[原子力産業新聞] 2006年9月14日 第2347号 <2面>

「原子力情勢の今」を読む 原産協会理事に聞くC
1次エネ中のベストミックス 日立製作所 電力グループ技師長 河原 ワ氏

――長年携わってきた原子力技術の視点から現状をどう見るか。

河原 「原子力ルネサンス」は、アメリカの話で、日本はバブル経済崩壊を境とする「“原子力の失われた10年”の終わりの始まり」が今だと認識している。ではこの間、原子力発電所の新規建設が激減したことで技術的にも停滞したかというと、原子力の技術レベルが落ちたとは思っていない。特に、原子力は他電源に比べ安全性と経済性が厳しく求められるので、われわれは絶えず先端技術に挑戦しており、技術レベルを維持・向上させているという認識でいる。ただ、ビジネスが落ち込む分、研究開発などへのリソースの投入も落ちざるをえないため、結果としてマクロで見れば技術力は落ちてくる。この克服がひとつの課題だ。

一方、原子力の発電比率が3割を占めることで成熟段階に入ったという見方もあるが、私は日本の将来を考えたらフランスのように70〜80%が原子力でいいと思う。なぜなら、電力は1次エネルギーに占める比率は約40%(資源供給ベース)。電力以外に使用する1次エネルギーは輸送や民生用エネルギーであり、その大半は石油などの化石エネルギーである。1次エネルギーのベストミックスから考えれば、電力は物理エネルギーである原子力でまかない、化石エネルギー資源は貴重な化学原料資源として残すべきだ。

では、原子力に問題が起きた場合のセキュリティーが心配になるが、そこは、「“原子力の中のベストミックス”で対応可能だ。大規模電源だけでなく、中小型炉や負荷追従との組み合わせ、あるいはPWRとBWRとの組み合わせも日本としての原子力の中のベストミックスであり、どちらかに問題が起きた場合のリスク分散になる。また、両タイプがあって、お互いが競争しないと技術は進歩しない。

――原産協会も新体制となり、当面の課題は。

河原 まずは、既設原子力発電所の稼働率向上、高経年化対策などの推進が重要だ。とりわけ原産協会は昨年発足した原子力技術協会とペアで機能することが当初からの期待であり、はじめてその両輪がそろった。この両輪に一刻も早く“車軸”を通して制御されたひとつの方向へ前進できるようにすべきだ。そのためには、車軸は、強くかつ柔軟性に富んだものでなければならない。

さらに、原子力に対する言いようのない不安感の主因は放射線にあり、この説明責任は原産協会の大切な役割だと思う。最近では、地球構造の中にあるウランやカリウム、トリウムなどの放射性物質から放出される崩壊熱がなければ、地球はすでに冷え切っていて人類などは存在していなかったという研究結果も出されている。同時に、放射線利用によるがん治療技術も進歩し大きな成果を挙げつつある。こうした利点を基本に戻って地道に根気よく説明、理解を求めていくことが肝心だと思う。

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[略歴]1967年、京都大学工学部原子核工学科修士課程中退、日立製作所入社、理事原子力事業部長、常務電力・電機グループ技師長を経て、04年から現職。


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