[原子力産業新聞] 2006年8月31日 第2345号 <2面>

「原子力情勢の今」を読む 原産協会理事に聞くA
東京工業大学原子炉工学研究所教授 鳥井 弘之氏 社会から孤立しないために

――鳥井さんと原子力との出会い、現在の問題意識を聞きたい。

鳥井 大学時代に故向坊隆研究室に籍を置いていたため、向坊先生からしょっちゅう原子力の話を聞かされていた。また、日経新聞社に入社してすぐ科技庁の記者クラブに配属となり原子力長計の記事を書き、さらに、論説委員として原子力委員会でバックエンド問題等の話を聞くうち、いろいろ問題はあるが、日本の将来を考えると原子力しかないとの感を強めた。

ただ、日経時代から科学技術全般を担当、原子力は宇宙、産業技術などと並ぶ1分野で、今もそれは変わらず、いわばジャーナリストの延長として大学教授をしている形だ。その中で、私が一貫して強く追い求めてきたのは「科学技術と社会はどういう関係にあるべきか」である。科学技術のお蔭で社会は変化するが、どういう社会の中で科学技術が育つかで科学技術の方も変化する。

例えば、ダークスーツを着て、終身雇用制の官僚的社会でコンピュータ技術が進化すると、IBMの汎用機のような、大型で専門家しか使えない形に発展する。ところが、ジーパンをはいた学生たちの間で進化すると、パソコンになり、一般に普及していく。同じ要素技術を使いながら、行く方向が全然違ってしまう。

そういう視点に立つと、原子力ももっと広い社会とのやりとりの中で進化してこなければいけない技術だったと思う。ところが、現実は、まず国=権力、その次が電力会社という非常に特殊な社会に限定されてきた。本当にこれでいいのかとの思いが強い。

そもそも、原子力エネルギーは電力会社しか使えない、縁のない技術なのか。現実はそうだが、それは電力会社にとって望む格好で最適化されてきたためだ。今は1発電所が百数十万kWという大規模で、その分、送電コストが高くつく。また、技術の中身は、電力とメーカー以外だれも知らなくていい格好になってしまった。

――社会と原子力の関係はさまざまな試練を経てリーズナブルな方向に向かいつつあるのでは。

鳥井 昨今、原子力が厳しい“冬の時代”に直面していたことで、原子力界にも危機感が高まり、社会の理解を得ないといけないとか、情報公開を進め透明性を高めるといった努力が見えた。しかし、幸か不幸か「原子力ルネサンス」、「原子力立国計画」の風が吹いてきたことで、昔の状態に逆戻りするのではないかと非常に危惧する。

原産協会の役割は、原子力技術と社会が共にダイナミックに発展していく仕組みをつくることにある。そのカギは、今後の電力業界の対応次第だ。私は、「社会から孤立した原子力」にならないための目付け役。電力業界は傲慢にならずに、「冬の時代」の謙虚さをさらに追及してほしい。

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[略歴]1967年、東京大学工学部工業化学科‐電気化学卒、同修士課程終了後、日本経済新聞社入社、論説委員兼日経産業消費研究所研究部長を経て、02年から現職。


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