[原子力産業新聞] 2006年8月3日 第2342号 <6面>

【「原産協会」新体制発足記念座談会】

■「原子力立国」成否のカギ握る=加納氏

司会 原子力が新しい時代のスタート台に立つ今、原産協会が「自ら戦略的に行動する団体」に生まれ変わり、今後どのような成果を挙げていくかが注目されます。皆さんそれぞれのお立場から、新協会、今井会長への期待、注文等をお話しください。

加納 新しい原子力産業協会(JAIF)の発足に際し、3つほど期待したいことがあります。1つは、今井新会長のリーダーシップです。日本で旧原産会議が生まれたときの初代会長は、電事連会長で東京電力会長だった菅禮之助さんでした。その後、原産会長は主に学界出身者が長いのですが、今井さんはまさに企業人、純粋な経営者です。しかもご自分の企業(新日鉄)を世界一流の企業にされただけではなくて、日本の鉄鋼業界を世界のトップレベルに押し上げ、経団連の会長も務められました。トップとしての見識、指導力は、どなたが考えても最高の方であり、下からの積み上げでなく、問題点をぱっとつかんで、トップダウンで処理していかれる会長のリーダーシップに大いに期待したいと思います。

2つ目は、私は、アメリカで原子力ルネサンスに成功した要因の1つに、NEI(原子力エネルギー協会)の存在があると思いますし、そのNEIが果たした役割をぜひ原産協会に反映していただきたいことにあります。NEIは政界とのロビー活動に加えて、原子力業界の抱えている問題の整理、課題の発掘、解決方法の提案を、企業の経営者、大学教授、メディアで活躍した人等、幅広い層からスカウトして、戦略チームをつくって取り組んだことが大成功でした。例えば、いろいろな形で定期的に世論調査をし、その結果を直ちに公表、とにかくどんどんメディアに提供して、メディアもそれを報道、それによってまた世論が変わってくる、こういうやり方で、あの落ち込んでいた原子力支持が完全に復活しました。

また、原子力の品質管理、運転管理の改善に非常に貢献したINPO(原子力発電事業者協会)、そして、NRC(原子力規制委員会)がアメリカの科学的、合理的な規制への変革、電気事業経営者の自己革新を実現しましたが、その背景にはNEIがこういったところに全部働きかけ、緊密な連携をとったことが成功の一大要因といわれます。もともと、旧原産の改革では、原産会議を協会にして、行動する団体、“日本版NEI”になってもらうことが、多くの原子力専門家たちの夢だったわけです。それが今回、実現したわけですから、NEIがアメリカで果たしたあの素晴らしい役割をぜひ日本で再現していただきたい。

3つ目は、この原産協会には膨大な潜在力があると私は思います。というのは、会員に研究機関、メーカー、商社、電力会社など、さまざまな関係者が入っています。ですから、これがまさにトップのリーダーシップのもとにNEI方式のいいところを取り入れて、こういった膨大な潜在力を組織化していけば、大変な力を発揮するのではないだろうか。先ほどの原子力立国計画、これから各論をどう実行するかが焦点ですが、その実行の成否のカギは、実は新しい日本の原産協会が握っているのではないかという気さえします。

「原子力産業行動憲章」策定へ 事故防止の決意を表明、襟正す

■国際ビジネスはウィン・ウィンの関係を=片山氏

片山 旧原産は、今までもこの分野の政策について素晴らしい貢献をしていただいていると思います。また今回、今井会長のような、事実上、日本の経済界を長年リードしてこられた方がトップに就いていただけることで、さらに期待したいのは、原子力産業の国際競争力を考えると、今井会長に国際会議の場でご発言いただくこと自体が、業界の信用といいますか、国際的なプレゼンスを非常に高められるわけですね、アンバサダーのような意味でですが。

それから、私が5月にベトナムに行ったときにも、先方の関係者からも言われたのですが、先ほど申し上げたように、日本の場合は関係者が全部民間で、電力自由化の中で原子力をやっています。そのことが強みになる場合もあるでしょうが、ただ、競争ですからね。

原子力発電は、これから中国、インドネシア、ベトナム、あるいは、その次ぐらいの国も含めアジアでどんどん広がっていく中で、わが国としては、そのネットワークを東アジアに日本のイニシアチブで広げていく上で、ビジネス面でわが国も利益を得たいし、先方にも利益を与えたい。この「ウィン・ウィン」の関係をつくっていきたいし、できるわけです。

