[経済同友会] 提言 「2030年に向けたわが国のエネルギー戦略」
2月23日号既報の通り、経済同友会は2月21日、「2030年に向けたわが国のエネルギー戦略−核燃料サイクルを含む原子
力発電の着実な推進と東アジアにおける環境・エネルギー連携の強化−」を発表した。今号ではその中から、「核燃料サイクルを含む原子
力発電の着実な推進にかかわる提言」を紹介する。
提言1 「安全確保にかかわる取り組みを確実に実施し、信頼の回復を図れ」
●国や事業者は、一連の事故や不祥事等で損なった立地地域の住民をはじめ広く国民の原子力安全に関する信頼を回復するため、透明性
の確保と説明責任を果たしつつ、再発防止対策を含め、安全確保にかかわる取り組みを確実に実施しなければならない。
原子力の推進にあたっては、安全確保が大前提である。国や事業者は、一連の事故や不祥事等で損なった立地地域の住民をはじめ広く
国民の原子力安全に関する信頼を回復するため、透明性の確保と説明責任を果たしつつ、再発防止対策を含め、安全確保にかかわる取り組
みを確実に実施しなければならない。また、国や事業者は、安全確保にかかわる取り組みを確実に実施していることを立地地域の住民をは
じめ広く国民に説明し、意見交換して、相互理解の形成に寄与するリスクコミュニケーション活動を行わなければならない。
- 国の取り組み
国は、安全基準の制定、安全基準に基づく設置許可、工事計画の認可、使用前検査及び稼動後の定期検査、保安検査等の任務を誠実に実
行するなど、安全規制活動の品質維持に向けての不断の取り組みを行う。
こうした取り組みを含めて、エネルギー・セキュリティや地球温暖化防止に果たす原子力発電の役割の重要性に関して、情報提供、意見
交換等を含む国民との相互理解活動に対する不断の取り組みを行う。
- 事業者の取り組み
電気事業者は、安全の確保と地元の信頼確保に向け、品質保証活動の強化、企業倫理遵守の強化、情報公開、透明性の確保を徹底し、原
子力発電の安全かつ安定的な運転を行う。
<品質保証活動の強化の例>
- 発電所で発生した不適合事象の処理方法や対応について、適切さを審査し、情報を共有化するための組織の設置
- 複雑な体系となっていた規定・マニュアル等の改善
- 運転・保全にかかわる部門横断的なチェック機能を設けるなど品質改善・安全管理体制の強化
- 原子力部門の社内監査の強化と企業風土の改革
<情報公開、透明性の確保の例>
- 発電所で発生した全ての不適合事象を4段階の重要度に応じて区分し、プレス発表や発電所ホームページ等により速やかに公表
- 発電所の業務管理が適切に実施されていることを確認・監視し、さらに提言を行う、立地地域の住民等で構成される「地域情報会議」
を設置
提言2 「国と地方自治体の役割を明確にすべし」
●国と地方自治体は、原子力政策にかかわるそれぞれの役割を明確にすべく、国民的観点から議論し、コンセンサスを得ていくべき。
経済同友会は、2002年10月に発表した地方行財政改革にかかわる提言の中で、国と自治体の役割について、「国の役割は、国防や
外交等の便益の広がりが国全体に及ぶ純粋公共財の提供(中略)等に限定し、その他の事務事業は基本的に地域の権限と責任において実施
することとすべき」と主張してきた。その際、留意すべきは、国が行使してきた権限を地方自治体がもつ場合には、国が負っている責任も
併せてもつことになるという点である。
エネルギー政策、なかんずく原子力政策は、便益の広がりが国全体に及ぶという点で、国防や外交と同じく、国の役割である。一方で
、原子力立地地域の自治体は、地域住民の生命と財産を守る役割等を担っており、地域住民の立場に立って、国や事業者による安全確保に
かかわる活動の把握に努めるなど様々な取り組みを行っている。国と原子力立地地域の自治体それぞれが自らの役割を全うするためには、
その役割の明確化が必要である。
かかる観点から、国と自治体は原子力政策にかかわるそれぞれの役割について、国民的観点から議論し、コンセンサスを得ていくこと
が必要である。
国は原子力政策の推進には立地地域の理解が不可欠であることを認識し、立地地域に対して安全確認等にかかわる説明責任を果たさな
