[原子力産業新聞] 2006年8月3日 第2342号 <5面>

【「原産協会」新体制発足記念座談会】

■設備利用率改善が出発点=加納氏

司会 加納先生、いかがですか。

加納 原子力立国計画については、経済産業省の事務局からも途中経過をよく聞いてきたし、自民党の中でも議論してきました。自民党の考えている方向と、この原子力立国計画との基本的スタンスは一致しており、ぶれはないと思います。私は、基本的に賛成であり、強力に支持したいと思っています。昨年、原子力政策大綱を原子力委員会で策定、10月に閣議決定したわけですが、これは総論です。自民党としては行政の方に何とかしてもらいたいと思っていたのは、総論から各論へ早く移ってもらいたいことにありましたが、経済産業省は非常に感度よくこの問題に取り組み、片山政務官のお話のように、4年ぶりに総合資源エネルギー調査会の原子力部会を立ち上げ、実に精力的に議論してきました。私は、これを高く評価したいと思っています。つまり、政策大綱は政策としての総論で、そして、これを行政としての各論にしたのが今回の立国計画だと思います。

問題はこれからですね。各論をどう進めるかが大変大事だと思います。政策大綱が総論〔ホップ〕、行政としての各論が立国計画〔ステップ〕、そしてジャンプはこの立国計画の実行というところですね。特に先ほど森口さんからお話がありましたが、FBRサイクルの5者協議会が現実にきょうから動きだしたというのが非常にうれしくて、行政にはしょっちゅう文句を言っていますが、きょうはよくやったと褒めたい、要は、これをしっかりやってほしいと思っています。

ただ、自民党の立場からすると、この立国計画にはまだまだ注文があります。例えば、大綱のときにもわれわれは文句を言ったのですが、「原子力比率30〜40%、またはそれ以上」みたいな相変わらずの表現にとどまっています。私ども自民党では、これでは低いのではないか、もっと高くすべきだとの考えです。

そのときの最大の問題は、設備利用率の向上であり、安全を大前提に、科学的、合理的な規制の実現にあると思います。アメリカの原子力がなぜルネッサンスに成功しているのか、象徴的には60%しかなかった稼働率が90%に上がっていることにあります。原子力立国計画で言う原子力発電比率30〜40%またはそれ以上を実現するポイントの1つは、新規の発注もありますが、まずは稼働率の向上、それから、後から出てくるリプレース、そしてFBR、こんな流れだと思っています。こういう点に、ぜひ踏み込んでほしいと思っています。

安全を大前提に “経済性優位”めざす

■「原子力、元気出せ」=今井氏

司会 今井会長のお考えは。

今井 要するに、原子力立国というのは、「原子力、元気出せ」ということだと思いますが、安全を大前提に、経済性で優位に立たなければいけませんね。今のところ、バックエンドまで含めて、原子力が一番経済性があることになっていますが、今後ともそれを本当に実現していかなければいけないわけです。今回はいろいろ、自民党も、政府も、例えば、原子力発電所の計画から稼働までの引当金あるいは廃棄物の処理の引当金など、原子力を推進する上でのリスクを低くする対策をとってもらっています。これは、原子力の発展のために非常なプラスになると思います。

もう1つ、特に日本の将来発展には、先端技術で日本が世界をリードしていくことが基本条件になります。その意味では、FRBはまさに日本が主導権をとって開発・実用化できる技術だと思いますし、また、現在の軽水炉でも、日本の技術は断然すぐれているのでしょう。ただ、規制のあり方の問題で稼働率が低いという課題はあっても、技術的優位は歴然としているので、今後ともこれを維持しながら、人材を養成して次につないでいかなければいけません。さらに、そういう技術をベースにして、アジア諸国等への原子力協力を視野に、国際貢献につなげていくべきだと思います。

■原子力への財政支援は必須=片山氏

司会 それでは片山政務官、この原子力立国計画論の総括と経産省としての今後の取り組みについてお話しください。

片山 きょうは皆さまから、原子力立国計画の精神、内容や方向性はよし、ようやくやったと評価いただきましたが、問題は目標を達成するための取り組みが現実的に毎年できるかにあります。

