[原子力産業新聞] 2006年10月19日 第2352号 <3面>

オーストラリア 首相ら原子力導入に意欲 タスクフォース報告書は年末

原子力発電の導入を検討しているオーストラリアで、検討を担当する政府タスクフォースの報告書を待たずに、J.ハワード首相をはじめとする閣僚からは、早くも原子力発電導入を支持する声が高まっている。

タスクフォースは、同国の長期エネルギー戦略を見据え、ウラン生産から原子力発電、核燃料サイクルまで総合的に検討するもので、首相自身が今年6月に設置した。報告書案を来月までに作成し、国民各層から意見を募集した後、年内に最終報告書を作成する予定だ。しかし首相は15日、テレビ・インタビューに応え、原子力発電を導入する強い意気込みを表明した。

首相は「地球温暖化に真剣に取り組むならば、世界有数のウラン資源国として原子力発電という選択肢を検討すべきだ。環境派が原子力発電に反対するのは理解に苦しむ」と述べ、温暖化防止に寄与する原子力の役割を強調。温暖化問題に対し、「原子力が唯一の解決策とは言わないが、原子力が欠かせない」との認識を示した。

ハワード首相はこれまで、経済的に成立するならば原子力発電も検討するとの立場であり、ここまで鮮明な原子力支持の姿勢を打ち出したのは初めて。

また、最近フィンランドの2か所の原子力発電所を訪問したA.ダウナー外相も、「原子力発電は非常に現実的な選択肢だ」とコメントするなど、オーストラリアに原子力ルネサンスの波が押し寄せている。

翌16日にシドニーで開催された環太平洋原子力会議(PBNC)では、I.マクファーレン産業・観光・資源相が、原子力を「CO2排出量の削減を達成できる唯一のベースロード電源」と定義し、「原子力はオーストラリアの経済成長と環境影響との間で広がるギャップを埋めるもの」との見解を示した。そして10年以内に原子力発電所建設計画を立ち上げるとの考えを明らかにし、「事実に基づいた、冷静な議論が必要」と感情的な反原子力運動を牽制した。

ほかにもPBNCでは、世界原子力協会(WNA)のJ.リッチ事務局長が、「(政治的要素を考慮しなければ、)オーストラリアは2015年までに原子力発電を導入することが可能であり、燃料加工サービスを実施して輸出国としても活躍しうる」との可能性を提示。環太平洋原子力協議会(PNC)のC.ハーディー副会長は技術的観点から、「オーストラリアには原子力発電所の立地に適したサイトが多く存在する」との見解を示し、候補サイトとしてハンターバレー、クイーンズランド、ウェスタンオーストラリアなどを挙げた。

オーストラリアは世界有数のウラン資源国でありながらも、原子力発電を導入していないため、1人あたりのCO2排出量は世界でもトップレベルにある。またウラン採鉱・製錬分野には力を入れているが、燃料加工は実施していないため、「2015年までに年間あたり20〜30億ドルの外貨収入のチャンスを失う」(豪サイレックス社)との試算もある。こうした「異常事態」(リッチWNA事務局長)が今後も継続されるということは考えにくい、というのが共通の認識のようだ。

一方、野党労働党のK.ビーズリー党首は16日、原子力政策についてコメントし、「原子力発電は廃棄物問題を生じる。あくまでも風力や太陽光など再生可能エネルギーを追求するべきだ」との考えを示し、ハワード政権との対決姿勢を明らかにしている。


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