ければならない。一方、立地地域も国全体のエネルギー安全保障や国益の観点から、原子力政策に協力・貢献していくことが求められる。
国、立地地域、事業者といった関係者がより緊密なコミュニケーションを取り、各々の役割について相互理解を深めていくことが重要であ
る。
提言3 「安全確保を大前提に設備利用率の向上をめざせ」
●安全確保を大前提に設備利用率の向上を図るため、世界標準となっている科学的合理的な保守管理と安全規制を早急に取り入れるべ
く、官民がそれぞれの役割をしっかりと果たすことが必要。
- リスク情報を活用した科学的合理的な保守管理と安全規制
米国をはじめ諸外国では、リスク情報等を活用し、科学的合理的な事業者による保守管理と国による安全規制を既に導入しており、これ
により高い安全性と効率性(設備利用率の向上)を両立させている。
わが国においても、安全確保を大前提に設備利用率の向上を図るため、リスク情報を活用した科学的合理的な保守管理と安全規制の導入
を目指すべきではないか。例えば、設備利用率が1%向上することで、原油使用量を年間で約100万kl抑制、CO2排出量を約300万t−CO2抑
制することが可能となる。
- 一律の定期検査間隔の柔軟化
わが国における定期検査の間隔である連続運転期間は一律に13か月以内と法律で規制されているが、米国をはじめ諸外国ではそうした
規制はほとんどなく、事業者の科学的合理的な保守管理の下で柔軟に設定することができる。わが国においても、現状の13か月に1回、
プラントを停止し集中的に機器を点検するというやり方から脱却し、運転中の機器の状態に応じて適切に保守を行うなど、運転中と停止中
の保守をバランスよく組み合わせ、事業者が一層の創意工夫を発揮できる保守管理(オンラインメンテナンスや状態監視保全の拡大等)を
志向すべきである。こうした保守管理により、運転中の監視はさらに充実し、設備の信頼性は向上する。また、これまで定期検査中に行っ
ていた保守の一部を運転中に行うことで、年間の保守作業量を平準化でき、定期検査中の作業輻輳の回避、年間を通じた錬度の高い作業員
の確保につながり、作業品質が向上する。
このような科学的合理的な保守管理により、安全性を向上させつつ、設備利用率を向上させ、さらには作業員の被ばく線量も低減するこ
とが可能である。その実現にあたっては、まず事業者が産業界全体の総力を結集しつつ、機器故障率データベース等技術基盤を横断的に整
備し、原子力事業者の自己責任に基づく自律的な安全確保のための活動により安全の質をさらに向上することが必要である。
一方、国は、制度見直しも含め、科学的合理的な安全規制の推進と安全規制に関する説明責任を果たしていくことが必要である。
- プラント機器の型式認定制度の導入
同時に、日本においては、過去に許認可を受けた仕様のプラント機器を、別の発電所に採用する場合、再度、許認可を受ける必要がある
と共に、その審査期間もそれほど短縮化されない。よって、米国で採用されているプラント機器の型式認定制度の導入等、規制の合理化に
よる審査期間の迅速化も強く求められる。
- 検査制度の運用上の改善
一連の不祥事を受け、2003年から新たな検査制度が導入されたが、各種検査の重複等一部運用上の混乱が見られるため、検査の非効
率な運用の是正や検査申請手続きの適正化が必要である。具体的には、定期検査、定期安全管理審査、保安検査の関係の再整理や定期安全
管理審査ルールの定着化等検査制度の改善が求められる。
提言4「原子力技術開発で世界をリードせよ」
●世界標準の原子力技術を確立し、活用するとともに、唯一再処理を有する非核兵器保有国として、核不拡散技術の支援等を行い、世界
全体、特に資源的に脆弱なアジア諸国のエネルギー安定供給・環境負荷低減・核不拡散体制向上のために貢献すべき。
原子力の将来を担う高速増殖炉と次世代サイクル技術等の研究開発は、国のエネルギー・セキュリティに直結するものであり、国際協
調しつつ、国が主体となって開発すべき。
- わが国独自の世界標準技術を確立する必要性
わが国は、軽水炉54基、高速増殖炉2基、再処理工場2か所、ウラン濃縮工場1か所を有する原子力先進国であるが、そこで採用さ
