[原子力産業新聞] 2005年10月13日 第2303号 <3面>

[解説] 「大連立政権」で原子力は前進か ドイツ政局の行方を占う(2)

 先週号に引き続き、9月18日に投票されたドイツ総選挙後の政権と、エネルギー・原子力政策の行方について、ドイツの政治問題に詳しいジャーナリストの木口壮一郎氏に解説をお願いする。

■ある古参反原子力活動家から見たシュレーダー首相

 ドイツでは、原子力反対派の活動がややもするとヒステリックになり、過激な行動に出ることも珍しくない。その代表的な活動家で、知る人ぞ知る人物に、ヨッヘン・シュタイがいる。この人は、著名な反原子力組織の中心メンバーであるが、緑の党支持団体としての立場から、この首相発言に対して次のように反応した。

 「われわれは、シュレーダー首相をエネルギー政策においても常に、ボスの同志として支えてきた。しかし今、シュレーダーも、メルケル民主同盟党首と同じように、原子力発電所の運転延長をめぐって電力会社と交渉する気なのではないかと恐れざるをえない。いわゆる原子力コンセンサスの段階ですでに、トリッテン連邦環境相(緑の党)とその仲間は、原子力産業界とシュレーダーにだまされたのである。……今後、首相の座にメルケルが座ろうと、シュレーダーが座ろうと、原子力産業の側が恐れるものはなに一つないのだ」。

 『脱原子力』の立場からみれば、メルケルもシュレーダーも同じ穴のむじなだ、という斬り込みである。このシュタイという人物は、極端なうがった物の見方をするくせがあり、この見立てを真に受ける必要はない。ただし、その底流からうかがい知れるのは、緑の党と社民党の間に隠された政策的な溝の深さであり、そこからくる社民党への積り積もった不信感である。もちろん連立を組んでいる以上、そのようなマイナス要素は表に出てきにくいし、闇に葬られるのが常である。とはいえ首相のこの最後の一撃は、緑の党にとって、衝撃的という言葉では足らないくらいの重みがあったのではなかろうか。

■大連立政権下の原子力政策の見通し

 ところで今回、最も注目されたのは、民主・社会同盟がマニフェストで掲げた原子力政策で、@原子力法で定められた原子力発電所の運転期間の延長A放射性廃棄物最終処分問題への計画的取り組みB原子力研究開発の促進――の3点を提唱していたことだ。マニフェストには書かれていないが、原子力発電所の国外輸出の支援も、選挙前に公約していた。

 かりに、現在もめている首相指名という難所をなんとかクリアできたとして、両党の原子力政策はどう調整されるであろうか。結論からいえば、先のシュレーダー発言に象徴されるように、大連立政権下の原子力政策に関して、両党はいくつかの点で合意可能であるし、社民党の側が民主・社会同盟に妥協できる余地もそれなりにあるだろう。この7年間の脱原子力政策を振り返って、緑の党の過激な主張に社民党が引っ張られた痕跡が濃厚なので、緑の党という重しを取り除けてしまえば、現在よりいくらか前進する可能性さえないわけではない。

 まず、原子力発電所の運転延長論の扱いである。当面、問題となるのは、ビブリスA、およびネッカー1の各原子力発電所で、計画どおりにいけば前者は2008年、後者は2009年に閉鎖される。周知のようにドイツでは、原子力法第七条に基づき、残余の発電電力量を定め、その発電量が発電され終われば閉鎖としている。

 ドイツ連邦環境省によると、ビブリスA発電所に許された発電可能日数は、9月末現在あと980日余りである。短く見積もっても、まだ2年半弱あるので、万一調整が難航する場合でも、問題の決着を先送りにできる。

 また、最終処分場問題についても、社民党はシュレーダー政権以前、ゴアレーベンとコンラートの事業を推進する側であった。民主・社会同盟は、その点を社民党によく思い出してもらい、原点に回帰するよう促す努力をすべきであろう。ゴアレーベンの調査とコンラートの運転開始が凍結されたのは、もっぱら緑の党の政治的影響力のせいなので、その影響力が遮断されれば、最終処分場問題も再び動き出すかもしれない。(終わり)


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