡散に留意しつつ、プラント輸出と安全・安定運転・メンテ技術をセットとして展開する。 (略) 4.7 国民の信頼を得る 〔社会的リスクの克服〕 原子力の推進にあたっては「安全」が第一である。安全、安定した利用実績が信頼の基礎となるため、事業者の「安全文化」の再構築、法令遵守、品質保証体制の強化、情報公開が重要である。 広聴こそ広報の前提である。市民の意見を幅広く聴き、知りたいことに答えること、改善のヒントとすることが肝要であり、「目に見える原子力」(設備、人、情報)を進める。 国民はメディアを通じて情報の70〜80%を得ていることから、メディアへの迅速、的確な情報開示を引き続き行う必要がある。また、メディアが明らかに事実誤認の報道をした場合には、原子力安全・保安院、資源エネルギー庁、事業者などは、報道に対して積極的に是正を求めることが不可欠であり、徒に国民の不安を煽ることがないよう努める必要がある。 (略) 原子力・エネルギーに関する教育の充実が重要である。教育現場の自主的な取り組みを支援するとともに、教科書記述の科学化、客観化、「事実を教えること」に取り組む必要がある。 立地地域との共存共栄は不可欠であり、現在各地点の特徴に応じ様々な共生活動(研究所、広域的社会インフラ、環境維持・保全・向上、生活利便性向上、人材育成等)が実施されているが、さらに一層の充実を図るとともに、周辺地域も含めた理解活動に努めるべきである。また、プラントの高経年化にかんがみ、前述の安全レビュー対策等に加え、わが国の原子力創成期の頃から長期にわたり立地・運転を支えてこられた地域に対する共生方策のあり方について検討する。 人材の確保については、学部における基礎教育、大学院における原子力専門教育、日本原子力研究開発機構の活用、大学とのインターンシップ、個別企業の枠を超えた地域での技能者育成、夢のある研究開発テーマなどが挙げられるが、何といっても最大の決め手は、海外を含む新増設・リプレースの着実な実施であり、次の1基の新規国内立地や海外受注がカギとなる。 結び わが国における原子力の平和利用は、これまで幾多の風雪に耐えつつ着実に前進してきた。今や、発電分野では最大の基軸電源として定着し、核燃料サイクルも一歩ずつ着実な歩みを示している。 今後、発展途上国の急成長に伴い、地球規模でのエネルギー資源の制約と温暖化等の気候変動が懸念される。これらを克服し、持続的成長を図っていくためには、原子力の平和利用の拡充が不可欠の選択である。 もとより、リスクを伴わない科学技術は存在しない。わが党は、原子力のもつリスクを克服しつつ、その光を享受するための政策を着実に推進していく。 以 上 |