[原子力産業新聞] 2006年8月3日 第2342号 <4面>

【「原産協会」新体制発足記念座談会】

FBR国家基幹技術に 第3期科学技術基本計画で

■科学技術基本計画=森口氏

司会 それでは、森口局長、日本の科学技術創造立国の一番の拠りどころは科学技術基本計画にありますが、なぜかその中に今までは原子力という表現が見えず、今回の第3期基本計画でようやく認知されました。これで経産省と文科省という、いわば原子力政策の車の両輪が整備されたわけで、日本における原子力の認識を高め、政策を推進する上で大変大事なことだと思いますが、いかがですか。

森口 最初に若干個人的な経験も含めて、原子力の現状あるいは時代認識ということで申し上げると、私自身は旧科学技術庁に1976年に入り、それ以来、原子力とのかかわりはかなり深く、特に核燃料サイクルについては一貫して推進してきました。私は技術系の出身で、技術屋としての愚直さもあるのかもしれませんが、何を言われようとも、とにかく一途に核燃料サイクルを進めてきたわけです。

そういう中でも山あり谷ありで、直近では、98年、99年の原子力関係の課長当時、高速増殖原型炉「もんじゅ」の事故が起きたこともありますが、「FBRを推進します!」と言って周りを見渡しても、加納先生をはじめ少数の方しか応援してくれませんでした。当時は国会の先生方からも「他国がみんなFBRから撤退する中で、なぜ日本だけやるのか」と詰問されました。われわれは、「みんな撤退するからこそ日本はやるのだ」とがんばったのですが、まさにそういう時代でして、ある意味、厳しい環境下でわれわれは先頭を切って核燃料サイクル路線を引っ張ってきたと思います。

それからめぐりめぐって、今回また、研究開発局長として原子力を担当しましたが、今度は全く様変わりで、今、皆さんからそれぞれご紹介いただいたような努力があった上でのことでしょうが、今度はわれわれの方が引っ張られて、遅れないようにしなければいけない状況になっています。そういう中で、文科省はもとより研究開発を担当していますので、国民の期待に応える意味でも、当面は現在改造工事中の「もんじゅ」をしっかりと立ち上げ、その後も、自民党の報告書にもあるように、その先の計画を前倒しできるよう努力していきます。

一方、お話のあった科学技術基本計画では、ご指摘のように原子力は取り上げられずにきました。ただこれは、原子力は巨大科学技術なので、ある意味、別扱い的なところもあったのではないかと思います。しかし今回は、今年から5年間の第3期基本計画の中で、重点的に取り上げる「戦略重点」として、原子力では3つが対象になりました。1つは、「もんじゅ」等のFBR、それから、高レベル廃棄物の処理・処分、そしてITER(国際熱核融合実験炉)計画、核融合ですね。特に、FBRが国家基幹技術に位置づけられました。国家基幹技術は宇宙輸送システムなど5つありますが、原子力がその1つとして指定された意義は大きく、科学技術の中でも国の総合的安全保障の観点から、しっかり投資もし、予算もつけていく、そういう状況になったということです。

司会 今、FBRと言われたのは、「もんじゅ」までのFBRですか、それ以降の実用炉全て含むのですか。

森口 もちろんFBR全体、FBRサイクル全体です。従って文科省だけではなく経産省も含めて、政府全体としてこのFBRにしっかり取り組んでいきます。特にわれわれの担当するのは、まず「もんじゅ」です。これをしっかり立ち上げ、運転再開させるため、実はきょう7月13日午前中に、経産省・資源エネルギー庁、文科省、電力業界、重電メーカー、原子力機構の5者で、FBRサイクルの実証段階への円滑な移行を目的に初の協議会を開きました。エネ庁と文科省がFBRサイクル関連予算を一体となって確保する方向性を確認、今後も関係者が垣根を超えてFBRサイクルの実現に向け連携していく方針です。

■世界経済と原子力=今井氏

司会 今井会長にはまず、原子力と同様に、ゼロ金利政策の転換という大きな節目を迎えた日本経済と国際情勢についてコメントいただき、そこに原子力がどのように結びつくのかという認識についてお話しください。

