[原子力産業新聞] 2006年5月11日 第2330号 <4面>

【第39回原産年次大会 セッション2 国際展開:内外から熱い期待新たな飛躍へ向けて】

続くセッション2のテーマは、「ダイナミズムを見せる世界の原子力、そこから見た日本への期待」。地球温暖化の問題や、アジア地域を中心とするエネルギー消費の拡大および原油価格の高騰等を背景として、世界で環境・資源の両面から原子力に注目が集まっている。欧米諸国では原子力産業が積極的な動きを見せている。

ここでは、諸外国の関係者がそれぞれの原子力活動の展開を紹介、海外から見た日本の原子力の姿および日本への期待について議論した。

「国際的な流れの中での日本の原子力政策の方向性」柳瀬唯夫・資源エネルギー庁原子力政策課長

日本では現在55基の原子力発電所が運転中、2基が建設中(もんじゅ除く)で、11基が着工準備中と、世界的に見て高水準の開発状況だ。進展する電力自由化の中で原子力発電を推進するために@バックエンドなど原子力固有の将来リスクの低減・分散A初期投資負担・廃炉負担の低減・平準化B広域運営・共同開発の促進C原子力の温暖化対策などの効果を明確化―等を議論している。そのほかにも国際展開について、政府による積極的な支援表明、相手国との対話強化、相手国の人材育成・制度整備への協力などの施策を実施する方針を固めている。また、GNEPなど各種の国際核管理構想の提案についても、積極的に貢献する用意はある。

世界の原子力産業の寡占化と核不拡散体制の動きの中で、日本のエネルギー安全保障のため、国際競争力を有する原子力産業を確保する必要がある。国内メーカーの体力のあるこの10年内に、国際市場で競争する原子炉のコンセプトやターゲット市場を明確にし、中長期を見据えた戦略の構築と実行が不可欠だ。

◇   ◇

「インドにおける原子力開発の現状と今後の展望」S.ジェイン・インド原子力発電公社社長

インドは世界人口の16%を擁し、GDPは年間成長率6〜8%に達している。電力分野もGDP成長に呼応して年間6〜7%で伸びている。電源構成は火力67%、水力26%、再生可能エネルギー5%、原子力2%である。当面火力が主要電源ではあるが、将来は原子力が主要電源の役割を担う計画だ。

インドはトリウム資源が豊富であり、これまで加圧重水炉(PHWR)を旗艦炉としてきた。欧米からの機器供給が途絶えてからは、独自にバックフィットを施しており、技術レベルも極めて高い。インドは2020年までに4,000万kWの原子力発電設備容量を開発する予定だが、内訳はPHWR(1,000万kW)、FBR(200万kW)、軽水炉(2,800万kW)で、今後は国際市場から大型軽水炉を輸入する必要に迫られている。

日本の原子力産業界のインド原子力開発計画への参加を期待している。日印原子力協定は結ばれていないが、WANOの枠組み内で日本の原子力発電所と技術交換会やピアレビューが可能であろう。また日本のすぐれたFBR、津波、耐震設計、建設技術などの分野での協力も期待している。

◇   ◇

「英国における原子力と廃止措置―NDAと国際入札」R.ゴーラム英原子力廃止措置機関競争入札担当部長

英原子力廃止措置機関(NDA)は国内民生用原子力施設のデコミッショニング・除染に関する戦略決定と全体管理を行う非省庁政府機関で、昨年4月に発足し、12のマグノックス炉、4燃料サイクル施設、4研究施設の計20サイトを所有している。政府予算とビジネス収入からなる年間予算は約4,000億円であり、競争原理を活用してデコミ市場を育て、英国の原子力債務を安全かつ経済的に処理することが責務である。

デコミ等事業の実施にあたっては委託形式を採用し、サプライ・チェインの効率良い活用を目指す。まずNDAはティア1という第1段階の請負会社(BNFLやUKAEA)と契約を結び、ティア1はティア2という第2段階の会社と契約を結ぶことによって、競争や改革、技術開発が促進されることになるだろう。英国と日本は長年にわたる協力関係を築いてきており、NDAはそれを更に強化したいと考えている。このサプライ・チェインにおいても、原子力に限らず日本の幅広い産業界と協力することが出来るのではないかと考えている。

◇   ◇

「外から見た日本の原子力の姿」谷口富裕・IAEA事務次長

日本は経済規模、電力消費量、原子力開発規模、国際機関への拠出割合といった客観的重さの割には、原子力をめぐる国際政治・国際市場においては存在感が薄い。メッセージの発信力、伝達力、受信力が弱く、世界への働きかけの双方向性も低い。科学的合理的な安全管理・規制を行い運転実績・安全レベルを上げて国際評価を高め、政府が原子力技術の維持・強化策を促進することによって国際競争力の維持・向上を図る必要がある。透明性・開放性の向上といった見せ方の問題も重要であり、国際的に顔の見える専門家の数と活躍の場を確保し、強いリーダーシップを取れる人材を養成することが必要だ。また、グローバル化の進んだ現代社会では、目に見える技術こそ価値があり、質の高い技術が国の存在根幹となる。

外から見えるためには、グローバル化と反グローバル化、総合安全保障問題、持続的発展の問題、世界市場動向、世界の新たな制度・枠組み作りといった外の世界をしっかり見ることが必要であり、世界に良く働きかけることが必要である。新計画策定会議や原産の提言にいろいろな働きかけが示されているが、個々には大切でも、大きな国際戦略が全く見えない。世界性・普遍性・科学性のある政策と経営による技術的独自性・卓越性の確保、ダイナミズムの焦点への重点的対応、次世代の国際枠組みの構築への積極的関与、信頼感の醸成といった、原子力の「新生」に向けた総合的国際戦略が必要である。IAEAはそのような動きの中で、多国間レベルでの原子力技術と核燃料の供給保証を提唱しているが、日本としてはぜひ先取りして取り組んで欲しい。


Copyright (C) 2006 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.