[原子力産業新聞] 2005年10月13日 第2303号 <4面> |
[寄稿] 6か国協議 合意実現には難題山積か 遠藤哲也氏(前原子力委員長代理)8月25日付の原子力産業新聞への投稿で私は、第4回会合はたとえ合意に達したとしても、それはせいぜいが原則的な点についての合意だけであろうと予測したが、結果はそのとおりとなった。 2003年8月に始まった6か国協議は、回を重ねたが成果をあげることが出来ず、参加各国ともそろそろ目に見える結果を出さねばとの国内政治的要請が強くなり、あわせて議長国中国の国家威信をかけた根まわしもあって、今回の会合では何とか議論のとりまとめが出来、共同声明を発出することとなった。共同声明は、これまでの会合の議長声明と比べれば、はるかに拘束力も強く、今回の会合はとりあえずは一歩前進ということができよう。 だが、今回の共同声明は前述のとおり、原則的な合意を羅列したもので、一皮めくると各参加国、特に米朝の間には大きな見解の違いがある。従って、原則的合意を具体化するとなるとその違いが顕在化して紛糾するおそれがあり、一応、11月上旬に開催が予定されている次回会合からは益々難しくなることが予想され、協議の行方については楽観できない。 共同声明にもられた事項のうち、今後の協議で争点になりそうな問題を次に順不同であげてみたい。 その1つは、共同声明で北朝鮮は「すべての核兵器および既存の核計画を放棄する(abandon)」と約束しているが、「すべての核兵器」とは何かが深刻な問題となる。今回のいわゆる第二次核危機はウラン濃縮を巡って始まり、以降北朝鮮は終始一貫してウラン濃縮の存在を否定し続けているので、放棄される核兵器の対象にそれが含まれるか否かは大問題となろう。 また、「既存の核計画の放棄」とは何か。我々は、この中に平和利用も含めて、すべての核活動が該当すると解釈しているが、北朝鮮としてはこれまで数十年の長きにわたって営々として築き上げてきた原子力開発をすべて捨て、いわば更地にするわけだ。極めて大きな決断であり実際上も政治上も果して可能だろうか。例えば巨大な寧辺の原子力センターの放棄はあり得るのだろうか。それから、放棄とは何か。凍結なのか、閉鎖か、撤去か、いずれにしても放棄の内容が具体化されなければならない。 2つ目は、検証問題である。核兵器、核計画の放棄にはしっかりした検証、そのための保障措置が必要不可欠である。北朝鮮は共同声明で、IAEAの保障措置に早期に復帰すると約束しているが、INFCIRC/153タイプの包括的保障措置(フルスコープ・セーフガード)では不十分である。そもそも第一次核危機は、北朝鮮がIAEAの包括的保障措置協定に基づく特別査察の要求を峻拒したことから始まった。 北朝鮮に対する保障措置の実をあげるには、私は国連安保理とIAEAが協力したイラクタイプの査察が最も望ましいと思うが、「追加議定書」の受諾は最小限必要だと思う。北朝鮮はこれに対しどのように対応するだろうか。 3番目は、共同声明は前述のとおり今後とるべき措置を羅列してあるだけで、どれをどのような手順で実施していくかについては触れていない。例えば、共同声明は「適当な時期に軽水炉提供問題について議論を行うことに合意した」となっているが、この合意をめぐってすでに米朝の間で喰違いが表面化している。米側は核兵器の放棄がともかく先決であるとしているのに対し、北朝鮮側は逆に共同声明発出の翌9月20日の外務省報道官談話でまずは軽水炉提供、次いで核不拡散防止条約(NPT)復帰、核兵器放棄との順序が合意されていると強弁している。 これは一例だが、今後ともこのような喰違いが随所で表面化することが懸念される。 今後の協議の過程では、以上の他にも諸々の問題が出て来る可能性があり、交渉はこれまでよりも厳しくなると覚悟しておいた方がよいかもしれない。北朝鮮は、独特の論理を駆使したり、瀬戸際外交を展開したり交渉戦術に長けたしたたかな相手である。 北朝鮮と相対するには、とにかく冷静さとねばり強さが第一で、日米協調を基軸に中国、韓国とも意志疎通をはかりつつ、相手に信を置くという交渉ではなく、むしろ不信の下にお互いの利益をいかにして調整し折合うかを探る交渉をすすめていくことが必要である。(元日朝国交正常化交渉政府代表) |