[原子力産業新聞] 2006年4月13日 第2327号 <3面> |
インドとどう向き合うか 米印が原子力協力再開 遠藤哲也氏(前原子力委員長代理)今般の米印間の原子力協力合意は「画期的」なものであった。これまでの原子力分野での両国の関係は紆余曲折を経て来ている。インドが独自の論理で核不拡散条約(NPT)加盟を峻拒、平和目的と自称する核実験(1974年)、カーター政権以降、米国の強硬な核不拡散政策、他方で大国インドに対するエンゲージメント(関与)政策の試み、軍事目的の核実験の強行(1998年)と対印経済制裁、アフガン戦争に関連しての制裁のなし崩し、昨今の目覚しいインドの経済発展、米印原子力協力の再開(2005〜2006年)と、いくつもの節目を経ている。 このような経緯を通じて言えることは、例えば次のとおりである。 昨年7月の米印共同声明と今年3月のブッシュ大統領訪印の際に署名された協定は、上記の経緯や現実を認めた上で、NPT問題は横において、米印間の民生用原子力協力を正常化し、核実験のモラトリアム、輸出管理、保証措置の適用など、インドを世界の核不拡散体制の流れの中に実質的に取り込もうとするものであった。 だが、この合意が発効するためには、国内的には米国の原子力エネルギー法の改正、対外的には原子力供給グループ(NSG)のガイドラインの改正という、2つの大きなハードルを越えることが必要で、事はそう簡単ではない。 前者については、米議会には党派を超えた核不拡散派が少なからずいるし、また、米国有力紙や英国エコノミスト誌もネガティブである。後者については米、仏、英、露、IAEA等は前向きの姿勢をとっているが、アイルランド、ニュージーランド、スウェーデン、中国など批判的な国も少なくないため、来たる5月〜6月のリオ・デ・ジャネイロでのNSG年次総会が注目される。 この対立は、簡単に言えば、NPTは神棚に祭っておいて政策としては現実論をとるのか、NPT厳守の原則論をとるのかの選択である。 日本のとるべき対印政策日本は唯一の被爆国であり、非核三原則を国是としている。NPTを中心とする核不拡散体制を自ら厳守するとともに、この体制の世界的な強化に貢献することを基本政策としている。このような観点から、原子力分野でのインドとの協力には、人的交流も含め非常に慎重な態度をとって来た。日本としては、米国がとった現実論を理解できないわけではないが、他方、このようなアプローチが、ただでさえゆらいでいるNPT体制を突き崩すおそれも懸念しており、非常に悩ましい立場にある。 この問題は今般の米印核合意によって大きく浮上して来たが、これまで日本として何もせずに放っておいたわけではない。インドへの対応はこれまでも議論しており、昨年秋に閣議決定した原子力政策大綱にも、インドを名指しこそしていないが、インドを念頭に置いた次のような対応ぶりが言及されている。「協力を実施するに際しては、……関連条約・枠組みへの加入遵守状況等に留意する必要がある。しかし、相手国にこれらに欠けるところがある場合は、例えば国際機関における活動や、安全の確保といった普遍性の高い分野において限定的な交流を行うなど、……未来志向の考え方に立った交流のあり方を検討すべきである」。 この方針を踏まえて、日本としてはインドとの間に具体的にどのような協力が可能かを検討していくべきである。そのためにはまずは、日印の官民双方の原子力関係者が集まって対話、協議する場を作るのが必要ではないかと思う。 |