[原子力産業新聞] 2006年6月29日 第2337号 <4面>

ベトナム 原子力発電導入の現状 ハノイで原子力展示会

本紙5月25日号で既報の通り、ベトナム科学技術省と工業省は、5月16〜19日、「原子力発電の安全性と経済性」をテーマに、ハノイで「国際原子力発電展示会」を開催した。この展示会には日本をはじめ、韓国、フランス、ロシア、ベトナムが出展。また日本からは、経済産業省の片山さつき大臣政務官を団長とする官民19名の代表団が参加、ベトナム側の政府要人と会談を行った。同展示会に日本側の事務局として参加した原産協会国際・産業基盤強化本部の中杉秀夫リーダーが、ベトナムの電力事情、原子力開発の動向も含め、報告する。

日、仏、韓、露、越5か国が出展

昨年4月末に、日越協力を担当するようになってからだけで7回目のベトナム出張が、日、仏、韓、露、越の5か国が出展した、ベトナムにとっては2回目の国際原子力展示会であった。

前回、2004年5月に開かれた原子力発電展示会は、原子力発電がどういうもので、どのような役割を果たすかの紹介が主であったが、今展示会は、原子力発電が他の電源に比べて経済性を保ちながらも、いかに安全に留意しているかを党や政府の指導者、国民に示すことが主眼となっていた。

社会主義国家とはいえ、ベトナムは、上意下達とはまったく違う、かなり民がものを言えるコンセンサス社会だと感じている。

ベトナムの電力需給状況

ベトナム全土の発電設備容量は、1,001万kW(2003年12月現在)。

内訳は、水力41%、ガス火力35%、石炭12%、石油6%、その他5%(表参照)。電力需要の伸びは年率14%以上で、すでにラオス、中国から割高での電力購入を余儀なくされている。毎年100万kW以上の設備建設が必要で、立ち上がりの早いディーゼル発電所建設や独立電気事業者(IPP)に頼っている。

2005年5月には渇水のため、ベトナム全土で深刻な電力不足が起こっている。

ベトナム 原子力発電導入計画の現状
「原子力平和利用長期戦略」の承認

ベトナムでは本年1月に、原子力開発の基本方針を示す「原子力平和利用長期戦略」を首相が承認した。これにより、2003年11月のドラフト完成後、慎重な検討を重ねていた「原子力発電に関するプレ・フィジビリティ・スタディ(プレFS)」報告書の国会承認と、次の段階であるFS開始が動きつつある。また、関係省庁の所管権限が規定された。

a.科学技術省

▽原子力利用および放射線防護、原子力安全に関する戦略遂行を所掌する。また、原子力および放射線に関する安全・研究開発・審査・許認可を担当する組織・機構を整備する。▽原子力発電プラントの技術移転契約および建設プロジェクトの評価を担当する。

b.工業省

▽サイトの選定、建設運営、運転実施に関する計画を立案する。▽科学技術省等との調整により、原子力発電プロジェクトで国内産業の能力向上を推進する。▽プロジェクトマネジメントの運営者・担当官、技官、労働者を育成する。

c.計画・投資省

▽原子力長期戦略の実行と原子力発電導入のための財務を所管する。▽原子力発電所の建設契約を評価、検討、承認。

原子力発電導入の実務事項は工業省の所轄と明記された。また科学技術省が原子力関連の法令・安全・研究開発の基盤整備で全体的調整権限を委ねられた。

原子力発電導入準備の経緯
@原子力発電の検討

1996〜2000年にかけて、工業省、科学技術省がIAEA等と協力しながら、個別に3つの調査プロジェクトを実施した。

A「原子力発電運営委員会」の設置

2002年3月に政府が原子力発電導入の本格的検討のために設置した。委員長は工業省大臣。

B「プレFS」の実施

2001年4月の第9回ベトナム共産党大会において「2001〜2010年の社会経済発展戦略」を採択、「原子力発電の利用について調査する」ことを初めて公式に明記した。同5月に首相が「プレFS」を至急進めるよう指示した。

2002年6月にベトナムから日本に対しプレFSの協力依頼があり、日本プラント協会がエネルギー研究所と協力覚書を締結し、日本原子力産業会議が連携・支援した。プレFSは2002年8月に開始、翌年11月に報告書原案を完成した。

