[原子力産業新聞] 2006年6月22日 第2336号 <4面>

日本学術会議 原子力総合シンポ 2006
〜第三期科技基本計画の基本理念アピール〜

6月1日号既報の通り、5月29、30日、日本学術会議主催「原子力総合シンポジウム2006」が開催、この3月に閣議決定された「第三期科学技術基本計画」の掲げる基本姿勢と6大目標を原子力科学技術のスコープからアピールした。新たな科学技術基本計画は、科学技術の振興に関して「政府全体として着実に実行すべき施策」として、地道な基礎研究の推進、国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化をうたっている。原子力についても、計画策定に至るまでの議論で、「日本のエネルギー供給の重要な役割を担っている」とする一方、「不安を払拭し、国民とともにある原子力にすべき」との発言もあった。ここでは、そういった課題も提起した同シンポジウム概要を紹介する。

原子力政策大綱

シンポジウム冒頭、近藤駿介・原子力委員長は、昨年策定された原子力政策大綱を踏まえ政府と民間に期待される重要な取組について述べている。

大綱に示す原子力の研究・開発・利用における基盤的活動ではまず、安全の確保について、立地地域との理解を深めるよう相互理解活動を進めること、高レベル放射性廃棄物については、処分地選定に向け最大の努力を尽くすことを求めた。また、事業者等が「地域の一員として」積極的に地域発展の取組に参加するなど、原子力と地域社会との共生を目指す考えも合わせて近藤委員長は述べた。エネルギー利用では、現在の発電所建設計画を着実に進めるとして、原子力を引き続き基幹電源として位置付けていく姿勢を示している。また、国際的取組では、世界の核不拡散体制強化への積極的姿勢、原子力発電導入を計画する途上国協力について言及。

目標1 飛躍知の発見・発明

SPring─8を始めとする大型研究開発施設による最終成果は、他分野の研究水準の飛躍的向上をももたらすが、永宮正治・J─PARCセンター長は、地球内部構造の解明、タンパク質の分子構造解明、113番目の元素発見など、「量子ビームテクノロジー」の幅広い応用について紹介した。今後の研究開発の進め方に際し、文部科学省の量子ビーム促進プログラムが動きつつあることに触れたが、技術者局在の問題等を指摘し、長期的展望に立った計画策定、加速器建設の新たな仕組み作りなど、課題も提起した。

目標2 科学技術の限界突破

科学技術基本計画の国家基幹技術に「次世代スーパーコンピュータ」が選定されたが、矢川元基・東洋大学計算力学研究センター長は、これについて、海洋分野の研究開発に利用される「地球シミュレータ」が高く評価された結果として、当時の原研も米国との熾烈な競争の中で開発に協力した経緯を振り返った。その上で、計算科学技術を実験、理論に替わる「第3の科学的手法」と位置付け、予算、環境の制約から実験が困難な巨大システムでの研究基盤として有用と述べ、原子力分野でのスパコンの応用例に、軽水炉の熱流動解析をあげるなどした。

矢川センター長は、国家セキュリティの観点から、「外国からの借り物ではなく真の国産技術」として、計算科学技術を研究開発していく必要を強調している。

目標3 環境と経済の両立

中国、インドを始め開発途上国を中心とする経済成長と人口増加により、今後世界のエネルギー需要は大幅に増大することが見込まれる。一方、地球温暖化問題は、人類の生存基盤に関わる最も重要な環境問題の1つとなっており、ライフサイクルCO2排出量の少ない原子力発電は、地球温暖化対策の有力な手段として期待される。

鈴木達治郎・東京大学公共政策大学院客員教授は、最近の世界のエネルギー問題として、石油価格の高騰、資源の偏在をあげ、加えて化石燃料のアジア地域での消費増加、南北格差がエネルギー価格の安定性に影響を及ぼしていることを懸念した。鈴木教授は、持続可能な発展の条件として、国際社会の安定、市場メカニズムとの整合をあげており、エネルギー自給率の低いわが国においても、米国の電力自由化市場等、世界の潮流にも留意しつつ、コスト負担、核不拡散体制への貢献も念頭に、核燃料サイクルを推進していく必要があるといえる。

これを受け、田中知・東京大学院工学系研究科教授は、「六ヶ所再処理工場は核燃料サイクルの中心的施設。安全安定な操業が問題なく行われるよう、技術発展と基礎基盤研究を幅広く厚みを持って進める必要」を強調した。また、国家基幹技術に選定された高速増殖炉サイクル(写真左は原子力機構「もんじゅ」)については、「現実的な開発戦略により、研究開発と実用化のギャップを埋める」ことを訴えた。

目標4 イノベーター日本

柘植綾夫・総合科学技術会議議員は、「第三期科学技術基本計画の目指す日本と原子力の役割」と題して講演(=写真)。「産官学の各原子力関係者は『イノベーション・パイプライン』で連携を」と訴えた。

