[原子力産業新聞] 2006年9月21日 第2348号 <2面>

「原子力情勢の今」を読む 原産協会理事に聞くD
PWR世界戦略を独自展開 三菱重工業 執行役員 原子力事業本部副事業本部長 井上 裕氏

――原子力をコアビジネスの一つとする三菱重工から見た、原子力の今後と世界戦略を聞きたい。

井上 三菱重工はこれまで、加圧水型軽水炉(PWR)メーカーとして国内の原子炉55基のうち23基を建設してきた。従って、まずこれらの安全と安心の確保に全力で取り組むことが基本と考える。また現在、泊3号、敦賀3、4号、計画中の川内3号も控えており、こうした国内ビジネスを大事に、2030年頃からのリプレースの建設に取組む。

リプレースが始まるまでの間は、海外の原子力プラント建設に携わることで三菱としての原子力技術の維持・強化を図りたい。国内のPWRは三菱独占と言われるが、グローバルに見れば、過去には約6社による厳しい競争があり、現在の日米仏3社が残った。このうち、米WH社とは約50年にわたる技術協力の歴史もあるだけに、今後とも良きパートナーでありたい。また、仏AREVA社ともEPR向け原子炉容器供給等の関係もあり、今後さらに協力関係を深めたい。三菱は、PWR向け原子炉設備、タービン、燃料の設計、製作から建設までのすべてを供給できる世界唯一のメーカーであり、これが強みだ。

今後の世界戦略は、30年頃までに数十基の新設需要が見込まれる米国向けに三菱が独自に開発した最新鋭の軽水炉「US‐APWR」を投入、11年末までに型式証明を取得、13年頃の着工を目指している。同機は、出力(170万kW)、熱効率とも世界最大で、安全性、建設工期、建設費でも世界トップレベルにある。同時に、米国市場での独自戦略を推進しており、取替用上部原子炉容器や蒸気発生器を多数輸出する等、原子力ビジネスを拡大してきた。このため、7月に原子力専業の新会社MHI原子力システムズを設立、当面、私が社長を兼務した。

――では、今後最大の戦場となる国内リプレースでのポイントは何か。

井上 次期軽水炉としてどのような炉型・技術が採用されるかが焦点だ。三菱のUS‐APWRはさまざまな改良が施されており、経済性で世界トップレベルにあるだけでなく、安全性でもEPRに対抗できる日の丸原子炉で、国内のリプレースプラントのベースになり得る。将来的には、日本でもぜひ採用してほしいと願っている。

また、PWRは60万〜170万kWまで各種の炉型を提供できるのが特色で、今、100万〜120万kWの新型PWR原子炉も開発中だ。これもリプレース向けに提供でき、ユーザーの電力需要や送電網規模に合わせた品揃えができると思う。

さらに、「原子力立国計画」で、ブレない政策の軸としてFBR商用化への長期展望が明確になったことは大変ありがたい。当社は「もんじゅ」等のFBR専門技術者約40人を抱え続けてきただけに、彼らのモチベーションも大いに高まっている。当社全体として、原子力従事社員数3,000人規模を今後も維持したい。

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[略歴]1970年入社、神戸造船所原子力営業部長、原子力事業本部原子力部長を経て05年から現職。


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