まず、産業界部分については、これから原子力発電所を新規に16から18基建設していくわけですが、日本の場合は電力市場を自由化していく中で、電源開発(Jパワー)も含めて民間企業たる電力会社があり、それに、プラントメーカーも民間企業で、しかも複数が競争しています。これはノーマルな市場経済下の活動ですが、海外市場での競争で契約を取りにいく場合は、例えば、韓国にしても、フランスにしても、官民一体となり、事実上一本化してビジネスを展開してきます。

したがって、日本では、そうした自由化の中で、国内でも原子力発電所の新設やリプレースを予定どおりに進めて、「われわれはこんなに事故のない原子力発電を、何年前にはこれをつくって、今年はこれが完成した。ぜひ見に来てください」と言えるような状況を整えることが、わが国の原子力産業の国際競争力を増し、民間ビジネスも原子力により多くのリソースを振り向けることになると考えています。

そのために、これまでいろいろな部会で会計基準、税務基準、減価償却、長期の投資リスク分散といった実務面の協議を重ね、ようやく2006年度中から始められるようになりました。

一方、エネルギー特会については、今春の自民党歳出改革チームでエネルギー予算も対象となり、効率化することになりました。これは自民党が政治の力で行財政の効率化をやった初めての例で、もちろんエネルギーといえどもむだ遣いはいけないのですが、今の社会・経済情勢では、交付金が出せなくなったら原子力発電所の立地は無理だと思います。今年の3月から4月にかけて、プルサーマルの受け入れが相次いで進展した背景にも、率直に言って交付金の効果が大きいと思います。ですから、そういう財政的支援はきちんとしていかなければなりません。

また、地方財政全体が厳しくなる中で、先日訪れた福井県では、県知事以下、地域おこしや産業クラスターを原子力技術を中核にして進めたい、もう単なる原子力発電所の誘致だけではなく、そういう形で打って出たいので、中央の方もそのことを忘れないでほしいとの要望がありました。

福井県内には大きな企業があまり多くはありませんが、福井県でつくっている電力で近畿圏が成り立っているのは事実です。こうした、原子力への理解が深く、新たな地域経済活性化に意欲的に取り組む地域は、しっかり産業政策とマッチさせて支援していかなければいけないと思います。むだは許されませんが、経済産業省としても支援策を十分考えていきます。

それから、地域との関係でとりわけ大事なことは、迅速な対応とトランスペアレンシー(透明性)ですね。地域との信頼関係さえしっかりしていれば、定期的な新規発電所の建設やそれに続くリプレースが主要先進国の中でも一番日本は継続されるものと思われますので、それが国際セールス上も最大の強みとなります。また、原子力発電所の稼働率の問題は、先ほど加納先生が言及されたように、まだ改善の余地は大ありです。特に国際競争力の視点からは、稼働率の向上を政策面でできる限りサポートしなければならないと思います。

「原産協会新体制」への期待・注文 “日本版NEI”のリーダーシップを

■会長就任のいきさつ=今井氏

司会 それでは、最後になりましたが、「原産協会新体制」の項目に移ります。まず経団連会長も歴任された今井さんが、まさに産業界を代表するような形で原子力団体の会長就任をお受けになったいきさつに関心を持つ方が多いと思います…。

今井 私自身は、先ほどからのお話に出ていたように、地球環境問題でCO2排出削減の数量目標を設定した京都議定書の議論の際に、経済と環境の両立という見地からずいぶん政府にもの申したのですが、その中で原子力発電を増やしていくことは非常に重要な政策課題に入っていました。ところが、現実にはそれが一向に進まなかったわけですね。ですから、そうした問題に対して以前から非常な危機意識を持っていました。

加えて、最近の中国の動向から見て、日本のエネルギー安全保障の先行き懸念が高まり、その解決策は原子力しかないことを痛感しています。また、原子力発電は本来、安全なはずなのに不安感があり、国民の安心という点では非常にまだ問題があると感じています。このように、私自身もともと原子力に高い関心を持っていました。そうしたおり、東京電力顧問の荒木浩さんはじめ、いろいろな方に新協会の会長就任をこわれ、お引き受けした次第です。

また、旧原産会議では、理事の数が90〜100人と多く、なかなか意思決定ができない状態でしたが、今回は20人以内に削減して迅速な意思決定を可能とし、新しい原子力産業協会として積極的に提言もするし、合理的規制問題も扱い、種々情報発信していく。こういった体制に、私が入る前に改組されたこともあり、それで十分にやれると意を強くしました。


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