[原子力産業新聞] 2006年8月3日 第2342号 <3面>

【「原産協会」新体制発足記念座談会】
世界で「原子力ルネッサンス」が加速 “原子力立国”日本の戦略と将来を考える

原油価格の高騰が世界経済に深刻な影響を及ぼすなか、中長期的なエネルギー安全保障と地球温暖化防止が21世紀の世界を律する共通の国家戦略となり、これを同時解決し経済の持続的発展を維持する切り札は、原子力との認識が一段と浸透、米欧での“原子力ルネッサンス”が加速している。同時に、原子力はFBRサイクル等の新技術開発やITER計画等核融合までを包含する総合科学技術として新時代を迎えるとともに、新・国家エネルギー戦略では「原子力立国計画」という標語まで生まれた。一方、これと歩調を合わせるかのように、4月に改組した日本原子力産業協会は、6月に今井敬日本経団連名誉会長を新会長に迎え、「自ら戦略的に行動する団体」とする新体制が発足した。そこでこの機会に、原子力政策を司るキーパーソンと今井会長に参加してもらい、原子力立国・日本の戦略と将来を語ってもらった。(=敬称略)

加納 時男 氏 参議院議員、経済産業委員長
 片山さつき 氏 経済産業大臣政務官、衆議院議員
 森口 泰孝 氏 文部科学省研究開発局長
 今井  敬 氏 日本原子力産業協会会長 日本経済団体連合会名誉会長
 (司会)原子力ジャーナリスト・日本原子力産業協会嘱託 中 英昌

「原子力新時代」への取組み 政治家がリーダーシップ発揮

■ 政治と原子力=加納氏

司会 加納先生は、8年前に経済界代表として政界入り、まさにエネルギー・原子力問題をライフワークとして、甘利明衆議院議員と二人三脚でエネルギー政策基本法はじめ、この5月の自民党総合エネルギー戦略に至るまで一貫してイニシアチブをとってこられました。まず、「政治と原子力」という側面からお話しください。

加納 2000年1月に原子力委員会で、当時の原子力長期計画策定にあたり、政治家の意見も聞いてみようと、当時の6つの政党からそれぞれのエネルギー政策担当者が出席、核燃料サイクルを含む相当専門的な突っ込んだ議論で白熱の応酬となり、「政治家も捨てたものではない」と言われたのを思い出します。そのとき私は、エネルギー・原子力政策について行政が責任を持って推進するのはいいが、政治家がそれを見て、後からいいの悪いのと言っているようなことでよいのかと疑問を感じ、「国の安全保障の根幹にあるエネルギー政策は、国民から直接選ばれた国会議員が国民の見ている場で議論して、政策を決めていくべきではないか」と発言。そのために、例えば、エネルギー政策を議論するための土台として特別委員会あるいは基本法を作るのはどうかと提案したところ、全く予想外に1つの党だけが反対、共産党も含めて他五党は賛成でした。

これがきっかけとなり、自民党内で議論を重ねたうえ自民党と公明党が共同で「エネルギー政策基本法」を議員立法として提出、2002年に成立した次第です。もちろん民主党にもよく説明してありましたので、若干の修正を条件に賛成に応じたため、参議院では88%の賛成多数で通過しました。これが政治と原子力の結びつきの1つかと思っています。

その後、自民党では昨年8月に「わが国原子力の基本政策」をまとめ、これを議論中の原子力政策大綱に反映してもらいました。さらに政治と原子力ということでは今、エネルギー政策の全体的な見直しに取り組んでいます。これは、今年あるいは今年度中に、エネルギー政策基本法に基づく3年ごとのエネルギー基本計画見直しの年になっているので、行政が内容を固める前に、どのようなものを折り込んでもらいたいか、まず政治の場で議論する狙いです。

今年1月から、12の部会、2つの調査会を網羅したエネルギー戦略合同部会という大変大きな組織が政調会長のイニシアチブでスタート、私は、そこの事務局長をやらせていただいています。その中で、原子力は重要なので分科会を設置、大島理森さんに分科会座長を、元科学技術政策担当大臣の棚橋泰文さんに事務局長をお願いして、合計28回の会議を5か月間で行い、181人の議員が何らかの形で参画する、かつてない大がかりな会議になり、原子力政策も含めエネルギー政策を見直し、今後も作業を継続します。

■ 新・国家エネ戦略=片山氏

司会 それでは、片山政務官、ここ数年わが国の原子力は混迷の極にありましたが、その中から立ち上がることができた最大の要因は、原子力産業政策の主務官庁である経済産業省が、例えば、国、電力、メーカーの“三すくみ構造”の打破を主唱、国が一歩前へ出ることで立ち上がり、イニシアチブをとってこられたことにあると思います。「原子力立国計画」を含め、改めてこれまでの取り組みのポイントをお話しください。

片山 まず私どもは今年初めからいわゆる“三戦略”に一生懸命取り組んできました。その中で、骨太の方針の関係で“経済成長戦略大綱”が最も注目を浴びています。しかし、それと同等以上に意義があったのが、新・国家エネルギー戦略で、経済諮問会議にも諮りましたし、閣議決定並みの効力があります。また、自民党の調査会、部会のご意見もほとんど全部反映させていただきました。自民党で長年エネルギー問題を手がけてこられた方々にすれば、ようやく自分たちが言っていることを政府も形にしてくれたなというお気持ちだったと思います。

エネルギー価格が急騰している中で、わが国は地政学的リスクが大きいうえ石油枯渇問題も加わり、今ここできちんとしたエネルギー戦略を打ち出すことは、それ自体意味が大きい。その中身として、私の持論でもありますが、もっと安全保障の観点を正面に出してもいいのではないか。あとは地球温暖化防止問題との一体的解決も必要ということです。

そうした視点から、新・国家エネルギー戦略では、かなり早い段階から具体的な数値目標を入れる方針を決めました。数値目標を20年後、30年後に向けて設定することによって、中長期的に政策がぶれないという意思を強く示すためです。

また、高速増殖炉(FBR)についても2050年の商業炉導入を目指し、核燃料サイクルの実施も明言しました。核燃料サイクルの是非をめぐっては疑心暗鬼も呼びましたが、原子力政策大綱の策定過程で徹底した議論が行われ、ようやく今のような結論になりました。総合資源エネルギー調査会の原子力部会を昨年4年ぶりに立ち上げ、国、電力、メーカー、学識経験者が皆入り、突っ込んだ議論をすることによって、具体的な政策課題について「原子力立国計画」として詳細をとりまとめられたことが、今回の非常に大きなポイントだったと思います。

私が5月に、ベトナムへの官民合同原子力ミッション団長として民間の方とご一緒した際、「ここまでしていただけると、ようやく政府の方針も確たるものになったとの実感が湧き、われわれも長期投資に踏み切れます」という声を聞きました。実際、最近になって国際的な原子力企業買収も浮上、また、お互い共同してやるべきことはやっていこうという話し合いも、これから必要だと言っておられます。


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