れている技術は米国等海外から導入されたものが多く、世界標準となりうる国産技術は少ない。原子力技術は国際的にどの国を起源とする
技術かが厳格に追求される特異なものであり、自国技術を持たないことによる制約も少なくない。
よって、今後、国家戦略の一環として、国の科学技術開発の重点分野に原子力技術を位置づけ、軽水炉、高速増殖炉、再処理、ウラン濃
縮等の各分野で、わが国独自の競争力のある技術を開発し、世界標準として確立していくことが重要である。それがとりもなおさず、自ら
の技術力でエネルギーを獲得していくことであり、原子力先進国であり技術立国をめざすわが国のあるべき姿ではないか。
また、世界標準として確立した技術を国際展開するとともに、唯一再処理を有する非核兵器保有国として、核不拡散技術の支援等を行い
、世界全体、特に資源的に脆弱なアジア諸国のエネルギー安定供給・環境負荷低減・核不拡散体制向上のために貢献すべきである。
- 軽水炉にかかわる技術開発と国際展開
米国はスリーマイル島の事故以降、20年以上も原子力発電所の新規発注がなかったため、製造基盤が喪失し、今では大型機器の製造等
を海外に依存せざるを得ない状況に陥っているが、1月の大統領一般教書演説においても、原子力政策の方向転換が明確になってきている
。わが国においても、大量の代替炉建設を迎える2030年頃までは、国内の新規建設が低迷するため、その間、軽水炉にかかわる技術継
承や人材育成が大きな課題となっている。一方で、米国や中国等の海外市場は今後拡大することが予想されている。
こうした中、原子力プラントメーカーは、技術継承と人材育成のためにも、国の支援を受けつつ、競争力のあるわが国独自の次世代軽水
炉の開発に取り組み、世界標準炉として積極的に国際展開を図る必要がある。
その際、ハードとしての原子力プラントの輸出に、安全確保、品質保証、運転保守のノウハウといったソフトの要素を絡めた戦略が有効
と考える。そのために電気事業者は、安全確保、品質確保の支援や運転員・保修員の教育訓練、マニュアル整備といった分野で協力し、ま
た、日本原子力技術協会は原子力の各種データ、情報の共有、発電所毎のベンチマーク比較等を主導していくことが重要である。
原子力プラントの輸出にあたっては、核不拡散への対応と輸出相手国での安全性の確保が大前提となるため、国はまず平和利用にかかわ
る二国間原子力協力協定等枠組みの整備を進めなければならない。また、他の輸出指向国と同様に、国はトップセールス等外交上の支援を
行うとともに、ファイナンス上の公的支援も実施すべきである。さらに、相手国の人材育成に協力するため、文部科学省のアジア原子力協
力フォーラム(FNCA)や原子力安全・保安院の国際研修制度を有機的に連携させ、最大限活用していくべきである。
- 2050年に向けた高速増殖炉等の技術開発
高速増殖炉は、発電しながら消費した以上の燃料を生み出すこと(増殖)のできる夢の原子炉であり、現在の軽水炉に比べて、ウラン資
源の利用効率を飛躍的に高めることができる。国の原子力政策大綱では2050年頃からの商業ベースでの導入を目指しているが、その目
標に向け、着実に研究開発を進めていかなければならない。そのためにも、まずは現在実施中の「高速増殖炉サイクル実用化戦略調査研究
」を2015年までに完了させ、開発課題を明確化することが重要である。高速増殖炉サイクルや次世代再処理については、長期的なエネ
ルギー資源問題の解決に直結するため、国が責任を持って技術開発を進め、適切な時期から民間活力を導入し、実用化を目指していくべき
である。
- 技術開発における国と民間の役割分担
技術開発にあたっては、国は、高燃焼度化、被覆材、免震設計、高経年化対応等民間の事業遂行を支える研究開発を行い、民間は、技術
的・経済的に成熟した実用技術を社会に定着させるために、実用度合に応じた人的・資金的支援を行うことを基本とすべきである。昨今、
国の研究開発は、実用化研究よりも基礎基盤研究を重視する向きがあるが、双方バランスよく実施していくことが必要である。個別テーマ
の技術開発等については、下表のとおり、国と民間の役割分担を明確にすべきである(図表1)。
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