[原子力産業新聞] 2006年7月13日 第2339号 <2面>

インタビュー 服部拓也 原産協会副会長 「活力に満ち、頼りにされる協会」へ

――日本原子力産業協会の6月末の通常総会で服部さんが常勤副会長に就任された。昨今、「原産の顔が見えない」とも言われたが、何が、どう変わるのか。

服部 副会長就任にあたり、全職員にメールを送り、仕事の進め方について次の3点をお願いした。第1は、改革の「実行の時」である。過去二年間、幅広く議論を尽くした結果、協会の使命や目指すべき方向は明確になり、組織・体制も見直された。今後は、これまでの議論を踏まえ、その具体化を図る時だ。PDCA(プラン、ドゥ、チェック、アクション)のサイクルでいえば、プランの段階は終わり、“ドゥ”の時。世の中は常に動いているし、原産協会の変革に対する世間の期待に応えるためにも、早く、かつタイムリーに成果を出し、具体的なアクションにつなげていきたい。

第2は、その“ドゥ”にあたって大事なことは「品質」である。責任を明確にし、誰のための、何のための提言か、しっかり目標を定め、常にCS(顧客満足)を念頭に置きながら業務の優先順位、言葉を変えれば“選択と集中”を進めなければならない。その場合、どういう考え方で優先順位をつけるかは、原産協会の独りよがりであってはならず、まずはお客様(原産協会会員を含めた社会)のため、それが原子力産業界全体のためになり、結局、日本のためにつながる。そうした舞台回しの役割を担っている。

第3は、品質を高めるポイントは「コミュニケーション」にある。情報は伝えることによって価値が生まれ、キャッチボールすることによって価値が高まる。原産協会は、コーディネーターであると同時にゲームメーカーの役割を担っている。協会を取り巻くさまざまな組織、機関、個人といったステークホルダーとの連携、協調を強めることで業務の品質のレベルを高めたい。

――最近はさまざまな組織や個人が原子力について積極的に意見を発信、提言するケースが増えた。原産協会の提言がそれらのワン・オブ・ゼムでなく、特別の重みを持てるのか。

服部 そこが正に私の言う「品質」であり、原産協会としてものを言うことに対する「原産クレジット」の問題だ。単に必要項目を並べればいいのではなく、協会としてしっかり意見の言える中身で、かつ、どういう根拠に基づいているのか、説明責任を果たさなければならない。

たとえば原子力発電所の合理的規制については、原産協会には日本原子力技術協会(原技協)という力強いパートナーが存在する。原技協は原子力発電所の安全管理・保守管理のデータを集め、それを一般的に使える形にして、第三者的立場で国や事業者に提供することにより、科学的・合理的規制を目指していくことが求められている。

原産協会にとり、原技協のしっかりしたデータの裏づけが説明責任のバックボーンになる。その意味では原産協会がニーズを出し、原技協がシーズを出し、よく言われるような“車の両輪”となって、うまくかみ合っていくことが「原産クレジット」の信頼性を高める原動力になる。

――「品質」を高める決め手であるコミュニケーションを深めるポイント、および情報発信の仕方・在り方についてはどう考えるか。

服部 日本人はあまりコミュニケーションが上手ではないが、まず、協会内の縦割り組織の壁を崩し、協会内部のコミュニケーションを円滑にして、各部門の協調、連携を深めるようにしたい。同時に外部の辛口あるいは反対の意見を言う人たちとも積極的に交流することが大事である。また、コミュニケーションを図るには、自分自身がそれなりの情報を持っていないと、誰も相手にしてくれない。それぞれのテーマについてしっかり勉強し、自らを高めてほしい。

一方、原子力の情報発信はどうしても教科書的で無味乾燥になることを改めたい。トラブルが起きた際、よく「すべての情報を生のまま出せ」と迫られるが、その意味は、タイムリーに、自分たちの知りたい、ありのままの情報を、分かりやすく提供してほしいということだ。

また、トラブルに関する図面を示す場合にも、単に“概略図”を出すのではなく、相手に分かってもらおうという気持ちを込め、血の通った図面とする意識と努力が必要だ。協会として、産業界の皆さんや一般の方とのコミュニケーションをもっと深める文化を確立していきたい。

いずれにしても、私は「風通しがよく、活力に満ち、頼り甲斐、存在感のある」原産協会となるよう、自然体で組織運営に努めていく。

――ところで、すべてが「新しいステージに立った原子力の今」をどのように見ているか。

服部 わが国の原子力開発の当初から頭の中で考えてきたことと実態とのミスマッチがいろいろなところで起こり、それが停滞の一因になったところは数多い。特に、日本の場合は、原子力がビジネスとして成熟しなかったところに限界があり、国の護送船団方式に守られてきた。しかし、それもままならず、改めてここで再整備、再スタートすることはいいことだ。ただ、“フォローの風”に浮かれることなく、過去の反省の上に立ち気を引き締めて進めていくことが大事であり、またぞろ“バブリーな原子力”にならないような注意が肝心である。

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原子力発電所(東京電力)の“現場”経験が長いだけに、肩肘張ったり、構えるのが嫌いで、仕事のスタイルもできる限りシンプル、自然体をモットーとする。協会職員には、「私の部屋に気楽に来てください。私も職場内をどんどん歩き回る」と宣言。現場経験の乏しい協会内に、アクティブな風を吹き込んでいる。(原子力ジャーナリスト・原産協会嘱託 中 英昌)


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