21世紀の今、明治維新、戦後の復興に続き、わが国は第3の重大変革期にあり、どのような国を創っていくかビジョンを描く必要がある。科学と技術のパラダイムの再確認によって、今世紀の日本の姿が見えてくる。そのような中で、第三期科学技術基本計画策定は、基礎基盤活動と研究開発の実用化を担うそれぞれの省庁の活動を、太いパイプで結び付ける改革であった。

新計画に掲げる戦略技術に原子力エネルギーがあることは大変意義深く、産官学連携のもと、効果的・効率的に推進していくことが求められる。また、原子力の非発電分野についても、「原子力への理解と受容度向上」、「原子力産業の発展」、「人材育成」を強化していく必要がある。しかしながら、原子力の分野では、他の重点戦略分野の成果活用が意外と欠けているようだ。軽水炉の信頼性を高める先進技術は、他の基盤的技術も利用して生み出されているのだ。

目標5 生涯はつらつ生活

医療の分野では、放射線が病気の診断、がんの治療に応用されており、新しい技術の開発もめざましい。がんは現在、わが国死亡原因の第1位を占めており、その克服は国民の悲願でもある。放射線がん治療で、遠藤真広氏(放射線医学総合研究所)は、画像診断技術、ロボット技術の向上により、病巣部位を精度よく同定し照射線量を集中できるようになったことなど、最近の技術進歩について述べた。例えば、「強度変調照射法」の開発により、従来困難であった凹型病巣への照射も改善されているという。

一方で、そういった先端放射線治療の普及に際して、医学物理士の不足が治療の品質管理を確保する上で、問題となっていることを指摘した。遠藤氏によると、米国では約5,000人の医学物理士が認定を受け活躍しているのに対し、日本では87年の認定開始から100人程度で伸び悩んでいたものの、漸く近年数十人のオーダーで増えてきたという現状で、専門職大学院への医学物理士養成コース開設、さらに、診療報酬の評価整備などにより、人材を確保していく必要を訴えた。

目標6 安全が誇りとなる国

鈴木篤之・原子力安全委員長は、再処理施設の安全規制について、発電所と同じく年4回の保安検査が課せられていることなど、「サイクル規制の原子炉化」といった現状を指摘し、施設の特徴に則したより実質的な規制対応の必要を述べた。また、高経年化対策、リスク情報を活用した安全規制など取り組むべき長期的課題について触れたほか、専門家と社会の間に介在する「情報の非対称性」を補完するセイフティ・コミュニケーションを図ることも、安全委員会の1つの役割であるという認識を示した。

基本姿勢1 社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術

消費者(女性)の立場から、犬伏由利子・消費科学連合会副会長は、かつて原子力発電を原爆と結び付けて反対する人たちも多かったが、今では安全対策の広報の効果もあってか、「ベネフィットとリスクをはかりにかけ」考えるようになってきたとする一方、消費者教育の経験から、BSE問題を例にあげ、専門家と一般人の考えるリスクは違うと述べ、「専門家は科学が人類にいかに便益をもたらすか一般人にわかるように説明すべき」と主張した。

安全と安心について、木下冨雄・国際高等研究所フェローはまず、リスクを運命として受動的にとらえる日本に対し、欧米は選択の問題として能動的にとらえるとして、「文化による安全と安心に対する考え方の違い」を原子力関係者に対し喚起した。また、「反復事故は技術を墓場入りさせる」として、無事故の実績の重要性を強調し、加えて、信頼性確保には社会科学的技術も必要と述べ、「広報・広聴はもはや死語、説得から共考へ」を掲げる双方向コミュニケーションの必要を力説した。

基本姿勢2 人材育成と競争的環境の重視 〜モノから人へ、機関における個人の重視

班目春樹・東京大学院工学系研究科教授は、大学の教育内容の変化、卒業生の需給不均衡、人気のなさから近年、全国の大学から原子力工学科が姿を消してきた経緯を述べ、そのことが、既に教科書の存在しない分野もあることなど、人材の育成・確保のみならず、学問体系の乱れにもつながっていることを指摘。

また、同学に昨年設置された専門職大学院について触れ、原子力開発機構の支援を受ける一方、「専門技術者の育成には医学部並みのコストがかかる」として、人材育成に対する原子力界全体の連携した取組の必要を強調した(写真右は原産年次大会「学生セッション」の模様)。

組織における人材確保対策の例として、佐々木政則氏(原子力安全基盤機構)はまず、現在大半を占める技術系職員の平均年齢が52歳と、10〜17年に約半数が退職する見通しについて触れ、技術の伝承への影響を懸念した上で、学卒者の積極的採用・教育、即戦力となる技術者の採用、効果的・効率的業務への選択といった将来ビジョンを掲げ、当面の応急措置としてOBの活用を図っている現状を述べた。しかしながら、独立行政法人としての人員制約等から、他機関とも交流した人材育成・技術伝承の必要性を訴えた。


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