[原子力産業新聞] 2005年10月13日 第2303号 <1面> |
[インタビュー] 国際社会に生きるIAEA邦人職員に聞く(1)ウィーン市中心部から北西に数キロ、ドナウ川北岸にそびえる「国連都市」。ここに国際原子力機関(IAEA)が本部を置く。IAEAに勤務する5人の日本人職員をオフィスに訪ね、国際社会で働く経験と感想、日本の原子力界への提言、将来IAEA職員を目指す日本人への助言などを聞いた。(喜多智彦記者) 「日本が技術で一流であることが何より重要」。IAEAを目指す日本人には「専門知識にもとづく知見」を求める。 谷口氏は1968年に通産省入省。資源エネルギー庁長官官房審議官、原子力発電技術機構専務理事を経て、2001年8月からIAEA事務局次長(原子力安全・セキュリティ担当)の要職を務める。 IAEAに来て、「実力主義。権限争いはあるが、全体としてはオープン」との感想、「仕事は快適」と言い切る。「日本では上に行けば行くほど、配慮すべきは人間関係だが、ここでは技術。21世紀におけるレジーム作りに真正面から取り組める」。国際機関ならではの仕事のやりがいを強調する。 一方で、こうした立場から日本を見ると、いかにも歯がゆく見えるようだ。 最近、ようやく日本でも議論されるようになってきた原子力輸出の問題。世界で激しい中盤戦が繰り広げられる中で、「日本は序盤の布石を議論している」。「早く中盤戦に加わることを議論しないと、置いてきぼりになる」と懸念する。 原子力安全規制においても、日本でのグローバル・スタンダードの欠如を指摘。「規制は原子力ユーザーのためにあり、ユーザーは科学的、合理的な規制を行うよう求めるべきだ」。電力会社が、ビジネスの根幹にふれる安全規制問題を放置していると、いらだちを隠さない。 日本の規制機関に対しても、「保安院ができた時、科学的、合理的な規制をやるはずだったのに、そうはなっていない」と手厳しい。「1年に1回の定検など、規制が保守的で、リスクに基づいた検査にはなっていない」と指摘する。 日本より後発組の中国、韓国は、IAEAの支援を受けながら原子力発電導入を行ったこともあり、IAEAの基準を使い「グローバル・スタンダード」に基づいた安全規制を行っている。規制機関等の中堅幹部も米国で博士号を取った人が多く、また実力主義が徹底しているため、国際的に仕事が出来る人材が多いという。 国際的なルールを作るさいに、日本が初期段階から加わってこないことにも批判的だ。「日本はルール・テイカー。ルール・メイカーになる意気がない」。「9月11日の同時多発テロ以降、原子力を巡る新しい秩序作りがどんどん動いているが、日本はそういうことに関与をしない」、「国際的レジームが自分の問題と思っていない」と、意識の転換を求める。 石油価格の高騰が続くなど、エネルギー・資源問題がグローバル化し、「とりわけ原子力はグローバル化する」。このような中で、IAEAに職員を送る日本の電力会社が、むしろ社員を引き揚げる動きを見せていることを懸念、「むしろ増やすべきだ」と指摘する。電力自由化が進む中、縮みの思考で小さく合理化しようとし、グローバルに合理化しようとしないことを「敗北主義」とさえ批判する。 「さえない同族会社だったトヨタが、今や利益率では世界一。日本国内での原子力発電市場は伸び悩みが予想され、世界の市場を考えないと、日本の原子力は成立しない」。 世界で評価されることが、日本にとっての利益であり、そのためには、企業トップが何をすべきか考え、国際機関をも利用して実現するよう求める。(来週からは3面に連載します) |