[原子力産業新聞] 2006年5月11日 第2330号 <5面>

【第39回原産年次大会 セッション3 更なる検査制度の改善を】

セッション3のテーマは「世界最高水準の安全確保と更なる検査制度の改善の方向性」。検査の実効性をより高めるには何が必要かを主要な論点に、パネリストがそれぞれの考え方を示し、会場からも様々な意見が出された。議長は科学ジャーナリストの中村政雄氏、パネリストは武黒一郎・東京電力常務、広瀬研吉・保安院長、相澤清人・原子力機構特別顧問、石川迪夫・日本原子力技術協会理事長、関村直人・東大院教授、A・ハワード・NEI副理事長。

分かり易い検査制度を

武黒常務は、事業者の自立的な保安活動を前提に、現制度の基本的な考え方を定着・発展させることが必要と提言した。そのための重要課題として、@現場のデスクワーク的な負担増を改善するための仕組みの検討A技術進歩やデータ蓄積などによる事業者の保全活動の質的向上に対し、機動的かつ柔軟に対処し効率的で分かり易い検査制度の実現B現場が検査を通じて、かけた労力に応じた品質改善を実感できる制度−などを挙げた。これまでの定検停止時に集中した保守管理から、運転中監視(状態監視)、各種データの保全への利用促進などの方針についても説明した。

柔軟な検査制度に移行

広瀬院長は、今年1月から実施した高経年化対策の状況、昨年11月から審議を開始した検査の在り方に関する検討会の状況、保安院の今後の取組みなどについて説明。同検討会では事業者の運転中監視・点検技術の向上に対応した運転中と停止中の検査のバランスの検討とともに、各事業者の保全プログラムを事前チェックした上で検査するという、個々のプラントの状況に応じた柔軟な検査の実施を検討しているとした。

リスク情報活用の課題

相澤顧問は、確立論的安全評価(PSA)と安全目標・性能目標、安全規制へのリスク情報活用について今後取組むべき課題、研究開発機関の貢献などについて説明した。これまでにリスク情報活用の基盤は整備され、試行を通じて活用経験の蓄積を急ぐ段階に入っており、段階的活用の推進と知見の迅速な反映が肝要であるとした。研究開発機関は規制当局・事業者と連携、リスク活用の高度化のための手法やデータを整備するとし、学会協会による標準・ガイドライン整備加速への期待を表明した。

運転に良い環境作りを

石川理事長は現場重視の考え方の徹底、ルールの在り方などの観点から意見を述べた。安全確保には現場を徹底的に見て改善点を見つけ出すことが重要、会議室での議論やデスクワーク多くなっていないかと指摘。ドキュメンテーションなどの手段が安全という目標を上回る状況なら主客転倒であり、箸の上げ下げまでルール化するのではなく、運転に良い環境を如何に作るかという観点を重視すべきとした。また、我々は安全なハードウエアを作っており、それを忘れるべきではないとし、トラブルが直ぐに放射線の外部放出に結びつくようなマスコミ報道には、反発すべきで、原子力界にはこれを行わない悪い風習があるとした。

システム保全学の立場

関村教授は、システム保全学の立場で、高経年化システムマネジメント、機器材料劣化評価と検査に関わる科学技術基盤などについて解説した。高経年化に対して安全性や信頼性を確保するためには、経年変化技術情報データベースなど技術情報基盤の整備、経年変化評価など技術開発の推進、規格基準類の整備、保全の高度化などに産官学で取組むことが必要と指摘。材料の経年変化では脆化、クラックの生成・成長というマクロ的な視点と、中性子照射の分子動力学法などによるミクロ的な視点の結合が必要とした。

現場と規制が分断した

ハワード副理事長は、規制の重要なポイントは、安全を改善するための考え方を示すこと、これまでの知見を有効に活かすことなどであり、パフォーマンスインジケーター(PI)の活用も重要と指摘。米国は過去に稼働率が低迷した際、運転の現場と規制に分断が起き、規制のための規制になっていることに気付き、規制を分かり易く、実際に機能するよう見直したとした。安全確保には人間と安全文化が重要、規制当局は支配するのではなく、如何に活動を促進するかを考えるべき、運転する人は外部を含むレビューをいとわない姿勢が重要と述べた。

活発なパネル討論行う

続いて行われたパネルでは、@安全を維持しながら如何に稼働率を向上するかA検査制度の見直しは安全軽視では、との指摘にどう応えるかB検査制度の見直しは地元企業の仕事の減少につながらないかー―という3点について意見交換が行われた。稼働率向上に関したリスク情報の活用では、各事業者がマイプラントのデータを咀嚼して活かすことが重要などの意見が出されるとともに、広瀬院長は、現在、保安調査などを実施している保安検査官について、将来的には同検査官が施設の検査を行う方向にしたいとの意向を示した。

安全軽視ではとの指摘に関しては、初期故障の多さを考慮すべき、定検間隔を延長した場合のパイロットデータを取り示すべき、無駄な被ばくを低減することが必要などの意見が出された。地元企業の仕事量に関しては、状態監視の拡大などにより仕事量は平準化するが、トータルの仕事量は増えるのではないかとの指摘とともに、地元企業もこうした作業内容の変化への対応が必要との意見も出された。

会場からも検査の在り方に関する検討会の委員に現場の人を入れるべき、現場が改善活動に生き生きと取組む環境の整備を、地元自治体も現場で働く人の90%以上が地元住民であり被ばく低減は責務との認識を、検査官の質の向上を、などの意見が出された。


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