[原子力産業新聞] 2006年5月11日 第2330号 <5面>

【第39回原産年次大会 セッション4 原子力ルネッサンスの波を】

セッション4のテーマは「日本に原子力ルネッサンスの波を引き起こす」。フォローの風が吹き始めた原子力界、この動きを確固なものにするとともに、国民総意の原子力推進にするには何が必要か、様々な立場から提言が出された。議長は伊藤範久・電事連専務理事、講演者は小谷隆亮・大洗町長、加藤之貴・東京工大助教授、石岡典子・原子力機構量子ビーム応用研究部門研究副主幹、田中治邦・電事連原子力部長、喜多智彦・原産協会情報本部マネージャー。

小型FBRで水素社会

小谷町長は、大洗町の原子力との出会い(大洗港のアイソトープによる潮流・漂砂の調査研究)、「わたくしたちはこの海をひらき原子の火を育て水と緑を愛する健康で明るい大洗の町民です」との町民憲章、原子力機関の誘致の経緯、産学官連携のまちづくりなどを紹介。併せて小型FBRで水素と酸素を製造、これを利用した大洗町の将来構想を提示した。町に小型FBRから供給される電気+熱の供給ライン、水素パイプライン、酸素パイプラインなどを構築し公共施設、交通機関、観光施設、農業・漁業・水産加工業など幅広い分野で各ラインを利用する。「早い時期にFBRプラントを設置し、水素社会を構築、より豊かなまちづくりを実現したい」と豊富を述べた。

バイオマスとの協働を

加藤助教授はエネルギー安定供給への原子力の貢献として、エネルギーの安全保障や選択、水素と原子力、バイオマスと原子力の協働などを解説・提案した。他国に依存しない自国エネルギー源の確保がわが国経済の持続的な繁栄に必須とした上で、再生可能エネルギーと原子力を量的な視点で比較。1GW(30万人分)の発電に必要な用地面積は原子力0.51平方km、太陽光67平方km、風力248平方kmであり、再生可能エネルギーの量的確保は困難とした。また電気以外のエネルギー媒体として水素の重要性を指摘。車上水素製造を可能にする炭素リサイクル型原子力水素キャリアシステム、バイオマスに原子力水素を付加することにより利用可能なエネルギー媒体量を増大するカーボンニュートラルシステムと原子力の協働などを提案した。

がん治療を内部照射で

石岡副主幹は放射性核種利用の普及や新規利用分野の開拓として、がん治療、植物における物質挙動のリアルタイム計測の最近の研究成果を紹介、併せて原子力への関心を如何に高めるかについても提言した。様々な放射線による外部照射は広く普及しているが、今回は放射性薬剤を使用した内部照射の方法について、標識技術の開発やドラッグデリバリーシステムの構築などを解説。植物研究における放射性核種の利用では、最近の成果であるイネのカドミウム吸収・移行量のPETIS(植物ポジトロンイメージング装置)計測の成果を報告した。同計測技術により安全な食料の効率生産、植物による環境浄化などを実現できるとした。また、一般市民の理解促進するためには、無関心層の関心喚起にあると指摘、医学における放射線への理解と関心の高さを他の放射線利用にも広げることが大きなテーマと指摘した。

原価構造で原子力有利

田中部長は原子力エネルギー利用の将来展望として競争力、既設炉の将来、核燃料サイクル関連事業の展望、新規増設、大規模リプレース時代、FBRサイクルの将来、人材教育と技術伝承の展望などについて述べた。競争力では既設電源運用の優先順位は燃料費が重要決定要因であるとし、ウラン燃料費に占める輸入価格部分が小さい原子燃料費の優位性が上昇、新規電源建設でも発電原価構造の違いから原子力の優位性が高まっていると指摘した。既設原子力発電所では、アクシデント・マネジメントの導入により著しく安全性が向上、今後、耐震設計審査指針の改定に照らしたチェックを行い、望ましい耐震余裕向上対策を積極的に実施する方針を示した。また、高経年化対策で供用期間を60年程度に延ばすとともに、海外に比べ遅れている高燃焼度化により燃料の経済性向上が可能とした。

新規増設ではバックエンドの不確実性の排除、国の地方に対するリーダーシップの発揮などを要請、大規模リプレース時代への展望では日本型次世代軽水炉開発に対応した要求仕様を電気事業者として取りまとめたことを明らかにした。FBRは2050年頃の本格導入を基本シナリオとしつつ、あらゆる情勢変化に対して柔軟にプルサーマルを運用する方針を示した。人材では、原子力発電所を長期にわたり運転する事業者にとって原子力工学を専攻した若手へのニーズが減ることはないと強調した。

3つのセキュリティー

喜多マネージャーは、世界は原子力利用によりヒューマン、エネルギー、ナショナルという3つのセキュリティーを実現すべとし、その実現のため日本は何をすべきかについて述べた。放射線・RI技術は農業、水資源開発、医学など様々なヒューマン・セキュリティー問題に技術的解決策を提供、ナショナル・セキュリティーに関し核拡散問題の解決には当該国の国家安全保障向上のための手段提供を含む解決策が必要と強調した。

このため日本は、途上国に対し放射線・RI技術での協力を強化すべきで、発電分野でも同じく原子力協力協定を早期締結し国として協力の意志を表明、他の主要国並の支援体制を行うべきとした。ナショナル・セキュリティーへの貢献では、安全性・核拡散抵抗性が高く、環境融和性や経済性にも優れる技術開発などを推進する必要性を強調した。


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