左地図にプレFS報告書原案での原子力発電所の建設候補地を示す。

建設サイト=ニン・トゥアン省(ホーチミン市より約300km沿海部)、出力・基数=第1段階・約100万kW×2基、第2段階・約100万kW×2基

第2回国際原子力発電展示会 国会議員など8,000人が入場

2004年5月に次いで2回目の国際原子力発電展示会がハノイで開催された。

国会、政府機関、報道機関、国民の原子力発電に関する理解促進、とくに共産党大会後の国会会期中であり、政策決定者に強くアピールする狙いがあった。

開催の成果

@入場者総数は約8,000人で、教師に引率された中学生・高校生グループが目立った。大学生もいた。いずれも熱心で、メモをとる姿も見受けられた。

A国会議員約200人が展示最終日の5月19日午後5時に5台のバスに分乗して来場、見学した。

展示会開会式

展示会開会式は、展示会場に隣接する文化宮殿の講堂で行われ、主催者側挨拶の後、越・日・韓・仏・露の各代表が壇上で、開会のテープカットをした(=写真右)。

外国代表団は、日本(片山さつき経産大臣政務官、前田肇原子力委員他41名)、韓国(韓国水力原子力公社副社長他40名)、ロシア(アトムストロイエクスポルト副総裁他21名)、フランス(原子力庁原子力開発局長代理他15名)であった。日本からは服部大使をはじめ、各国大使が参列、全体の出席者は約400名を数えた。

展示会への日本の参加の意義と成果

ベトナムの原子力発電導入準備の進展から、今回の展示会への参加は以前にも増して重要な意義を担っていた。

このため、今回の展示会には、日本の技術の優秀さとともに、官民一体で臨むわが国の協力姿勢をアピールする機会として、積極的に参加した。

@官民ハイレベル代表団の参加

▽片山さつき経産政務官を団長、前田肇原子委員を顧問、伊藤範久電事連専務理事、齋藤荘蔵電工会原子力政策委員長、宅間正夫原産協会副会長の3人を副団長とする代表者19名が参加した(=写真下)。

▽キエム副首相、ハイ工業大臣、フォン科学技術大臣等ベトナム側要人との会談で、日本は官民一体でベトナムとの協力に取り組む姿勢を示した。

A展示会への出展

日本は、この展示でベトナム語を中心に展示。

Bベトナム主催「国際原子力パネル討論会」参加

▽原子力発電の経済性、安全性、国産化問題等を各国産業界代表(日本からは斎藤電工会原子力政策委員長)とベトナムの産業界代表がパネリストとして討議。約130名が参加した。

▽開会に当たり、タン・ベトナム原子力委員長が挨拶の中で、「安全性向上のための投資は、経済的競合性と相反しないか、原子力発電所は運転と補修で経済性を向上できないか、などの声がある。これらも討議したい」と述べた。

このパネル討論では、主に以下のような事項が質問された。
▽他電源に比べての、原子力発電の安全性や経済競合性の特徴
▽安全研修を体系的に実施すれば原子力安全文化が醸成できるのか
▽ベトナムの人材養成に各国ができる協力
▽初号機建設をターンキイ契約で行うことの長短
▽最も安全な炉型、最も安い炉型はどれか
▽原子力発電所の津波に対する安全性
▽燃料用ウラン確保方策
▽放射性廃棄物管理の考え方

日本主催の行事も開催
<日本セミナー>

5月17日午前、原産協会とVAECが共催し、「日本セミナー」が開かれ、約150名が参加した。わが国の原子力政策と国際協力の方針、原子力発電の実績、最新の技術、安全の確保等を紹介した。時間の制約から、質問への回答をVAECのホームページに掲載することにしたら、17の質問が寄せられた。

ロシア、フランスもそれぞれ自国の技術紹介のセミナーを開催した。

<日本側レセプション>

日本代表団と日本大使館の共催で、大使公邸で招宴を開催。ベトナムの表敬訪問先や関係省庁の幹部30数人が参加。日本関係者は約50名が参加。

日本側代表団がベトナム政府要人に表敬

代表団は、キエム副首相、ハイ工業大臣、フォン科学技術大臣を訪問し、今回官民一体の代表団派遣の意義、日本の原発技術の安全性と信頼性(計画外停止回数では世界最少)、昨年の原子力政策大綱でのアジア協力の位置づけ、ベトナムとの協力の促進について話し合った。

これに対してベトナム側から、今回の片山政務官を団長とする大型官民代表団の来越と日本からのこれまでの協力に対する謝辞、日本の原子力技術への高い評価、2017〜2020年の初号原発運転準備のための人材養成、法整備での日本からの協力の拡充要請などが表明された。


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