今井 経済の問題は、非常に長い低迷期がありましたが、日本も、世界も、今、潜在成長力を上回る経済成長をしている、つまり、拡大期にあるというのが私の認識です。中でも、一番世界経済に影響を与えているのは中国で、国と民間の固定資産投資が25〜30%毎年伸びています。これは大変なことで、例えば、鉄で言えば新日鉄が1〜1.5社分、また電力で言えば、東京電力1社分ぐらいずつ毎年増える計算になります。

その結果、何が起こっているかというと、中国は資源、エネルギーが国内だけでは不足し、猛烈な勢いで海外から買い漁っています。この状況はしばらく続くと考えられ、皆さんのお話からも、日本としては今、安全保障の見地からエネルギー問題をとらえることが非常に必要なときだと痛感します。

もう1つは環境問題ですね。中国は今、国内で石炭を20億トン近く使って発電し、ものすごい環境へのCO2垂れ流しが起こっています。こうしたことを地球規模で考えたときには、京都議定書の枠外にいるアメリカや中国、インドを引き込んだ環境対策が必要で、そこに日本も入って協力することは大変重要なことであり、そういう形の中には必ず原子力が出てくると思っています。そういう意味で、エネルギーの安全保障そして環境対策から、原子力が切り札だという認識が日本のみならず、世界にも広がっているということは、非常に大事で、それに対応して、われわれも種々対策を考えていかなければいけないと思っているところです。

いずれにしても、原子力産業そのものを元気にする政策が絶対必要であり、その点、皆さんの先ほどからのお話を伺い、いろいろな面で対策をきちんと準備していただいていることは、大変ありがたい。私どもも、原子力産業の現場の立場から、また発言することがあれば積極的に発言していきたいと思います。

「原子力立国計画」を語る 国際競争力強化に軸足

■“原子力総合科学”=森口氏

司会 皆さん個別のお話が一巡しましたので、次の「原子力立国計画」論に移ります。ここではまず、先ほど森口局長がお話しになりかけた、“総合科学技術としての原子力”という視点が今後ますます大事になってくると思います。文科省の立場から、森口局長の原子力立国への思いをお話しください。

森口 今まさしく言われたように、原子力の研究利用分野は幅広く、原子力立国イコール原子力エネルギー立国でもないわけです。また、エネルギー利用の面から見ても、必ずしも核分裂のエネルギーだけではなくて、核融合のエネルギーも、タイムスパンは少し長い研究開発期間が必要になりますが1つあって、これは、ITER計画を中心に国際協力でわれわれもしっかり取り組んで行こうとしています。

さらに、エネルギーという意味では、水素エネルギーも関連してきます。高温ガス炉の1,000度C近い高温を利用して水を電気分解し水素が取り出せますが、このほかにも原子力を利用して水素を取り出すいろいろな方法があり、製造工程でCO2の排出を伴わないクリーンな「原子力水素生産」方式として注目されています。水素は夢のエネルギーといわれますが、単独では自然界に存在しない2次エネルギーなだけに、原子力水素生産の研究開発にも取り組んでいきます。

次に、エネルギー以外では、いわゆる量子ビーム技術の研究成果のうち、一番国民に還元されると思われるのは医療分野です。分かりやすい例で言うと、がん治療に重粒子加速器を使って治療すると、外科手術が不要になります。放射線医学総合研究所でかなり研究が進んでいて、成果もあげています。

今、全国の自治体がこの技術に非常な関心を持ち、放医研にある加速器は大規模で値段的にもかなり張るので、もう少し小型で簡便なものが各自治体単位で設置できないかというニーズが高まっています。現実に群馬県などで具体的な動きがあり、これも大きな意味で“立国”だと思います。

また、これから重要なことに、原子力の研究開発や産業の発展を担う人材の養成があります。小・中・高校とそれぞれの教育段階に応じてやっていく必要がありますが、旧文部省と旧科技庁の統合によって効果的に行えるようになりました。教育は、現場が動いていかなければ意味がないので、文科省ではエネルギーや原子力に関する教育現場を支援する交付金を措置し、教員研修などに今年度は33府県まで交付件数が伸びています。

もう1つは、原子力立国計画の中に、「中長期的にぶれない確固たる国家戦略」と書いてありますが、われわれ研究開発する立場からすると、研究開発は非常に足が長く時間がかかるものなので、このことがなにより大事です。

ここまできているので今回は大丈夫だとは思いますが、過去の経験でも山あり谷ありでしたから、われわれも含め、しっかりとぶれないように進めていく必要性を強調しておきたいと思います。

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