[原子力産業新聞] 2006年9月28日 第2349号 <2面>

「原子力情勢の今」を読む 原産協会理事に聞くE
安全確保に責任と誇りを 中部電力 副社長 伊藤隆彦氏

――長年の原子力発電所の現場経験から、原子力立国へ向けて今大事なことは何か。

伊藤 わが国では今回、「原子力立国」の道筋と国、電力、メーカーそれぞれがしっかり理念、目標を共有しながら役割を果たす方向が明確に示された。とはいえ、原子力の安全性がはっきり世の中に認められ、「原子力に任せても大丈夫」という大筋の理解・合意が得られないことには、いくら高い目標を掲げ、必要性を強調しても画餅に過ぎない。この点、振り返って現状を見ると、私どもが不祥事や事故等で失った信頼回復はなお道半ばで、今後とも一歩一歩着実に固めていかねばならない。

そのうえで、世界ではGNEPやGenWなど次世代技術の開発が国際協力の形で動き出しつつある。その中で日本は、世界に冠たる原子力立国として継続してきた技術蓄積があり、それを世界標準として通用するところに持っていかねばならない。それには国際協力が不可欠で、国、研究開発機関、メーカーの役割が主体ながら、電気事業者はこれまで蓄積してきたノウハウで側面協力していく。もう一点、核不拡散問題でも日本が世界の模範国として協力していくことが、将来に向けて大事な部分だ。

私は、浜岡原子力発電所の現場に通算14年間勤務、設計、建設、運転管理から地元対応まで一通り携わった。その経験から、安全の基本はまず技術がしっかりしていることが当然ながら、そのためには、「これで安全は十分」ということは決してなく、常に見直し、磨きをかけていくことが肝心だと痛感している。世界には、大先輩の原子炉から新しいものまでいろいろあるが、人間と同様、大先輩が何をどうやり、どういう状況にあるかの経験・知見を共有しながら、慢心することなく常に見直していかないと、これで十分と思った瞬間におかしくなる。技術とはそういうものだ。

――そうした技術的課題をクリアしていくための条件は。

伊藤 大事なことは、原子力に携わっている人たちが上下、左右とも組織内の風通しをよくするとともに、何よりも、安全は一人ひとりがきちんと守っているという責任感と誇りを持たないといけない。そこにある組織のトップが、そういう環境を育み維持していけば、安全はそう簡単に揺らぐことはない。

ただ、そうした安全を守る努力が世間の人にも分かってもらえないと、ひとりよがりになる。原子力は安全の仕組みや放射線の説明をいくら十分尽くしてもそれだけでは納得してもらえず、語る人、携わる人への信頼があってこそ初めて言葉も通じる。それには日々の取り組みをガラス張りにし、どう見せられるか。情報公開という一方通行ではなく、「何を知りたいのか。どこが不安か」、それに透明性をもって答えていくことが原点だ。そうした安心の基盤を広域で確固にし、「社会と原子力の橋渡し」の役割を、原産協会に期待したい。

- - - - - - -

[略歴]1964年東京大学工学部電気工学科卒、中部電力入社、浜岡原子力発電所長、取締役・浜岡原子力総合事務所長、常務・発電本部長を経て05年から現職。


Copyright (C) 2006 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.