[原子力産業新聞] 2006年5月11日 第2330号 <4面>

【第39回原産年次大会 セッション1 新たな飛躍へ向けて】

大会2日目、セッション1のテーマは、「踊り場に立つ原子力産業―新たな飛躍への挑戦」。原子力開発が軽水炉の利用等で成熟期を迎える一方、今日の原子力産業は、他のエネルギー産業に比べ、競争力や社会の信頼感の低下という面で大きな問題を抱えている。現在踊り場にあるわが国原子力産業の基盤強化と再活性化のため、産業界関係者は一体となって行動することが必要だ。ここでは、わが国原子力開発50年の歴史を総括した上で、新たな飛躍を目指す原子力産業のため、関係機関の役割を明らかにし決意を示すとともに、その一翼を担う原産協会が果たす使命を考察した。

本セッションは、鳥井弘之・東工大教授が議長を務め、秋元勇巳・経団連資源エネルギー対策委員長と宅間正夫原産協会副会長の講演に続き、伊藤隆彦・電事連原子力開発対策委員長、兒島伊佐美・日本原燃社長、齋藤莊蔵・電工会原子力政策委員長、殿塚猷一・日本原子力研究開発機構理事長をパネリストに迎え、討論した。

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「踊り場に立つ原子力産業―果たした役割と残された課題」(秋元勇巳氏)

文明の規模がグローバル化し、世界的な人口増大や、途上国の爆発的な経済発展が、それに追い打ちをかけている現代、一文明の危機は、即全世界の危機につながる。地球規模で増大する危機に対応し、様々に展開される各国のエネルギー戦略の中で、特に際立つのが、原子力の役割を再評価する動きだろう。

原子力が文明社会の活動にとって欠くことのできないインフラ構造として、社会に定着するためには、満たさねばならない3つの基本的要件があると考える。まず、原子力エネルギーを生み出すシステム自身が、将来ともにその機能を発揮し続けてゆける、サステイナブル構造を備えている、ということ。第2に、地球温暖化防止にとどまらず、次の世代によりよい環境を引き継ぐことのできる、クリーンなエネルギーであること。そして最も重要なことは、平和のためにのみ貢献し、決して第2の被爆国を生まない、ピースフルエネルギーであり続けること。

英国のラブロック氏はガイア理論を創設し、フロン公害の警鐘を最初に鳴らした、生粋の環境学者だが、彼は一昨年、「人類の文明が差し迫った危機にさらされている今こそ、唯一安全確実なエネルギー源、原子力を活用すべき」と述べ、大きな反響を呼んだ。

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「民間原子力産業界の新たな飛躍の途を拓く原産協会―50年の歴史を糧に新たな使命を担って」(宅間正夫氏)

56年3月、多くの企業・機関・団体により、「日本原子力産業会議」が設立された。官民双方が原子力開発の方向を模索し始めた当時、原産は原子力の長期的な開発方向や原子炉型式の選定など、国の原子力開発計画を主体的に牽引してきた。60年代からの高度経済成長に伴う電力需要急増、大気汚染公害、二度にわたる石油危機に後押しされて原子力発電所の建設が進み、原子力産業界は自立的に発展し始め、原子力界を牽引した。それに伴い原産は次第にその活躍の場が狭められていった。世界的・国内的に初期トラブル発生などによって安全性に疑問が投げかけられ始めた70年頃、原産は「むつ」の放射線漏れを契機に、「中立性」を標榜して、産業界から距離を置くようになった。しかし、軽水炉発電の成熟段階に達した90年代から、産業界内部に発生した制度疲労や内部矛盾が故障・事故や不祥事として顕在化し、原子力は社会から「不安感と不信感」を突きつけられるようになった。一方で、21世紀に入ってから世界的に原子力が見直され始めた状況で、わが国原子力産業界はこのままでよいのか、産業界内部に危機感が生まれてきた。これが原子力産業界の「基盤強化と再活性化」を目指す動きを促し、産業界の強力なリードの下に民間原子力産業団体のあり方を抜本的に見直すこととなった。その結果、産業界の自主責任に基づく自主保安の徹底を促す「日本原子力技術協会」が一年前に設立され、原産会議を改組改革して政策提言とその実現を目指す新たな民間団体としてこの4月に「日本原子力産業協会」が発足した。

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パネリストの声

伊藤氏 原子力エネルギー利用に対し、世の中の受容が不十分。従来のやり方をよく見直して、対話しながら進めていく必要がある。

兒島氏 再処理事業の進展に伴い、プルトニウムの存在を社会がどう受け入れるかが問題。宅間氏が「21世紀は哲学と市民が社会を方向付ける」と述べたが、原産が、その哲学作りを国、電力、自治体の役割分担の上に立ち、進める力を持って欲しい。

齋藤氏 原子力といえば、まずエネルギー利用だが、現実には加速器、放射線等、分野が着実に広がっている。しかし、業界としてエネルギーとは別枠になっており、産官学連携が今後の重要なポイントだろう。

殿塚氏 地域との共存・共栄を常に訴えてきた。原子力の計測技術が焼き物の温度管理に応用されたことがあったが、こういった技術を地域産業の活性化につなげていけないものか。


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