[原子力産業新聞] 2005年11月4日 第2306号 <3面>

[インタビュー] 国際社会に生きるIAEA邦人職員に聞く(4)

 村上氏はIAEA日本人職員の「出世頭」だ。今から23年前、課長補佐クラス(P3)の査察官としてIAEAに入り、それ以来保障措置一筋。業務C2課長(P5)を経て、実施C部長(D1)に就任、さらに最近、上級部長(D2)に昇進した(かっこ内は職務グレード)。

 IAEAでは、ポスト毎に経験者を雇用し、原則的に雇用期間が5〜7年間の「フィックスト・ターム」契約。IAEA内で長期契約を得て、昇進し、キャリアを作ることのできる人は、例外的存在に近かった。しかし村上氏は、自らを「入ってきた人が残れる、長期に勤務し、昇進できる証拠。努力をすれば、上にあがれる証拠」だと反論、後進を叱咤、激励する。

 村上氏が担当する実施C部は、欧州、東欧、旧ソ連邦諸国の保障措置をカバーする。チェルノブイリ、FBR、原子力発電所、実験炉まで、あらゆるタイプの施設があり、プルトニウムの量も多い。

 IAEAでは理事会の下に、保障措置特別委員会が設置され、将来の保障措置のあり方を検討している。また、近い将来、北朝鮮で核査察の再開が予想され、IAEAの関わり方も問題になる。また、米印協力の進展などで、インド・パキスタンなどに従来のものを超える査察を行う可能性も出てくるなど、保障措置局の仕事も大きく変わっていく。

 一方、イラン、リビア、エジプト、韓国などで保障措置協定違反が見つかるなど、コンプライアンスを今まで以上に厳しく見る傾向が強まっている。

 査察官の仕事も、従来の査察だけでなく、輸出管理や不法取引の取締りまで仕事が広がっており、求められる資質が変わってきたという。幅広い知識と情報収集・分析能力が必要になっているという。

 村上氏は自らのキャリアを振り返って、イラクでの特殊査察をリーダーとして行った経験、旧ソ連諸国の査察を幅広く行った経験、様々な国との交渉を行った経験などがプラスに生きているという。「日本人ならば、勤勉さは同じ。自分の経験を広げ、特殊技能を伸ばすことが必要」。

 IAEAの日本人正規職員は20名程度だが、その中でも部長クラス以上の幹部職員は3人、課長クラスも3名に過ぎない。これは米国の同クラス30数人にはるかに及ばず、「メキシコ、インド並」だという。正規職員も少ないが、上級職員の数はさらに少ない。「内部で育て、外からも入れるようにしないと、課長レベルでさえ先細りしてしまう」と危機感を持つ。「日本はトップレベルの人をIAEAに出さない」とも。

 むしろ、中国、韓国の人の方が熱意が強く、積極的で目的意識を持っている。「どうしてもIAEAに行き、査察官になりたいという人が増えた」。IAEAのネームバリューも上がってきたことから、空席ポストに外部から応募する人の数と質が上がっており、人材の質を高める面から歓迎する。

 IAEAは「黙っていれば分かってもらえるという社会ではない」ので、広く議論し、積極的に能力を示し、チームワークが組める人材が必要だ。

 将来、IAEA職員をめざす日本人には、「IAEAの活動をきちんと理解し、自分の専門と技術を磨くこと」を求める。

 「多文化の下で、自分を主張できる精神的な強さと目的性を持てば、特に女性は、日本よりキャリアを築ける可能性がある」。女性だからといって差別はないが、別に得点もないと一言。

 村上氏は、自分に続く日本人が出てくることを期待している。(喜多智彦記者)


Copyright (C) 2005 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.