それを実現する上で、フィージビリティ・スタディ段階に入っていくと、原子炉の型式等がだんだん決まってきます。そうすると、日本の場合は3つぐらいの原子力プラントメーカー群があり、相手国もそれをみんな知っているわけです。そうなったときに、どう考えても日本の方がいいのですが、どっちにしようかなどと言っている間に、安い韓国に商談をとられてしまうようなことになると、大変もったいないですね。

そうならないようにするために、もちろん私どもも最善の努力は払いますが、民間でそういった知恵をうまく出していただけるようなことを、原産協会に期待しています。

■“長年の人脈”で国際貢献を=森口氏

森口 旧原産会議当時から、私も旧科技庁に入って以降、相当なおつき合いがあり、大変お世話になっています。そういう中で、例えば、原子力の反対運動が盛り上がった時期には原産の方々と一緒に対応したり、いろいろ協力しながらやってきましたが、若干、受け身的なところもあったのかなと思います。

そういう意味で今回、積極的に行動する協会、政策提言をする協会に変わったことに、非常に大きな期待を持っています。われわれとしても、今井会長のリーダーシップのもとでぜひ積極的に政策提言していただきたいと思います。

個別具体的なテーマとしては、東南アジアを中心とした国際協力面で、原産はこれまでいろいろ貢献されてきました。特に、役所の場合は数年で担当者が変わりますから、そういう意味で、長年にわたる人脈で、安定的、継続的に取り組む点については、ぜひ今後もしっかり力を入れていただきたい。また、エネルギーだけではなく、先ほど申し上げた、放射線利用とか教育とか、そういう面でも原産協会は非常に力がありますので、ぜひ引き続きやっていただきたいと思っています。

■国民の完全な支持が前提=今井氏

司会 今井会長、今、皆さんのお話で新原産協会への期待の大きさが分かりますが、これを受けての感想、今後の取り組み方針についてお話しください。

今井 まだ会長に就任して間もないので、今、勉強している最中ですが、とにかく何と言っても原子力の周辺の環境がよくなっていますから、そういう中で原子力産業がもっと元気を出せるように、いろいろな面で行動していきたいと思っています。ひとことで言えばそれに尽きますが、そのためには、先ほどからの繰り返しになりますが、地道に国民に完全に支持されるようなことをしていくことが基本だと思います。

司会 ところで今井会長ご自身、日本の原子力の在り方について少し厳しいご意見をお持ちだと伺いましたが、どういうことですか。

今井 私は原子力界の外にいて、原子力の問題で一番感じていたことは、原子力が大事だということは、だいたい皆さん、お分かりなんですね。また、原子炉そのものも、何重にも防御され、いろいろなリスク対応がとられていて、現実に日本では原子炉本体そのものの事故は全く起こっていません。ですから、そういう意味で、原子力は本来、安全なはずなのです。それなのに、なぜあのようないろいろな事故が周辺で起こってしまうのかと、非常にもどかしく思っていました。

今回、原産協会の名誉会長に就任くださった中曽根康弘先生も言っておられましたが、原子力は安全なはずなのに不安感があるのですね。国民の安心という点では非常にまだ問題があるわけです。ですから、そこを地道に詰めていかないといけないと思います。

ですから、私は今、原産協会には、会社だけでなく、地方自治体も含め400以上の会員を擁していますが、まずは原子力に従事している会社が、原子力は非常に大切なるがゆえに、この分野では附帯部門といえども「絶対事故は起こさない」という決心をしなければいけないと思います。

「原子力を元気にする」には、まずそこから始まらないといけません。要するに、絶対事故を起こしませんという決心のもとに関係者が努力して、その上で、いろいろな振興策につながり、地元にも納得してもらうわけで、その辺の一番の基礎から入っていかなければいけないのではないかと思っています。

司会 今井会長のそうしたお考えを具現化するよい方策はございますか。

今井 何よりもまず、原子力産業界自身が襟を正し、自覚をもって行動する規範が必要で、「原子力産業行動憲章」を策定し、産業界が一致協力していくことを検討中です。

司会 本日は原産協会新体制発足に合わせ、大変有意義かつ内容の濃いお話し合いをいただき、本当にありがとうございました。


Copyright (C) 2006 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.